王妃殿下とのお茶会
―――ここは王城の中でも正妃さまが生活する場所。と言っても当代のラーシュ国王陛下は妃はゼフラお義姉さまのおひとりだ。
ラーシュ国王陛下のお母君がそうだったように、帝国からの信頼の証に妃を派遣されることもあり得ると言ったらあり得る。しかしながら、ラントカルテ帝国の皇弟であり戦神として名を馳せたお父さまがいる以上その可能性は低いそうだ。
それに、ラーシュ国王陛下のお母君は帝国の皇族に近しい帝国公爵家のご令嬢だったらしい。更にはそのご令嬢のご姉妹が先代皇帝陛下に嫁いでいるという。先代の皇后陛下ではないはずだから、皇弟殿下や皇妹殿下のどなたかのお母君と言うこと。今度お父さまに聞いてみようかな。
ともかく、そのご令嬢の実子であり、皇帝陛下のご弟妹の従兄弟であるラーシュ国王陛下が国王は帝国との姻戚関係も近いのだ。もしも帝国から妃が嫁ぐとすれば、恐らくシャルル殿下の代だという話である。無論キララ妃殿下が婿を取る場合も考えられるが、その場合は状況が異なる。
皇弟殿下のほとんどは、属国の君主として婿入りしているのである。帝国からそのような措置が取られる属国と言うのは大体が問題を抱えており、お父さまのような例は稀なのだ。まぁ、お父さまの場合はぶっちゃけザカリィの監視と言うのが建前で、シュリュッセル王国の帝国からの信頼が揺るがない限りはそのようにはなるまい。キララ姫殿下が帝国に嫁ぐという逆はあったとしてもだ。
いや、国民に愛されているキララ姫殿下が嫁いだら多分国民の大半は泣くだろうから、その可能性は今は考えないようにしとこう。
そう言えば。ラーシュ国王陛下のお母君は側妃のはずだ。だって、ヴィーダーシュプルフ公爵家から嫁がれた神官長・ルークさまとザカリィのお母君は先代の正妃さまなのだから。
はて。何でラーシュ国王陛下のお母君は帝国から嫁いだのに、“側妃”だったのだろうか。何だかここら辺がしっくりこないのだが。
「お待たせ。待たせてごめんなさいね」
「あ、いえ。お義姉さま」
物思いにふけっていたら突然声を掛けられ、その声の主に驚いて立ち上がる。
「会議が推しちゃって」
と、かわいらしく仰ってくれる、ダークブラウンの髪にブラウンの優し気な瞳を持つこのお方が、ラーシュ国王陛下の妻で王妃殿下である。
魔ぉっ、いや、偉大な魔法使いとしても有名なのだ。
「いいえ、むしろ私の方こそお忙しいのに」
「いいのよ。私もリューリちゃんとお茶したかったし。さ、座って」
お義姉さまの言葉に、私も一緒に椅子に腰かける。すかさず王妃殿下付きの侍女がお茶と菓子を用意してくれた。
早速とばかりにシーザーさんが先日王妃さまにお話してくれたらしく、せっかくだから約束のお茶でもしよっかと誘われて、本日私はここにきている。近くにはアリシアもおり、何だか侍女さんたちにモテていた。やっぱり美人な上に凛々しくてカッコいいもんね、アリシア。
ついでにザカリィはシーザーさんによって仕事に連れて行かれている。まぁ、本人は少し抵抗していたのだが。しかしながら、今回の茶会の相手がお義姉さまとあってはさすがのザカリィも悲し気な目をして引き下がるしかなかったのだ。
やっぱり初代魔ぉっ、いや、お義姉さまはすごいなぁとひしひしと感じてしまう。
「聞いたわ。先代女伯爵のこと」
「は、はい」
「全ての研究が世に出ていたら、きっと大手柄。生前に昇爵もあり得たのだろうけど。研究肌の魔法使いってどちらかと言うと自分の欲求の方が強くて。権力に執着しないひとも多いのよね」
「そ、そうなんですかね」
「私もラーシュに100回くらいプロポーズされてやっと王妃の座に就くのを決めたんだから」
ひゃっ、100回!?そんなにやったの陛下っ!!すごい忍耐力と情熱である。
「きっと、女伯爵も守りたいものがあったのね。例えばオーヴェさんとリューリちゃん」
「そうですね。母のおかげで、大切なものも守れましたし」
「でも、はっきり言ってその後やってきた寄生虫は別問題ね」
「あはは。今は取り敢えず助かって何よりです」
「女伯爵が守ろうとしたリューリちゃんに手を出したんだもの。それに父親は皇弟殿下だったなんて。リューリちゃんは籍は完全にシュリュッセル王国民だけど皇族としても一度その系譜に数えられた。きっと帝国で痛い目をみるわよ」
「帝国?あれ、シュリュッセル王国で裁かれるのでは?」
「確かにウチにもその権利はあるけれど、今回のことを聞いて帝国から是非にって勧められたのよ」
え、何故帝国が?
「信頼を置く英雄王・ラーシュの姪っ子に手を出したのだからけっちょんけっちょんにしてやるって言われて、オーヴェさんもラーシュも呑んだみたい。ただ処刑するだけなんて生ぬるい。死んだ方がましという目には遭わせるって言ってたし」
うおっ、恐っ。それって一体どんな目?知りたくもないけれど。
「そ、そうだったんですか」
いつの間にそんな恐ろしいことを決めてたんだ。てか、シュリュッセル王国で裁かれるよりも確実にあちらでの罪の方が重くなりそう。
「あれ、あの。今国王陛下の姪っ子って言いました?」
「えぇ」
「それってどなたのことなのですか?」
「ん?リューリちゃんに決まっているじゃない」
「わ、私!?その、ぎ、義理ですよね」
国王陛下から見たら私は国王陛下の義弟の妻なのだから義妹では?
「あら、オーヴェさんから聞いてないの?」
「えぇ、全く」
「あらあら。じゃぁ、先日の仕返ししちゃおっ」
お義姉さまの笑みが何となく恐い。それは先日、お父さまがお義姉さまのことを“初代魔王”とばらした件の仕返しだろうか。
「あのね、オーヴェさんのお母君、先代皇帝の第2側妃さまの妹がラーシュのお母君なの」
え、てことは。お父さまと国王陛下って従兄弟では!?
皇弟殿下か皇妹殿下のどなたかの従兄弟ではないかとは思っていたのだが。
「えぇと。その、不躾なことをお聞きしても?」
「えぇ、もちろんよ。リューリちゃんも私たちの大切な義妹ですもの。なんでも聞いていいのよ」
「で、では。お言葉に甘えて。その、陛下のお母君は“側妃さま”なのですよね。単純に考えれば、属国の公爵家出身の先代正妃さまとは立場が逆になるのではないかと思ったのですが」
普通に考えれば、宗主国の皇族の血を引く先代側妃さまの方が立場が上のはずだ。
「確かにそうね。帝国としても先代皇帝陛下は先代の正妃さまを格下げして、ラーシュのお母君を正妃にと望まれたのだそうよ。けれどそれを望まなかったのが先代の側妃さまなの。自分は側妃として、先代正妃さまを支えるからって。そんな先代の側妃さまと正妃さまはとても仲が良かったそうよ」
そうなんだ。正妃さまと側妃さまって、女の争いが昼ドラ風になるのではとちょっと危惧していたけれど、そう言う関係もあるんだ。
「そう言えば、先代の側妃さまって」
「今はラントカルテ帝国にいらっしゃるわ」
「それは」
どうしてだろう?
「先代正妃さまが亡くなられて、ラーシュが即位して暫くして体を壊してね。どうせなら故国で静養させたいとラーシュが望んだの」
「そう、だったのですか」
普通に考えれば、出戻りなんてことは帝国の恥になりそうだけれど、やむを得ない事情があったのだろう。一歩間違えれば帝国と王国の関係にひびが入りかねない行為だ。
「本音を言うとだけど」
「はい?」
「隣国のことは知っている?」
「え、えぇ。一般的なことでしたら。“キドゥーシュ”のことですよね」
「そこから身を守らせるためだったと言われているわ」
「それってっ」
先代側妃さまはキドゥーシュに関して何か良くないことを知ってしまったか、そう言う存在であったかと言うこと?
「今度の戦勝を祝うパーティーにも、ラントカルテ帝国の同じ属国としてあちらからの使節団もくる予定なの」
「それは仕方がないとはいえますが」
「ふふっ、そうよね。シュリュッセル王国民としては何だかね」
そう、お義姉さまが苦笑される。
私は一般的なことしか知らないけれど、シュリュッセル王国民としては複雑なのだ。キドゥーシュと言う国は。




