閑話:アレンとザック
※アレン視点のお話です
―――成人の15歳を迎え、俺は正式に騎士として叙任された。そして、遂に王弟殿下が帰還されたのだ。シーザーさまに付いて王城に向かい、そして邂逅した。
闇色の髪に朱色の鋭い瞳を持つ、驚くほどに顔立ちの整ったひとだった。
「久々だな。ザック。随分と見違えた」
「・・・」
「何だ。俺の顔を忘れたのか?」
「何で」
「は?」
「8年も経っているなんて聞いていない!!」
その瞬間、物凄い覇気のような、魔力のような黒い稲妻が室内を駆け巡る。
んなっ!?これが王弟殿下の力!?
何もかもが桁違いだ。こんなすごい方に、自分が仕えられるのだろうか?
「あぁ、それは陛下に言え。俺は知らん」
しかし、シーザーさまは冷静に言い放った。
「言った。でも兄上も忘れていたって」
王弟殿下がそっと顔を背ける。
「それで引き下がるお前もだいぶやられているな。まぁ、戻って来てから早々悪いが、お前付きの騎士団を編成するから」
「・・・リ」
何かを呟いて王弟殿下が俯く。
「あのっ」
「あぁ、いい。アレン。コイツは元々こうなんだ。まだ諦めていなかったのか」
「リューリは待っていてくれている。うん、昨晩もそう言っていた」
「リューリさま?どなたですか?」
俺がシーザーさまに問えば。
「お前は誰だ?」
不意に王弟殿下が俺を見やる。
「アレン・リッターだ。俺が直々に鍛えたやつだ。今日からお前の侍従になる」
俺は騎士に叙任された時に、姓をもらった。それが“リッター”だった。
そして、シーザーさまの紹介と共に騎士の礼をとる。
「は?聞いていない」
「だが、決定事項だ。お前は嫌がって宮に侍女さえ常駐させない」
「あちらが勝手に逃げていく。そんなに恐いのなら出て行けと脅したら出て行った」
「お前は相変わらずだな。だが、いつまでも陛下やルークさまに頼るわけにはいかんだろう。侍従のひとりくらい持て」
「む。お前は、魔物の匂いが混ざっているな」
不意に王弟殿下が俺を見据えてそう告げた。
「は、はい。俺には魔物の血が混じっています」
王弟殿下は俺と同じ立場だと思っていた。けれど地位も力の差も何もかもが違う。だから、それだけで受け入れられるなんて、浅はかな考えだっただろうか。
「まぁ、いい。好きにしろ。俺の威圧に動じないのならば邪魔にならない」
威圧って、さっきのか?確かに驚いたけれど。
「早速と言ったな、シーザー。団員の候補を集めろ。俺はとっとと討伐してリューリを嫁にする」
「お前の目的はいつもそれだな」
「当たり前だ。リューリのためにここまで我慢してきた。兄上が必要だというのなら、魔物でもなんでも狩ってやる。とっとと終わらせる」
途端にキリっとした表情に変わる王弟殿下。こんなすごい方に想われる女性は、一体どんな方なのだろうと思いつつも、俺は遅れないように王弟殿下とシーザーさまの後に続いた。
***
大規模な魔物討伐・戦。その中心となり最前線で戦う討伐団の団長は王弟殿下。そして副団長はシーザーさまだ。
王弟殿下の前には、精鋭の騎士や魔法使いたちが集められていた。彼らと共に、神殿からも神官が数名ヒーラーとして同行するという。
壇上に上がった王弟殿下は、口を開くよりも前に魔力を思いっきり解放した。まるで黒い稲妻が円を描くように増幅していく。
そして開口一番に王弟殿下は告げたのだ。
「俺にビビるようなクズはいらん!帰れ!!」
―――と。
確かに、全力で戦う王弟殿下の側で、団員たちがビビっていては戦いにならないだろうけど。そもそもあれで本当に魔物と戦えるのだろうか。いきなりの王弟殿下の行動に、集められたほとんどの騎士や魔法使いたちが戦意喪失していた。
『ばっ、バケモノだ』
『噂は本当だったんだ!』
『いっ、行きたくない!』
人間は生命の危機を感じると、途端に本音を吐露してしまうのだろうか。ビビッてへたり込んだ者たちはそう震えながら王弟殿下を見上げる。
実際に、シーザーさまの侍従をしていた時にもあぁいう声を聞くことはあった。何せヴィーダーシュプルフ公爵家は亡くなられた王弟殿下の母君の実家だ。シーザーさまはそのことで王弟殿下を悪く言うような者たちは本邸に近づけないようにしていたし、必要ならば追い出すことも厭わない。
例え王弟殿下の母君の実家とは言え、王弟殿下を悪く言うものが公爵家にいればそれは王家からの公爵家への信頼が損なわれる。
王弟殿下は魔物の血を受け継いでいる以前に、王弟殿下として王室の一員に数えられている。俺をどんなに悪く言おうと、俺はただの平民だから構わないけれど王弟殿下に対しては違う。
それに同じ団内に王弟殿下を悪く言うものがいれば、それはそれで不快だ。
「俺に付いてこられるものだけ付いてこい。他はいらん。移動する。ルーク兄上から神官を借りないとならんからな」
そう言うと王弟殿下はマントを翻し、颯爽と歩き去る。俺とシーザーさま。そして王弟殿下に付いていく騎士や魔法使いたち。
随分と数が減ったなぁ。そう思いつつ。
「アレン。ザックはどうだ?やっていけそうか?」
「はい。王弟殿下は、いえ団長はとてもカッコいいですね。あの背中に付いていきたいと思えます」
「ぶっ」
「シーザーさま?あ、副団長」
「いや、まぁ、いい。うまくやれそうで何よりだ」
シーザーさまが吹き出したわけはよくわからないけれど。
最終的な団員は、何故か武器を軽々と携える神官たちを含め30人だった。
まぁ、正確には後方部隊や支援部隊なども含めれば結構な数になるが。前線で戦う精鋭はこの30人になる。
団員たちには、俺の身の上を明かした。しかしながら、魔物の血を引く団長に付いていくと決めた団員たちはあからさまに嫌悪を示すこともなかった。
これから命を預けあう身。話してくれたことを感謝されこそすれ、その事実で不当に蔑まれることもない。
―――むしろ、団長のあの覇気をやってみてくれと要求されて困った。
さすがにあれはできないので断ったが。
***
慌ただしく出立の準備をすませ、野宿で夜を明かすことになる日のことだった。
「アレン」
「はい、団長!」
「お前は俺の侍従なのだから俺と同じテントを使え」
「はい、光栄です」
「あと、俺の添い寝当番は基本的にシーザーと交代制だ」
「はい?」
添い寝当番?
「侍従なのだろう?だったら俺の世話をしろ。添い寝も世話の一部だ。いいな?」
「え、はぁ」
「うん、では」
そう言うと、団長は各テントや野営準備の確認に向かって行った。
―――何だかわからないが団長にちょっとした愛着が湧いた瞬間だった。
うん、シーザーさまが悪態をつきながらもお守りを引き受けるのもわかるなぁと思った瞬間だった。
―――ちょっと放っておけない。そんな風に思わせる方だった。
~おまけ~
アレン「団長って何でひとりで寝られないんでしょうか」
シーザー「さぁ、知らん」
アレン「修業の地でもどなたかと寝ていらっしゃったんですかね。おひとりで行かれたんでしょう?」
シーザー「あちらでは野性の竜を手懐けて一緒に竜の巣で寝ていたそうだぞ」
アレン「え‶」
※本日の更新はここまでです(`・ω・´)ゞ※




