ラスボスと騎士
―――やべぇ、こりゃ詰んだ。
屋敷の中に蔓延った寄生虫どもとは言え、あからさまに攻撃を仕掛けて瀕死の状態にしたラスボスのザカリィ、そしてそんなザカリィに抱っこされた私。
どうしよう。このままじゃ目の前の騎士たちに真っ先にしょっ引かれる!
でも、この伯爵家の正統な後継者である私がいればザカリィにだって情状酌量が適用されるのでは?しかし、寄生虫どもの中には聖女がいるのである。神殿の後ろ盾があるのである。更に聖女のような強力な治癒魔法の使い手は間違いなく大規模な魔物討伐である“戦”や、小規模での魔物討伐にだって引っ張りだこ。世間がどちらの味方をするのかは、既にこの屋敷の中で証明されているのである。けれどせっかく約束通り私を助けに来てくれたザカリィ。前世でファンだったけどラスボスだからってことで聖女に倒されてしまったザカリィ。私がザカリィのために情状酌量を訴えなきゃっ!
「あ、あのっ」
そう、しようと思ったまさにその時、騎士たちの中央に立つ男性が叫んだ。
「それが例の子か」
前髪が真ん中分けにされた、少し癖のあるグレーの髪に、鷹のように鋭い銀色の瞳の男性が低く良く通る声で問うてきた。長身で体格もいい。何より貴族っぽいのに強そうな騎士オーラが出ているっ!因みに原作では見たことありませんっ!!
「そうだ。リューリは無事、俺の嫁に迎えた」
いや、ザカリィよ。何を言う。まだこの国の婚約届け的なの出してないんだけど。
てか、婚約すっぽかしていきなり結婚なの?やっぱザカリィの嫁になるの?私。
「みなのもの!人質は無事に保護した!」
は?人質?まさか、私?
「全員突入!屋敷の中にいるものは全て捕えよ!」
その男性の言葉と同時に騎士たちが一斉に答え、そして男性を筆頭に屋敷の中に踏み込んでいく。え、なぁに?この状況。
「団長、馬車の準備はできております。姫をこちらへ」
“姫”ってだれ?それに団長っていうのは・・・。
「あぁ、わかった」
ザカリィが振り向いた先にいた騎士服の青年を見て私はつい叫んでしまった。
「えっ!?アレンっ!?」
そう、それは“アレン”。彼は魔物と人間の間に産まれた半人半魔の存在で、魔力が飛びぬけて高く扱いにもたけていた。しかしその身の上ゆえに迫害されていたところをヒロインと出会って救われ、共に魔物討伐を担う仲間となるのだ。
ダークブラウンの髪にオリーブグリーンの瞳。端正な顔立ちに中肉中背。まさに彼はアレンだった。何故、アレンがここに?何だか敵対関係にあるはずのザカリィの部下っぽい感じがするし。いや、そもそもザカリィは王国のものとして戦地に赴いた以上ザカリィの立ち位置が敵とは思えないのよね。一体何がどうなっているんだろう。
そして私にいきなり名前を呼ばれた“アレン”は酷く驚いていた。やべ。いきなりの名前呼び。呼び捨て=失礼。これは異世界転生物で破滅するキャラのお決まりパターンじゃないかっ!あぁ、でも私、アレンの苗字知らない。てか、原作では一切苗字が出てこなかったな。もしかして原作ではなくとも、現実ではあるかもっ!
「んもっ、申し訳ありませんっ、騎士さま!良ければ家名をお伺いしても?」
「リッターですが」
苗字あったぁ―――。なんと、アレンの苗字は“リッター”でしたっ!
「リッターさま、先ほどは失礼いたしました」
よし、ここは素直に謝罪。これで破滅ルートは少しは薄らいだよね?
「アレン」
しかし、何故か私を抱く腕とその上にある顔から憤怒の気を感じてしまった。
「いつの間に俺のリューリと知り合いになった」
ひいいいぃぃっ!!?ざ、ザカリィがっ!ザカリィの闇オーラ半端ない!闇オーラってか病みオーラ?いや、そこは今はおいておこう。私の勘では今最高にアレンの生命の危機だ。
そうだ、アレンって原作では聖女パーティーが魔王・ザカリィを倒した後、自分のような半魔の存在が、魔王のような存在を生み出してしまう、そう語っていた。そして、それゆえに聖女の魔法で自死することを選ぶのだ。
更に聖女も他の仲間もそれを受け入れて、アレンは死んでしまう。―――そして、聖女は勇者と王子どちらを選ぶかで苦悩するのだ。
今考えると物凄いイラっとくるな。現実でユーフェミアを見ているからだろうか。ちょっと勝手すぎない?実際にアレンとザカリィを目の前にして、私はそう思った。しかし、しかし問題はこのひと!病みすぎラスボス・ザカリィっ!
やばいやばいやばい。どうすればいい!?いきなりアレンが生命の危機だなんてひどすぎるっ!!
「団長、私は姫とお会いするのは初めてです。それに、私の名と顔は団長以上に知れ渡っているかと思います」
私の予想とは裏腹に、ザカリィの病みの圧に屈せずけろっとした調子で淡々と述べるアレン。ありゃ?アレンって過去に闇を抱える陰キャだったけどこんなキャラだったっけ?
「団長が所かまわず圧を放つので脅えた周囲を宥める俺と副団長の身にもなってください。というわけで俺と副団長の顔は割と知られております。姫が俺の顔を知っていてもおかしくはありません」
「そうなのか」
「はい。とにかく、姫を中へ。今、飲み物をお持ちしますので」
「わかった」
ザカリィは先ほどまで駄々漏れにしていた病みオーラをしまい、用意された馬車の中へ私を抱っこしたまま運び入れた。
馬車の中は広々としていてとても豪華である。なにこれ、王さまがのる馬車みたい。あ、てかザカリィのお兄さんって英雄王陛下のはず、だからザカリィってやっぱり王族なのか?
原作では王族扱いはされていなかったが、現実では名前くらいは知っている。
英雄王陛下に弟君はふたりいる。おひとりは既に王族籍を離れ神殿に仕える神官長さまである。そしてもうひとりが、ザカライアス・シュリュッセル王弟殿下。つまりはザカリィだ。
原作では王族扱いはされていなかった。何せ先王の正妃が無理矢理魔晶を埋め込まれて身籠り、産まれた子だ。先王はその件が原因で病に伏し、そして子を産んだ正妃は自ら命を絶ち、新たに王位に就いたザカリィの異父兄はザカリィを殺そうとしたが、その度に多大なる犠牲が出た。そのためザカリィを地下深くに幽閉するのだ。当のザカリィは“その時”まで地下でひとりっきりで力を蓄えるのだ。そしてその第一歩が、私を操って聖女を亡き者にしようと企むこと。
そのはずなのにザカリィは幽閉もされていないし、私を助けて嫁にするとまで言ってくる。あれ、ちょっと待って。私の知っている知識とどこか違う?そう言えば、英雄王陛下は確か・・・
「リューリ」
先程までの恐いほどに冷たい声色ではなく、でれっでれの蕩けるような甘い声が私を呼ぶ。
「アレンが水を持ってきた。飲むか」
「あ、うん」
そう言えば、喉からからだったんだ。




