第19話 お祝い
それから息子と定期的に、女の家に散歩に行った。偶然を装いながら。女は変わらず、わたしたちを受け入れてくれる。息子は嬉しそうにしていた。
じわじわと女を苦しめたい。
相変わらず、ふたりは会っているようだった。だけど、突然会わなくなった。そして女の家から女が出てこなくなった。息子も寂しそうにしていた。
それと同時に、夫の元気もなくなっていった。もちろん家のこと、息子のことには一生懸命で仕事も遅くまで頑張っている。それなのに、わたしにはわかる。
「大丈夫? 最近、なんか元気ないけど」
「そんなことないけど……」
と言って、サラダを食べる。ずっと遠くを見ている。
「奏也くん忙しいん?」
「え?」
「ボールも蹴りに行かへんし」
「ああ、なんか結婚の準備があるみたいで」
「そうなん?」
「そう……なんか感慨深いわ」
「お祝いしやな」
「せやな……あ、そうそう今度お祝いすることなっててさ。ごめんやけど夜でかけるわ」
「いつ?」
「来週の土曜かな」
わたしはカレンダーを見る。
「何時から? どこでやんの?」
「えーっと」
夫がケータイを確認する。
「駅前のいつもの居酒屋。18時からやったかな」
「へー楽しんできて」
絶対にあの女も来る。驚かせて、そして見せつけてやろう。わたしたち家族を。あんたが絶対に手に入らない、家庭の幸せを。
息子がこぼした味噌汁をさっと拭ってくれる夫。
「ありがとう」
「いや、俺がおるときだけでもさせて」
小さなため息が出る。どうしてこのままこの家庭を続けさせてくれないの。乗り越えろってこと? でもどうやって。女に会って、地獄に叩き落としてやりたい。でも幸せなママを演じながら。
土曜日の朝になっても女に会わなかった。来ないのかな? って思っていたら、夕方にキャリーケースを押した女に会った。
「こんにちは」
「あ、こんにちは」
息子は嬉しそうに女に近づく。
「通ってもいないから、明斗さみしがってましたよ。お出かけですか?」
「卒業旅行に行ってたんです」
「えーどこにですか?」
「ハワイ」
「え、いいなー。さすがお金持ち。お友達と?」
ぐいぐい質問するわたしに少し顔を引きずらせている。
「まあ……」
少し寂しそうな顔をする女。
「すみません、ちょっと疲れてて」
「あー呼び止めてごめんなさい」
「バイバイ、明斗くん」
女はキャリーバッグを押しながら、玄関から中に入って行った。なに海外旅行? まじでレベルが違いすぎる。でも夫とではなくてよかった。さすがに行けないよね、と思いながら息子を見守った。




