ヴィーダーシュプルフ領主邸
―――途中昼食休憩を取りつつ、ヴィーダーシュプルフ公爵家の領主邸についたのは少し陽が傾きかけた頃。ほんのり空が夕焼け色に染まりつつある。
馬車から降りると、ふたりの男女を中心としてたくさんのひとびとが出迎えてくれた。
「わぁっ!シーザー兄さん!久しぶり―――っ!!!」
がばっ!!
突然シーザーさんに飛びついて来たのは、グレーの髪に前髪を真ん中分けにした男性だ。瞳は優し気なシルバーで、肌は雪のように白い。シーザーさんによく似た色を持っているため彼が言ったようにシーザーさんの弟さんなのだろう。それにしてもコワモテなシーザーさんに対し、弟さんは何だかほんわかしている。
「こ、こら、アーサー!頬ずりするな!俺はもう36歳だ!」
―――そして独身貴族である。
更にそんな光景に苦笑を漏らしながらそのアーサーさんを回収したのは、ミルクブラウンのゆるゆわウェーブの髪に、オレンジ色の瞳を持つとてもキレイな女性だ。
「こら、王弟殿下と戦神さまも来られているんだから失礼でしょう?」
「あぁ、そうだった。もう臣籍降下されても、英雄王の弟殿下は弟殿下で兄さんの上司だもんね~。あと戦神も迫力あるなぁ~」
しっかりした感じの女性に対し、アーサーさんは相変わらずだった。
「す、すまない。弟はこういうたちでな」
「別に構わん」
と、お父さま。
「どうやって教育を分けるとこういう性格の乖離が起きるんだ?」
ザカリィは不思議がっていたが。
「いや、教育とかそう言うのではなく、本人の性質の問題だ」
「確かに、お前は結婚できないのに弟は結婚できたようだな」
「ぐはっ」
ざ、ザカリィったらシーザーさんの痛い点をっ!!
「改めまして、このヴィーダーシュプルフ公爵領の代官をしております、シーザー・ヴィーダーシュプルフの弟、アーサー・ヴィーダーシュプルフと申します」
「アーサー・ヴィーダーシュプルフの妻、エレナ・ヴィーダーシュプルフと申します」
どうやら本当に夫婦のようで、みんなでシーザーさんを憐れみを込めた目で見つめれば。
「べ、別にいいだろうがっ」
何だかツンデレなシーザーさんを拝めた。
そして領主邸に案内されて各部屋に荷物を運んでもらうことになったのだが。
「同じ部屋なのか」
と、お父さま。
「夫婦なのだから当然だ!」
続いて、ザカリィ。
「あの、お父さま。ザカリィはひとりじゃねられないので」
と私が告げれば。
「あぁ、そうだったな」
お父さまの憐れんだ目にザカリィは頬筋を引きつらせながらも。
「ふんっ、嫉妬とは見苦しいぞ戦神!」
と言い返す。まぁ、いつも通りのノリで何よりである。
私とザカリィが夫婦部屋で、他のみんなはそれぞれ一人部屋を借りることになった。
晩餐はアーサーさんご夫婦と共にとることになった。
「あら、リューリさんはジェラートに興味があるの?おススメのお店があるのよ。後でアレンに教えておくわ」
因みにワーカホリック・アレンはガイド役をこなすことになっている。
「わぁ、楽しみです!」
そんなエレナさんと一緒に女子談義をする私とアリシアの側では。
「アーサー、今夜早速書類を確認・・・」
「兄さんったら、休暇で来ているんだから今日はとっとと寝てくださいよ」
そう、アーサーさんにシーザーさんが押されている。
さすがに弟さんには弱いらしい。
あ、でも父さまとアレンは寝る前にここの騎士さんたちと腕試しをするのだとか。みんな元気だなぁ。
「温泉も楽しみだな」
と、アリシア。
「後でみんなで入りましょ」
「はい!エレナさん!」
ヴィーダーシュプルフ領主邸にも大きな温泉があるらしく、夕食後は3人で早速温泉に行くことになったのだが。
「夫婦風呂はないのか?」
―――ぼふっ。
ちょっ、ザカリィったら!!
「俺の目の黒いうちは許さん!今夜は貴様も腕試しだ!」
どうやらお父さまに連れて行かれるらしい。
「ちっ」
と、舌打ちするザカリィ。
「あ、なら俺も」
とシーザーさんも手を挙げるのだが。
「兄さんはダメです。とっとと休んで!」
弟さんの許可が出なかったらしい。そして給仕の方々や護衛の方々もアーサーさんに加勢している。
戦から帰ってきた後も公爵としての仕事と戦の事後処理に追われていたシーザーさんは、ヴィーダーシュプルフ家のみなさんに相当心配されているらしい。




