二人のひと時
―――翌日
「むっ。この単語何だろう?」
昨日聴いた声は、何故か今日になっても鮮明に覚えている。だから聴こえた通りにまずは書き出してみた。
シーザーさんの弟さんで、ヴィーダーシュプルフ公爵領を任されているアーサーさんから北部にある古代語に関する本や伝説に関わる本を数冊お借りした。しかし、シーザーさんもほとんど知らないと言った通り、資料は少ない。古代語に関しても王都で目にするものがほとんどである。
そんなシーザーさんは、昨日思う存分観光したということで、領地の経営状況などの書類をアーサーさんと確認している最中だ。てか、観光と言うかほぼ保護者扱いだったのだけど良かったのかな?
もうひとりの保護者であるお父さまは、こちらへ一緒に来てくれた王都のヴィーダーシュプルフ公爵邸の護衛騎士さんたちや、こちらに常駐している護衛騎士さんたちをしごいている最中だ。
因みにヴィーダーシュプルフ公爵家の騎士さんたちは強いらしく、お父さまがしごきがいがあると目を輝かせていた。因みにアリシアもあちらに混じっている。
ザカリィの侍従であるアレンはこちらでザカリィのお世話をしつつ、シーザーさんのお仕事を補佐しているらしい。
ザカリィはと言えば、私の隣で本を読み漁っていた。
「面白い本、あった?」
「いや。と言うかこれは一体何がおもしろいんだ?」
「何を読んでるの?」
「とある貴族の令嬢と王族の身分差恋愛小説だ」
―――何でそれ選んだの―――っ!!?
「あの、それはどうして読もうと思ったの?」
「あぁ、エレナ夫人が勧めてきた」
がくっ。
「でも、女子としては好きかな、そう言うの。憧れるというか」
「俺も一応、王籍にあったのだが」
「あ、確かに」
「それは俺以外にも憧れるということか?例えばこの、男爵令嬢と浮気する第1王子とかに」
「え?ザカリィ。それは多分違うと思う!それはない!」
それは貴族令嬢と王子との身分差恋の恋愛小説じゃなくって、その貴族・男爵令嬢と浮気する第1王子に、第1王子の婚約者である公爵令嬢がざまぁするザ・テンプレ断罪ひっくり返しストーリー!!てか、この世界にもそんな話があったのか!!
「多分、全て読み終わったら面白いと感じるんじゃない?」
ざまぁでひっくり返るところが!!
「ふぅん。ではもう少し読んでみるか」
ザカリィが本のページをめくる。
「そう言えば、ざまぁと言えばあのひとたちどうなったんだろう」
「あのひとたち?」
「ほら。あの、偽聖女さん一家」
「あぁ、死んだんじゃないのか」
「そんな適当でいいの?ざまぁ回って一大イベントなのに」
「ふむ。戦の事後処理は帝国も終わったころだろうし、キドゥーシュの件も片付いただろう。そろそろ、じゃないか」
「そっか」
「まぁ、生き伸びられるとは思えんな。あれを見逃せば皇族に手を出したらどうなるかを徹底的に見せつけられないだろう」
「まぁ、確かにね」
私は血筋だけは帝国の皇弟であるお父さまの実子で、今は国籍は完全にシュリュッセル王国だけど皇族の系譜として載せられているのだから。
「どんな刑が下っても同情はできないけど」
「それは当然だ。許されるのなら俺がやってもいい」
「その気持ちだけでいいよ」
「リューリ。もし、これからもリューリを狙うものがいるとしたら、必ず俺が守る」
「ありがとう。ザカリィが一緒なら安心だね」
「あぁ、任せろ」
ザカリィが一緒にいてくれると、何故かとっても安心するから。
「今はどのくらい訳したんだ?」
「う~ん。半分くらい。何だか、恋の話みたい」
「恋?」
「うん。女神さまの恋の話。でもね。最後が」
―魔神の哀しみを鎮めるために与えられたルビーノーグンの地に赦しを―
どうやってここに繋がるのか。きっとこれは、悲恋なのだろう。
何となくそんな気がしてしまう。
「そう言えば、魔晶石を砕いた時」
「えっと、ロッホの魔晶石?」
「あぁ、一瞬青白い光が見えた。ロッホにもヴィーダーシュプルフ、いやルビーノーグンの地と同じ魔素が含まれているのか」
「あ、あのね。ザカリィ」
「うん?」
「ザカリィの黒い稲妻みたいな魔法、あるでしょ?」
「あぁ、あれはどちらかと言うと俺の魔力だ」
「ザカリィの魔力か」
「それがどうかしたか?」
「あの、何だか“ドゥンケル”を思い出して」
「確か“闇”だったか」
「うん。ゼーラさまの訳では“魔神”」
「魔法使いの神なのか、魔物の神なのかわからんが、ならその神の根底にあるのも俺と同じ闇魔力だったのかもな」
確かに、女神リーヒュイテ(※古代語ではリヒュィテ)の根底にある魔力は聖魔力で光魔力の最上級のものと言われているんだっけ。
その代行者になるのが主に聖者と聖女。
何か、関係があるのかな?
「そう言えば、わからない言葉は何だ?」
「あ、この“カンプ・・・フ”かな」
「それは戦神に近いんじゃないか」
「え?お父さま?」
「その異名の元となった言葉に近い。戦場で荒ぶる力を振るい、戦を勝利に導く神・カンプーファ。そんな話を他の騎士から聞いた」
「わぁ、そうか。すごい!ザカリィの知識と合わせたら、解けそうだよ」
「俺は古代語に関してはそんなに役に立たないぞ」
「そんなことないよ。助かったもん」
「そうか」
不意に、ザカリィが私の肩に頭を預けてくる。
「少し、寝る」
「うん、お休み」
もうすぐ冬が来るけれど、今日はお日さまが出ていて何だかぽっかぽかだ。
―――その夜、ベッドの上でザカリィはハマった恋愛小説をリューリの横で読みふけっていた。




