北部へ
※ふぅ、今年も遂に大晦日かぁ~※
―――リヒュィテラドゥンケルリリベラ
―――リヒュィテリリベラリヒュィテロキドュシュエルレセル
―――ドゥンケルロヘルツトドゥンケルエルレセルロフェアニヒトンギ
―――ドゥンケルロツォルノレークヴェイモ
―――ドゥンケルロツォルノレークヴェイモ
―――ドゥンケルロツォルノレークヴェイモ
ぱちっ
夢の中で誰かが祈りを捧げていた。女性の声だ。けれど早口で全ては聞き取れなかった。
でも。
「女神・リーヒュイテと言っていたの?」
女神・リーヒュイテ。それは世界中の神殿で祀られる女神さまの名前である。
「ん、リューリ?」
不意に響いた声に目を向ければ、こちらを不思議そうに見ているザカリィの顔があった。
―――ドゥンケル
不意に脳裏に残響が響く。
「どうした?」
「えっと、何だろう?何か夢を見て。女神さまの名前が聞こえたの」
「女神、か。俺たちが戦場で崇めるのは戦神か、神官だな」
―エルレセル―?確か夢の中でも聞こえたような。
エルレセルとは神官のことだ。古い言葉で神官を“エルレセル”と言う。
女神さまの神官のことを語っていたのだろうか。
「じゃぁ、ドゥンケルと言うのを知ってる?」
「ドゥンケル?さぁ。古代語ではないのか」
「古代語だと、“闇”かな。でもよくわからなくて。頭の中で古代語が聞こえた夢だった」
「む」
何故そこでムッとするんだろう。
「リューリの夢の中で俺に無断で勝手に語り掛けるとは」
ど、どこに怒ってんのザカリィ~。
「でも、目が覚めて最初に語り掛けてくれたのがザカリィだったから、安心したの」
「そうか。それは」
何だかザカリィの頬が嬉しそうにほころぶ。
「戦神に大いに自慢してやろう。ふふふ」
全く、まーた競い合う気か。いや、毎日が賑やかでいいんだけどね。
「今日はシーザーの領地に行く日だ」
「うん、新婚旅行だね」
「あぁ。天気も良さそうだし、順調に行けそうだな」
「うん、そうだね」
シュリュッセル王国の王都・テンペラントでは、まだ秋の始まりと言う季節だが、シーザーさんによると、北部のヘクセーデルシュタイン領ではそろそろ小雪がちらつく頃らしい。それでも本格的な冬に入る前だから、旅行なら問題ないということだった。
北部への旅行には、私とザカリィ、お父さまにシーザーさん、アレンとアリシアの6人で行くことになる。
北部までは雪深い季節ではないものの、冬でも寒さに耐えられる頑丈な黒塗りの馬車だった。
馬も大きくてしかも武装している。
「す、すごい」
「そうか?まぁ王都の馬車に比べたらな」
私が見上げながら驚いていればシーザーさんが苦笑する。確かに、王都の馬車ならファンタジー世界によく出てくるオーソドックスな感じである。もちろん王族や高位貴族の馬車はそれだけ立派だが、ここまで頑丈とはいかないだろう。
「戦場に行く時もまぁ頑丈な馬車は持って行く。襲撃があったら困るからな」
と、お父さま。
持って行く、と言うことは乗車用ではなくやはり物資用なのだろうか。まぁ、マジックバッグなども使うとは思うが、あれは誰にでも取り出せるものではないから。頼り過ぎるのも良くないのかもしれない。
馬車は6人乗りで、御者と周りに念のためにヴィーダーシュプルフ公爵家の騎士の方々が同行してくれる。
アレンも馬に乗っていくと言えばシーザーさんも乗ろうとしたため、護衛の方々に休暇なのだからと止められ私たちと一緒に馬車に押し込められることになった。
因みに、ザカリィの左右はお父さまとシーザーさま。私はアリシアとアレンの間に座っている。
「何故隣同士じゃないっ!!」
ザカリィは不満気味だったが。
「ふんっ、馬車の中で一体何をする気だったんだ?俺の目が黒いうちは許さんっ!」
「いや、貴様の目の色は赤だろう!!」
またまた不毛な争いが。けれどそんな風景もなんだか和やかな苦笑を運んでくる。
「楽しみだなぁ。街並みとか名物とか」
「うむ。私も北部の街並みは初めてだ」
「レンガ造りが多いですかね」
私たちは私たちで盛り上がっていると、ザカリィが不満げに視線を向けてくる。
「ザカリィは何が楽しみ?」
「俺はリューリと一緒なら何でも楽しい」
そんなこと言われてしまえば迷うのだけど。
「あぁ、女性が喜びそうなものなら“アイス”があるぞ」
と、シーザーさん。
「アイス?氷の塊の方ですか?ジェラートの方ですか!?」
以前、アイスが食べたいと言ったら、お母さまがどでーんと氷の塊を出してくれたことがあった。あれはあれでアイストラウマになった。
「えっ!?無論ジェラートの方だが!?」
「なら食べたいです!」
デザートの方なら大歓迎だ。
「では、到着は日暮れ前になるから、明日にでも街に行ってみようか」
「はい!」
北部のヘクセーデルシュタイン領の中のヴィーダーシュプルフ公爵領の中心までは午前中に出たとしても到着は夕方。一応日暮れ前には着く予定で、途中で昼食休憩を挟む以外はほぼ移動である。
護衛の方々に申し訳ないと思いつつも、ヴィーダーシュプルフ公爵家の騎士にとってはそれくらいならへっちゃらだそうだ。
「楽しみだな、リューリ」
そう、ザカリィが穏やかに微笑む。
「う、うん。ザカリィ」
隣同士ではないものの、正面だと正面でまた別の緊張があるなぁと思った。
―――ドゥンケルロツォルノレークヴェイモ
また、脳裏にそんな残響が届いた。
※みなさまもよい年末をっ!(`・ω・´)ゞ※




