第22話 証拠を持って
ビールの3本目を飲み終えて、いつの間にか息子と昼寝をしていた。こっちには音声データがある。これで責められる、女を。会わせないようにするか、AOIに直接この事実を叩きつけるか。どちらも有効な気がする。AOIが作る音楽は好きだけれど、人生の方まで興味はないし不倫女と婚約していいのか? 有名人が。
だるいな……また飯の用意かって思って身を起こす。最近はネットで不倫相手への報復方法ばかり検索している。
もっと女を直接苦しめたい。
ラーのレーベルに言うぞって言って、脅して別れさせるとか? でも夫との関係は続けさせる。ていうか、そもそもふたりってどういう神経して会ってえっちしてんのよ。なんでそれで満足してんの? 不倫ってそんなもんなの?
とにかく女を操りたいし、苦しめたい。冷静じゃいられなくなるぐらいに。わたしは息子がテレビを見るなか、ケータイで録音した音声を聞く。
「ゆり、会いたかった」
「嬉しい」
「大学どうやった?」
「やっと今日で全部終わったよ。あんなに大変やったのに、なんか寂しいねんなあ」
「ほんまあ」
キスする音が聞こえる。
「はあ〜やっと会えた」
「昨日も会ったやん」
「ずっとおりたいもん」
「わたしも」
いやらしくキスする音。
「大丈夫なん? こんなに会ってて」
「うん、関係ない。とめられへん」
「ん……あ、類斗……恥ずかしいよ」
「わあ、綺麗。もっと俺だけ見て?」
「うん……」
「あかん、とまらん……」
「類斗、あかんって駐車場やで」
「どこでも、ゆりとはやりたい」
「もーなに言ってんのよ」
「愛してる」
「わたしも」
「ジェットコースターの最後のくだりで好きなやつ叫んだら叶うって、文香が言っててさ、俺叫んでん。だから叶ったんやな」
「ほんまやな」
……ジェットコースターかあ。わたしも乗ったやつか。確かに、叫ぶと叶うという噂があった。わたしは当時の同級生、1番イケメンの男子の名前を友達と一緒に叫んだ。
ゆっくりとじわじわいくか……でもこのままだと、女は東京に行ってしまう。それだけは阻止しないといけない。阻止するためにはやっぱり脅す必要がある。
飲み終えた4本目のビールを水道でゆすぐ。乾いた音がする。わたしは味噌汁を作り終え、炊飯器をセットした。
「明、行こうか散歩」
嬉しそうにする。にこって。靴下を履かせて、靴も履かせる。わたしはケータイが入っているか、カバンの中を再度確認する。あった。
女の家に向かう。息子は夢中で花を触る。だけど、だれも出てこないいくら待っても。まあ、想定内。花をむちゃくちゃにしちゃったから謝りたいって言ってインターフォン押すか。わたしは迷わずに花をむしりとる。色とりどりの花を。息子は一瞬驚いた表情をしたあと、笑顔になり真似て花を掴む。
それからインターフォンを押す。
「こんにちは、近所のものなんですけど、ごめんなさい。子供が花をむちゃくちゃにしちゃって……」
「はあ、ちょっとお待ちくださいね」
玄関が開く。けれど、そこには女ではなく年配の女性が現れた。化粧っけもないが、こぎれいで綺麗な人だった。
「すみません、本当に……」
想定外だった。あれ? 女は?
「わー派手にやったんやね、ははは。大丈夫ですよ、お気になさらず。娘からは聞いてますから」
「どうもすみません。あの、その娘さんは?」
「娘? ああ、ゆりは東京よ、ついさっき昼ぐらいの新幹線で行ったわ」
「え、どうしてですか」
わかっているのに質問する。
「ちょっと用事があってね……」
ずけずけと質問するわたしに少しだけ警戒し出したようだ。ちぇ、もう行ったのかよ。使えねえ、女だ。でもそうしたら、ふたりが会うことはなくなる?




