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【完結】最強王弟殿下の花嫁  作者: 瓊紗(旧:夕凪.com)


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神官長さまの話


馬車の中でひと通り神官長さまから診察を受け、熱も引いて大丈夫との言葉をいただいた私は、早速神官長さまのお話をお聞きすることにした。


「あの、まず密偵って何ですか?」


「密偵は密偵ですよ。王の影。聞いたことありませんか?」

あるぅっ!この世界のシュリュッセル王国のはよくわからないけれど、異世界ファンタジーものではおなじみ!


「えぇ、噂くらいは」


「その影を忍び込ませて探っていたんですよ。ついでにあなたのことを徹底ガードして」


「どうして、陛下の影が私を?」


「まぁ、事の発端は私と陛下の弟のザックなんですけれど」

ザカリィが?ひょっとして私が夢の中でザカリィに助けを求めたから?でも、それにしてはあの統率のとれた騎士たちに、更には神官長さま、英雄王陛下の密偵まで忍び込んでいて私の介抱をしてくれていたとは。それにしては準備が早すぎる気がするのだ。何せ、ザカリィは戦場にいたはずだ。誰もが私とザカリィのように夢の中で会話ができるわけじゃないし、そんなことができるなんて話、他に聞いたことがない。


できるとすれば、魔法文まほうぶみ。双方の魔力を経由して手紙を届ける方法。私とお母さまがお父さまと連絡を取り合う時に使っていた方法。一介の伯爵家でそれができたのだ。圧倒的な魔力を持つザカリィと英雄王陛下、神官長さまが魔法文を使えないはずがない。


「11年くらい前でしたかね。この子がある日、リューリ・ランツェと言う子と結婚するんだと言い出しまして」

オゥ、それ多分私とザカリィの初めての夢での邂逅っ!!


「しかしその頃のザックは度々魔力を暴走させていたので、とてもじゃないですけど女の子を娶るなんて無理かなぁと思い、陛下が魔力制御の練習をさせるために修業に出したんですよ」

修業っ!?

ザックを見上げれば。


「兄上も、幼少期にそこに投げ込まれたと聞いた」


「投げ込むって、どこに?」


「竜の水底と言って、竜たちが暮らす神聖な場所ですね」

この世界に竜いたの!?原作小説では全く出てこなかったけど!


「実際に水底にあるわけではなくて、水面を通じて限られた者だけが行くことのできる秘境です。そこならばこの子も遠慮なく修業ができると陛下がおっしゃって、そこで何年でしたっけ?修業したの」


「8年」

そんなに!?

つまり、夢の中で逢瀬を繰り返して以来、10歳くらいの頃からずっとそこに籠ってたってこと?


「地上とは次元が違うらしい。だからリューリに会えなかった。そんなこととは知らず、リューリに会えないことを知らせることができなかった。あそこは一度入ればなかなか出られない。俺でも出られなかった」

それで。確かに突然ザカリィが夢の中に現われなくなって心配はしたけれど。そして再び夢の中で邂逅したのは、ザカリィが魔物の討伐のためにいくさに行くという時だけ。それからちょくちょく会いにきてくれて、ザカリィが生きていることが分かってほっとした。


「俺は、力を使いこなすのに何年もかかった」

原作ではただひたすらに持てる力を発揮して、聖女陣営を追い込むのだけど。あの強大な力を全て扱いこなすなんて。


「それでも、俺にとっては4年ほどだった。あそこは次元の流れが違う。俺がこちらに帰って来た時には8年経っていた」


「そう、だったんだ」


「けれど、リューリが俺を待っていてくれて嬉しかった」


「それは、その。私も会えて嬉しかったし」

現実では会うことができなかったけれど、それでもザカリィと再会できたことで私はザカリィに助けられたのだ。


「でも、出立の時に会いに行かなかったんですよね」

そこで神官長さまがひと言。

そう言えば。その、私の家名が分かっていたなら会いにきてくれても良かったんじゃ。そんな風に思ってしまった。何せあの頃は前世の記憶がなかったから、まさかザカリィがあの王弟殿下だとは思いもしなかったのだ。

戦に行くとわかった時も一介の騎士として戦いに赴くのだとばかり思っていた。


「兄上に、リューリを娶るために功績をたててこいと尻を叩かれた」


「肩じゃなくて尻ですか?」

神官長さま、重要なのはそこなのですか?


「うん、尻だった」

「まぁ」

やっぱりそこは重要なのか?


「だから、魔物を討伐して、戦を終わらせたら、リューリを娶りに行く予定だった」


「けど、事態は思わぬ方向に向かいまして。1年前、前女伯爵がお亡くなりになったでしょう?」


「えぇ、はい」

それがきっかけでウチは乗っ取られたのだ。


「ウチのかわいい弟が随分とご執心の姫がいるお家でしたから、陛下もとても心配していらして」


「そう、だったんですね」

そう言えば。当時は国内の魔物被害も増えて、ザカリィが最前線で戦っている間も他の箇所でも被害が多発したのだったっけ。直接は来られなかったけれど、陛下からの魔法電報が届いたのは覚えている。


「まぁ、当時は私も陛下も大忙しでしたからね。ザックが最前線で戦っている間に国内で大規模な魔物被害が重なれば、陛下は国を宰相閣下と王妃さまに任され自ら出陣されました」

確かに、陛下が自らという話も当時は聞いたっけ。

それほどまでに国内情勢は逼迫ひっぱくしていたのだろう。


「それに、最前線には既に帝国の戦神を派遣してもらっていましたから」

帝国の戦神。とても有名な方だ。20年前の魔物被害の時も帝国やその属国のために動き回り、今も現役で魔物からひとびとを守り続ける守護神。


それに、魔物被害は帝国本国にも、ウチ以外の属国にも出ていた。

その状態で守護神以上の人材を借りるわけにはいかないし、英雄王陛下が出るしかなかったのだろう。


「言い訳になってしまうかもしれませんが、そのような状態でランツェ伯爵家へ目を向けられなかったことを、私としてもお詫びいたします」


「いえっ!神官長さまがそんなっ!」

伯爵家のものとは言え、そんな雲の上の方にそんなことを言われたら申し訳ない。


「私にもっと人望があれば」

使用人たちに裏切られることもなかったのかもしれない。もっと早く外に助けを求められたのかもしれない。


「けど、影を派遣してくださったのは、どうしてですか?」


「成人の儀で、聖女が発現したからですよ」

成人の儀。貴族ならば誰でも成人を迎えれば受ける神殿での洗礼。もしも聖女や聖者が現れれば、その場で判明するのだ。私はその成人の儀の前にあの一家に監禁されてしまった。


「聖女の、名前を見て驚いたのですよ」


「聖女は、なんと?」

そんなに有名なご令嬢だったのだろうか。


「ユーフェミア・ランツェと名乗られましたので」


「はっ!?」

彼女は、ぶっちゃけ言ってランツェ伯爵家の人間ではない。ランツェ伯爵家の家名を名乗ることが許されているのは現在この国で私だけである。


「聖女は希少な存在で、神殿で保護する存在です。ですから保護の名目で彼女を神殿で召し抱えその素性調査を行うことになりました。そして、今回は伯爵家をかたる一件ですからさすがに陛下に奏上しないわけにはいきません。また、ザックが幼い頃から恋焦こいこがれ、前線にたつたった一つの目的でもありましたから」


「こ、こぃ」

私に、恋焦がれて?


「あぁ。リューリのために、戦った」


「ザカリィ」

そんな恐ろしい最前線にザカリィが、しかも私のために?


「俺は、リューリが欲しかった。だから」

ぎゅぅっと抱きしめてくるザカリィに、何だか胸が締め付けられるような思いをいだいた。


「でも、ちょうど動こうとした時に困ったことが起きまして」


「困ったことですか?」


「えぇ。聖女が、聖女(仮)が一部の若い聖騎士たちを従えて脱走してランツェ伯爵家に立てこもっちゃったんですよ」

え?立てこもり?


「あの、その(仮)は脱走したからですか?」


「えぇ、神殿としてあの方を“聖女”として認めていませんので」

あぁ、なるほど。

聖女だと豪語してはいたものの実際は神殿から認められていない挙句、更には聖騎士たちを持ち逃げしたと。


「立てこもりなのですか?」


「まぁ、彼女やその母親はしょっちゅうドレスや宝石をオーダーしては仕入れていたようですね。あまり外に出てこないんですよ。このご時世、パーティーなども自粛ですから開かれるのは貴婦人たちの小さなお茶会くらい。そこに伝手を辿って出席もしていたようですが、ランツェ伯爵家は主に脱走した元聖騎士たちが詰めておりましたから」


「その方々が、お強い方々だったのですか?」

神殿を守るとは言え、王の影ならばそっちの方が強そうと思ってしまうのは、前世に異世界ファンタジーものにのめり込んでいたからだろうか。



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