祝勝パーティー本番
―――シュリュッセル王城で開かれたパーティーでは、任務に赴き多大な功績をあげた討伐団の団員たちに国王陛下からのお言葉と多大な報酬が与えられた。
その一つが、団長であり王弟殿下であるザカリィへ与えられた公爵位。その公爵位を関する名は、先日の一件で国に返還された爵位。その爵位をザカリィの打ち立てた功績に乗せて昇爵する形で与えられ、更には元ランツェ伯爵家の直系である私との婚姻も共に発表され、正式にザカリィが臣籍降下することがみなに知らされた。
先日の元ランツェ伯爵家の乗っ取り事件は、既に戦が終結して一気に花開いた社交界では周知の事実。しかしながら元ランツェ伯爵家には一切非はなく、元オックス子爵家の親族による罪として取りだたされたため、ただ名前を勝手に使われた元ランツェ伯爵家の名に傷はついていない。
むしろ王妃殿下であるお義姉さまが、お母さまが残した多大な魔法研究について明らかにし、そのような偉業を残した元ランツェ伯爵家の名を継ぐ公爵家を周囲は歓迎したのだ。
無論、お母さまが残した魔法研究の中でも、セーフティボックスやその他国家機密に抵触するような魔法は発表していないが。
そして、その血を唯一引き、更には偉大な戦神として名を馳せた皇弟殿下であるお父さまの娘である私との婚姻の発表は、瞬く間に周囲の羨望を集めたことだろう。
―――今までザカリィを遠目で蔑んできたひとびとが急に目の色を変えてザカリィに群がるほどに。
因みに、その情報についてはアレンが逐一「あの男爵は以前団長を“悪魔”と陰で罵って」「あの侯爵なんて団長のことを陰で蔑んで」と説明してくれたのだが。
何故アレンがその陰のことを知っているのか、逐一覚えているのかは詳しくはツッコまない方がいい気がする。
何だか私の女の勘がそう告げている。
そんなこともあって、挨拶に押し寄せるひとびとの群れに、ザカリィはイライラマックスである。隣にはヴィーダーシュプルフ公爵である副団長のシーザーさんもいて、颯爽と捌いてはくれているのだけど。
ザカリィがどす黒バチバチ魔力を放出しないだけましだろう。
「きっとリューリさまとくっついていられるからだね」
「そうじゃなきゃ会場中阿鼻叫喚の渦に呑まれているでしょうね」
うぅー。アリシアとアレンの発言の真意が恐い。そしていつも以上に体を密着させて来るザカリィ。多分、これが無ければこのひと多分ヤバいことになってそう!!
そうか、私の任務はこれなのだ。ザカリィが暴走しないよう、この身をザカリィに委ねよう。うん、委ねる!!
そう、決心したところで。
「リューリ」
慣れ親しんだ声が私を呼び、ザカリィと私が同時にその声の主を見やる。そして周囲は一斉に道を空けた。
その先には、お父さまと並び立つ青年。そしてその傍らには国王陛下夫妻もいる。
はて、この方は一体どんな殿上人なのだろうか。
「リューリ、ザック。紹介する。ラントカルテ帝国皇太子アベル・ラントカルテだ」
そう、さらっとお父さまが紹介してきた。
深い藍色の髪に、ラントカルテ帝国の皇族に多いという金色の瞳。因みに皇帝陛下の瞳も金色だとお父さまに事前に聞いたことがある。お父さまのローズレッドの瞳はお父さまのお母さま、つまりは私のおばあさまからの遺伝らしい。
「初めまして、ザカライアス・ランツェ公爵。そして公爵夫人。公爵の叔父上に並ぶ戦いについては叔父上からも聞いている。お会い出来て光栄だ。これからも王国のため、ひいては帝国のために活躍してくれることを願っている。しかし叔父上に隠し子がいたことは大変驚きだが、従兄妹として仲良くしてくれると嬉しいな」
え。仲良くって。そりゃぁ従兄妹になるのだろうけども。
皇太子殿下と仲良くっていいいのだろうか。いや、宗主国の皇太子なのだし仲良くはするべきだ。社交辞令だよね?
―――ザカリィの反応は。
「ふんっ」
うえぇっ!?そんな素っ気ない返事でいいの!?
「叔父上にそっくりな反応だ。ぷっ」
え、何かウケてる。皇太子殿下にウケてる!?
と言うかお父さまも皇太子殿下にそうなの!?甥っ子とは言え皇太子殿下なのにっ!!
「俺に社交辞令を求めるような兄上が、俺を扱いこなせると思うか?」
と、お父さま。その“兄上”と言うのは紛れもなく皇帝陛下のことで。
「参考になります、叔父上」
そして、シュリュッセル王国籍になっても、未だ帝国全体の守護神と名高いお父さまにそう敬意を示す皇太子殿下。
立場としては、皇太子殿下の方が上のはずだが。叔父として敬意を払っているだけだよね?
「あと、娘に変な色目を使ったら、お前とは言えたっぴらかすからな」
“たっぴらかす”ってなんだろう?でも、多分物騒な意味だろう。
「はい、肝に銘じておきます」
皇太子殿下が優雅に微笑んでお辞儀する。皇太子殿下もイケメンだからなぁ。微笑むたびに貴婦人方からのため息が漏れる。
いや、私はザカリィが一番だけど。
そう、ザカリィの顔に目を向けると、ザカリィがめっちゃ甘い微笑をくれる。やば。その瞬間にも貴婦人たちのため息がっ!
だけど、長い間魔物の血を引いているということで嫌厭されてきたザカリィが周りに好かれるのはいいことなのだろうか。
「俺は、リューリに好かれればそれだけでいい」
そう、耳元で甘く蕩けるような声で囁かれれば。
ひぁっ!?ちょっと、イケメンが近いっ!表情筋がだらしなく緩みそうになるぅ~~~っ!
「おや、夫人。具合でも悪いのですか?私が医務室までエスコートして差し上げましょうか」
「俺の前でいい度胸だな」
ひぃ~~~っ!この甥と叔父のにらみ合いがシュラバすぎる~~~っ!
そしてその光景に笑顔の王妃殿下であるお義姉さま。そして笑顔が引きつっている国王陛下。この状況を打開するためにはっ!
「ザック、リューリを医務室まで運ぶように」
「ふん、貴様にしてはいい判断だ、戦神」
何だかお父さまが気を回してくれたようで。そして、ザカリィはこの状況を逆手にとって逃げる気だ。このパーティー会場から。
―――陛下の更に引きつった笑みからも感じ取れた。




