第10話 報告
わたしと夫は今日、一緒にバイトに入っていた。わたしはドキドキしながらビールや料理をトレーに乗せて運ぶ。連休前の金曜日ということもあり、店内は賑わっていた。注文を聞きながらも、頭の中では夫の反応を想像。それ以外出来ることもなかった。
なかなか時間が進まない。たまにわたしは夫の方を見る。だけど夫はわたしを見ない。一応、付き合っていることはまだ公にしていない。おっちゃんを驚かせたくなかったからだ。わたしはここでのバイトは、一応今月までになっている。夫がほとんど復活したからだ。
客に笑顔を向け、大きな声で返事をして皿を下げる夫。なんでも一生懸命だ。自分があほらしくなる。見た目ばっかり気にして、中身がない。だけど、夫さえそばにいてくれたら、そんなわたしさえも輝けるだろう。
「お疲れ様でした」
夫が先にエプロンを外して、おっちゃんに挨拶する。わたしもそれを見て、下げたグラスを洗ってからエプロンを外す。いよいよだ。
「お疲れ様」
店のドアを出ると、夫は待ってくれていた。
「どうした?」
かっこいい、横顔さえ美しい。
わたしは、恵吾の子を妊娠した。今度は妊娠検査薬がハッキリと陽性を示すために2本色濃く現れた。わたしは変に冷静で病院も静かにひとりで受診した。
「公園で話せる?」
「ええけど……」
わたしの隣に並んで夫は歩く。星空でも見ているのだろうか、上を嬉しそうに見ている。
「あのさ」
公園のブランコに並んで乗る。
「実は……わたし妊娠した」
「ほんまに?」
夫の動きがとまる。怖くて、わたしは顔を見られない。
「まじ? 嬉しいわ、俺の子供?」
「うん、もちろんやん」
「やったー! まじか。コンドームつけてたのにな」
夫がわたしに駆け寄ってくる。ブランコごとぎゅって抱きしめられる。
「ええの? 咲良は」
「え?」
「だって産むのは咲良やろ? まだ若いし学生やのにええの?」
「もちろんやん! 類ちゃんとの子供やったら嬉しいよ」
「そっか、10ヶ月かかるんやっけ? 俺絶対仕事決めるわ。それからちゃんとプロポーズさせて?」
嬉しすぎて、涙が流れる。だけどそれと同時に、どうしよう? ってそのことで頭がいっぱいになる。DNA調べられるわけじゃないし、大丈夫か。でも夫に似てないんやろ?
「ここにおんの? おーい」
夫はわたしのお腹に向かって声をかける。どうしよう……。
「お母さんたちには? 病院は?」
「親にはまだ。病院はこの間行って、これ」
わたしはエコー写真を鞄から出して見せる。
閉塞感のある街。見慣れたアーケード。わたしだけ置いてかれたくないから、だからだよ。嘘つきなわけでもない。
「すご! これなに? 赤ちゃんなん? 俺にできることってない? あ、とにかく就活か。バイトもとりあえずがんばって金貯めるわ。で、仕事決まったら咲良の両親にもきちんと一緒に伝えるから。てかバイトしてて大丈夫?」
無邪気に笑う夫を見て、浅はかな自分を憎んだ。でもこれ以外方法はないんじゃない?




