第11話 引っ越し
O県で早々に就職が決まった夫と両親に報告もして、結婚の許しが出た。わたしは大学卒業手前に出産。なんとか卒業までいったけれど、もちろん親や周りの助けなくては無理だった。
そんな親よりも驚いていたのは、恵吾だった。どんどん膨らむわたしのお腹をまじまじと見に来た。だけど、ただ見るだけ。俺のじゃないからね感しかなかった。あんたのかもしれへんけど、ちゃうからなってこっちこそ思ってるわ! って悪態をつきたくなった。
とにかくつわりが辛かった。 食べても食べなくても気持ち悪くて、頭も痛くて、お腹も重くなって行って、貧血になって薬も飲んで。
わたしの家に定期的に来てくれた夫は優しかったし、眩しかった。なにしてんだろわたしって、毎日思った。検診にも毎回、夫は一緒に行ってくれた。エコーを見ながら嬉しそうにする夫。
家族で引っ越しし、それからふたりのアパートを契約。平凡な家で、築年数が30年ぐらいだったので家賃は安かった。そこへ先に夫が住み始め、仕事も始まった。慣れない環境なのに、夫は仕事終わりに実家に会いに来てくれた。休みには、地元のサッカー仲間とボールを蹴ることもあるようで、笑顔もどんどん増えた。こんなに笑う明るいひとやったんやって内心思った。
生まれてすぐ顔を見て、ふたりで決めた名前は明斗。ふたりで考えた名前だ。嬉しい。アパートにわたしも引っ越した日に夫が役所に出生届と婚姻届けを同時に提出しに行ってくれた。これで夫婦、家族になれた。絶対になにがあっても、夫を離さない。
A市に戻ってくると、わたしもホッとした。小さな明斗を連れて友達にも会いに行ったし、家に来てもらったりもした。
「えー家事してくれんの? めっちゃいいやん」
「憧れるわ、イケメンやし」
友達の香織と祥子が今日は来てくれている。小学校からの友達。ふたりとも地味だけど、優しいし、一緒にいると安心できる。ふたりからお菓子と、明斗におもちゃをもらった。
「香織彼氏とはどうなん?」
「え、彼氏できたん?」
「街コンでなー普通のひとやで、3個上の。まあ優しいかな」
ふたりの話を微笑んで聞くけど、頭の中では明斗のスケジュールでいっぱいだった。授乳して、そろそろおむつを替えないと……、あ、寝させないと、とか。気が短くなった気もする。早く帰ってくれーって思ってるのに、なかなか帰ってくれない。ここはカフェじゃないんだぞって言いたくなるけど我慢。
「ああ、帰るなーごめんごめん、また来るね」
「じゃあね明くん」
いつも空気を読んでくれるのは祥子だ。抱っこしてふたりを下まで見送って、急いで授乳の準備をする。母乳でできるだけ育てた方がいいと言われたので、わたしは授乳クッションを使ってなんとか乳首を明斗に吸わせるけど痛くて嫌になる。
夫からは無理しなくていいって言われている。だけど、なんかそういうの守らないと明斗が死んじゃうんじゃないかってぐらいに不安になる。洗濯は絶対に分けないと嫌だし、おくるみも毎日洗濯しないと。
こんなに子育てが大変って思わなかった。もちろんその前の過程の妊娠、出産さえも。そして、いやになるほど明斗は恵吾によく似ていた。丸っぽい鼻とか、まぶたとか。輪郭さえも。いやになる。だけど、わたしに似ているとよく言われる。それは夫に似ていないからだろう。みんななんかその言葉を避けているような気がする。




