ルービノーグン
さて、カギを握る部落と思われる一派“ルービノーグン”のことまではわかったものの、ここから先は完全に手詰まりである。
ならばあとは、お父さま!!
私がくわっとお父さまを見やれば、全員の視線がお父さまに注がれる。
「―――そうだな。手掛かりになるとは思えんが。叔母に会う機会があった時に言われた。“私にはその役目を果たせなかった”と。それがもし、ルービノーグンの巫女としての言葉なら」
「体を壊したのにも何かつながりがあるのか?」
20年前の戦の後、陛下は自身のお母君であり、お父さまの叔母さまを帝国で静養させるために送り出したのだという。お義姉さまはキドゥーシュから身を守るためではないかと言っていた。
本来、シュリュッセル王国の古来の部落のひとつで会ったはずのルービノーグンの巫女の部落が姿を消し、その名前すら伝説で語り継がれている程度にその存在を薄くしたのには、何か意味があるのではないか。
彼女たちがもし、ヘクセーデルシュタインを離れて帝国に渡ったのだとしたら。キドゥーシュに感づかれてはならない秘密を抱えていたとしたら。
「ここは、やっぱり口づけじゃないっすかね」
いや、原作の主人公・エルンストよ。いきなり何を言うか。
「やっぱりここはリューリさまが、ザック団長に愛のこもったキスをっ!!」
ガコンッ
エルンストはシーザーさんに頭をひっぺたかれ、そしてその背後に憤怒の炎を宿すお父さまが立ちはだかっている。
「でも、その。何か可能性があるのなら、やります!」
「そうよ、その意気よ~、女は度胸よ~」
うん、お義姉さまも応援してくれているし!
―――もはや迷ってはいられない。
えぇい、今更だ!人工呼吸のようなもの、人工呼吸のようなものっ!!
ザカリィが、元に戻りますようにっ!
ちゅっ
軽い口づけなのに、唇同士が触れ合うその柔らかさに何とも言えない恥ずかしさがこみあげてくる。
「んっ」
ザカリィっ!?
ハッとして唇を離せば。
ザカリィがうっすらと目を開けていた。顔には紋様がない。左手も元通りだ。
「―――り?」
「ザカリィっ!良かった!」
ガバリとザカリィの体に抱き着き、その温もりに包まれた時。
「はっ!?」
みんなの前だということを思い出し体を放そうとしたのだが。
「ん、リューリ。好きだ」
ザカリィが放してくれんとです。うぅ。いや、別にいいんだけど。
「お前もたまにはいいことを言うなぁ」
「じゃぁさっきひっぱたいたの謝罪してくださいよ」
「それはできん。お前、戦神に斬り刻まれるぞ」
「ひぇ―――」
シーザーさんとエルンストの声が聴こえてくる。
「まぁまぁ、これで本当に良くなるなんて。それで、アレンくんにもキスする?」
『え‶?』
お義姉さまの言葉に、ザカリィが禍々しい稲妻魔力を放出し始める。
「けどっ、アレンを助けるには!ザカリィの大事な侍従だから!」
「それはっ」
ザカリィが横たわったまま動かないアレンを見やる。
「いや、さっき俺がやったみたいに、魔力流してみたらどうっすかね?」
とのエルンストの言葉に。
「じゃぁ、最初からそっち言ってよっ!!」
と、くわっと目を見開いて叫んでしまったことは言うまでもない。
「・・・そうだな」
お父さまがエルンストを見降ろす目が恐い。
「だから言っただろう?」
「ひぇ~、副団長タスケテ―――」
必死にシーザーさんに泣き縋るエルンストの隣を素通りし、アレンの手を握り魔力を流せば。
「すごい。元に、戻ってく」
アリシアがアレンの髪を優しく撫でれば、うっすらとアレンが目を覚ます。
「・・・こ、は?」
「アレン!よかった!」
そしてアレンに飛びついたアリシア。あれ?アリシアってもしかして、もしかしなくても?
そんな風に思いつつも。
「兄上」
ザカリィが静かに陛下を見据えている。
「兄上、あの教皇に俺の出生の秘密を聞かされた」
そ、そう言えばっ!!
そう言えばあの教皇、めっちゃ伏線っぽいことを言っていたような?
「俺は、兄上の子なのか」
直球!!ザカリィが直球すぎるぅっ!!
「ザック」
陛下は驚いた顔をしつつも、首を傾げた。
―――あれ?
「確かに、俺はザックの親代わりのつもりだ。今までもこれからもそれで構わない。だが、それはその、どういう意味での言葉だ?あの教皇が何を言っていた?」
「俺が兄上と先代正妃の子だと」
「ぶっ」
陛下が吹き出した―――。
「それが知られたら私とお義母さまに誅殺されるわね」
と、さらっとお義姉さま。
多分、そのお義母さまと言うのは先代の側妃さま。つまりは陛下の実のお母君である。私の想像を通り越して、まさか実のお母君も加わるとは。
「お前たちは魔物がどうやって生まれるか、知っているか?」
陛下は、静かに私たちを見据えた。
一説では魔力を帯びた獣が魔物となる、それくらいしか私は知らない。
「その獣の中に埋め込まれた魔晶と言う核が、生命を形成する際に取り込まれて魔物として産まれてくる」
「それじゃぁ、俺は」
「お前は、正真正銘先王の子だ。あのオヤジ、いい歳して年の離れた弟をな。でも半分を魔物として産まれてきた時はその答えに辿り着けなかった。わかったのは、キドゥーシュ教皇と取引をして、バカアニキが実の母親に魔晶を埋め込んだことだけだったからな」
陛下が言う“アニキ”とは、処刑された先代の王太子のことだろう。何故、実のお母君にそんなことを?わからないことばかりだが。
「けれど、俺は兄上の義理の弟だと」
「俺がそう言ったことは一度もない。オヤジの言葉を信じていろいろ探ってきたからな」
そうだったの?では、ザカリィと陛下の血がつながっていないというのは周囲がそう言っていただけで・・・。
「確信を得るのに、時間がかかった。それにその瞳の色は、オヤジからも先代正妃からの遺伝でもない」
「では」
「考えられるとしたら、隔世遺伝。ヴィーダーシュプルフ公爵家出身の先代正妃が、俺の母上をルービノーグンの“ルビーアイ”に思いを馳せたこと。そして、お前に遺伝したその瞳。もしかしたら、隠れながら暮らしていたその巫女の血が、先代正妃に流れていた可能性がある。そして、ヴィーダーシュプルフの直系であるシーザーがそれを知らないのは、女系部落だったからと言うことも考えられる」
確かに巫女の一族と聞けば、そう言う可能性もあるよね。
「けどザカリィの力は、ツォルンドンネなのですよね」
裁きの雷と言う意味のツォルンドンネ。
陛下はザカリィの力をそう例えたのだ。
「あそこで産まれた“魔晶石”から作られた核と言うことだ」
確かに。西部のツォルンドンネ領には、いまもカリュグロッホと言う地名が残っている。そのロッホがある場所は、魔物が湧き出る魔物の巣。魔物が湧き出るということは、そこに魔晶石が眠っているのだ。そしてそれを破壊することで魔物の巣は潰れ、魔物が新たに発生しなくなる。
では、陛下が仰ったことが真実だとすれば、本当の黒幕は先代の王太子。つまりは陛下とザカリィの実の兄で、彼がキドゥーシュと手を組んで、そこの魔石を何らかの方法で手に入れたということ。
あれ?と言うことは、アレンもまさか。
アレンが産まれたのは、ザカリィが産まれてから3年後。陛下が戦場から戻られる前。そしてその戦が終わりザカリィが助け出された。
これは、単なる偶然なのか。
陛下が戦地に赴いている間に、ザカリィの一件と同様に何かが起こっていた?
―――ふと、そんな疑問が湧いた。




