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【完結】最強王弟殿下の花嫁  作者: 瓊紗(旧:夕凪.com)


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救援


『ん‶―――っっ!!!』


言葉にならない叫びも、彼の耳には既に届いていないのだろう。

苦しみもがくザカリィが床に崩れ落ち、そしてにやりと薄気味悪い笑みを浮かべた教皇が私を振り向く。


「さて、最後の仕上げをしましょうか」

教皇は胸元に忍ばせた短刀を私の前でギラリとちらつかせた。


―――その時。


カツンッ!!


鋭い金属音が響き、私の前に誰かが飛び出した。


「そこまでだ!」


この灰色の髪と、そして大きな背中は。


―シーザーさん!!―


「ザックに何をした!今すぐ妙な術を止めろ!」


「全く、騎士風情が。ネズミのごとくつけてきたようですね。しかし、多勢に無勢。そしてそちらは2人も足手まといがいる。そんな状況で我々にかなうと?そして我々にはこの生物兵器がある!」

そう言ってがばりと腕を広げて、恍惚とした笑みを浮かべた教皇の腕の先には、苦しむザカリィの姿が見える。


シーザーさんの怒りがひしひししと伝わってくる。私だってザカリィも、そしてアレンもこんな目に遭わされてっ。私に何かできることはっ。


うぅっ。あの状態を何とかできるとしたら、エルンストだけなのだ。

もしも、あの主人公のエルンストがここにきてくれたら!


「副団長!団長は!」

鋭い女性の声は、アリシアのものだ。


「んなっ!?何故ここがっ!このネズミもそうだが、結界で遮断しているはずなのに!」

そう、教皇が叫ぶ。結界で遮断?そう言えばキドゥーシュはかつて教皇が国を結界で囲い魔物の被害を押さえていたと聞く。その力だろうか?


「いや、よくわからんが。団長のすごい覇気を感じてここに突っ込んできたのだ」

そ、そう言えばっ!ザカリィから溢れるこの覇気!


「だが、何故入れた!」


『さぁ??』

そう首を傾げるふたり。そう、アリシアの隣にはもうひとりの騎士がいる。あの赤髪、翡翠色の瞳。間違いなく彼は、主人公のエルン。本名はエルンスト!当然のことながら公式資料の服装とは違う。ザカリィの討伐団の騎士服を着ている。

いや、まさかとは思ったけれど本当に同じ討伐団にいるだなんて!!


「とにかく、アリシアは団長を!」

「わかった!」

いや、違う!ザカリィにはエルンストを!しかしアリシアは神官だ。エルンストの判断は正しい。


「そうはいかない!兵器よ!今まさにその力を解放せよ!」

教皇がまた何かを掲げた。その瞬間、ザカリィが更に苦しみもがく。


「団長!」

その体から湧き出る黒々とした稲妻は今まで見たそれとはかけ離れた、おどろおどろしいもの。


―――アリシアの悲鳴が響く。


この状況、一体どうすればっ!


『ひとさまの城で、一体何を好き勝手しているのかしら』


びっくー。


その声に「はぁ?」と言った感じで首を傾げている教皇と覆面神官たち。あなたたちがロマン追い求めていた存在ですよと教えてあげたいのだが。


『あの魔晶石ましょうせきを破壊しろ!』

お父さまの声だ。


そして素早い白刃が駆けたと思えば、教皇の手首から先が消失した。


「ひっ!?」

教皇の短い悲鳴と共にシーザーさんが素早く教皇をとり押さえ、お父さま、陛下、神官長さま、アリシアが覆面神官たちを一斉に気絶させる。



―――バキンッ―――



何かが砕け散る音共に、エルンストが剣で斬り離された掌ごとその“魔晶石”を破壊したのだとわかった。


「そんな、バカな!?」

教皇が驚愕で目を見開いている。それもそのはずだ。だって、エルンストだから。どうやらそこは原作と同じらしい。ふぅ、助かった。


そして私の猿轡と縄がかれる。


「無事か、リューリ!」


「お父さま!あ、アレンが!」


「こっちも平気だ。気を失っているが!」

むくりと起き上がるとアレンの猿轡と縄を解いて、アリシアと騎士たちが詰めかけていた。王城の近衛騎士たちも混じっている。


「それじゃぁ、ザカリィはっ!」

ザカリィがいた場所には、王妃殿下であるお義姉さまと陛下の後ろ姿が見える。急がなきゃ!


「エルンストさん!こっちに来て!」

私はエルンストの腕を引っ張る。


「うぇっ!?俺っすかっ!?」


「陛下!お義姉さま!ザカリィは!」


「まずいわね」

お義姉さまがザカリィを見る目は苦し気だ。黒々とした魔力は治まってい入るものの、未だに苦しそうで、顔の左側には禍々しい紋様が浮き上がり腕から覗いた手指からは鉤爪のような鋭い刃が伸びている。


「魔物に近くなったってことかしら」

お義姉さまの推測は正しい。ザカリィは原作でもラスボスとして最終形態をとってもイケメンだはあったものの、こうした魔物の血を濃くなり、鋭い爪や牙と言った特徴が現れた。


「あの、エルンストさん。ザカリィに魔力を流してくれませんか?」


「え、俺が団長にっすか?」


「もしかしたらと言う可能性だけど、お願い!」


「あぁ、頼む。何かあってもお前を処罰したりはしない」

そう、陛下が告げる。


「承知しました」

エルンストさんは陛下の言葉に頷き、ザカリィの手を取り魔力を流す。すると少し鋭い爪が収縮して顔に浮かんだ紋様が薄らいだ。


「やっぱり。これで暫くは持つと思います」

原作でも、応急処置のようなもので。ザカリィの力を封じることができたのだ。


「問題はこの後だろう」

お父さまが私たちの側に跪く。その腕にはアレンの姿があり、アリシアも駆け寄ってきた。後ろでは、シーザーさんが指示を出して騎士たちが教皇たちを捕らえて引きずり出している。こちらはこちらで、早くザカリィを何とかしなければ。


「ルークは」


「はい、ここに」

陛下の言葉に神官長さまもこちらに来てくれて、アレンとザカリィの様子を見てくれるものの・・・


「神官が使う聖魔法で魔物の血を操ることはできません」


「では、教皇が使ったのは、正真正銘教皇の家に伝わる秘術と言うことでしょうか」


「いや、違うな」

そう断言したのは陛下だった。どういうことだろう?


「シュリュッセル王家の、いや。もっと昔のテンペラントだった頃の部落のひとつに、会ったはずだ」

テンペラントだった頃って、まさかシュリュッセル王国設立前、キドゥーシュに支配を受ける前の部落社会だった頃の?


「あの、その部落って」

今でもその血筋を探すことができるのだろうか?今では当時の名残である地名が残るだけ。唯一わかっている部落は“テンペラント”を治めていた部落の代表である王家のみである。


「神殿を維持していたテンペラント、その盾となり守護したテンペルガルディアン、神の恵みを分け与えるエンゲルガルデン、裁きのいかづちを降らすツォルンドンネ、そして魔神を鎮めるヘクセーデルシュタイン」

この場で陛下が呟いた名に心当たりがないものなどいない。全てはこのシュリュッセル王国に存在する大まかに分けられた領地の名だ。


「俺がザックの力を見てまず思ったのは、裁きのいかづちを降らすツォルンドンネだ」

確かに。ザカリィが放つあの覇気はまるで稲妻のようである。


ツォルンドンネとは西部にある領で、度々魔物が荒れ狂うことで知られる。そこに残るのは、カリュグロッホと言う部落の名。


「神の恵みを分け与えるエンゲルガルデン。俺が代々家から聞いた分には、あそこには聖者や聖女が産まれやすいと言われています」

そう、エルンストが告げる。エルンストは南部の出身なのか。原作ではシュリュッセル王国出身と言うだけしか出てこなかった。


しかし、エルンストの肌はほんのり褐色である。日に焼けただけかもしれないが、それでも南部には褐色の肌のものも多いのだ。ひとによっては、キドゥーシュ人と見分けがつかないほどに。しかしながら、キドゥーシュには全くと言っていいほどに聖者や聖女は誕生しない。聖地であるにも関わらず、まるで何かの呪いのように。


つまり、エンゲルガルデン領にあるロッホであるテッサロッホは神の恵み、つまりは聖者や聖女の聖魔法を受け継ぐ部落だったということ。王都出身で王族の血を受け継ぐ神官長さまが聖者であるのは、それほど部落と言うものが今は崩れ、まじりあっているということだ。


「あり得るとしたら、ヘクセーデルシュタインだ」

陛下は断言する。ヘクセーデルシュタイン。その意味は古代の言葉で“魔法使いの宝石”と言う意味である。

“魔”晶石?その地名と何か関係があるのだろうか。


「だが、あそこには“ロッホ”が残っていない」


―――え?

つまりそこを治めていた部落がいないということでは?



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