夢の中の誓い
※リューリのセリフを調整しました
―――赤は魔物の目だ。
最初にそんなことを言い出したのは、一体誰なのだろう?
本当にバカらしい。
私は色の抜けた白い髪にローズレッドの瞳を持っていた。母は自分にこれっぽっちも似ていない私に対し、“父”にそっくりの外見だととても愛おし気に教えてくれた。
母は未婚だった。だから母と結婚できなかった私の父を、“実は魔物だったんじゃないか”と噂するものは多い。
しかし、そんな話は聞いたことがない。そもそもナイショだとは言え私の父親はラントカルテ帝国の軍人だ。魔物がラントカルテ帝国の軍人になれるだろうか?しかしそれを周囲に話すことはできなかった。
そして、母のことは慕っていても心の中では私を気味悪がっていた亡き家令以外の使用人たちは、魔物の血が混じっているかもしれない私よりも、“聖女”ユーフェミアを信じた。
不当に伯爵家を乗っ取りにかかった寄生虫の娘の方を信じたのだ。
彼らは、いい加減な噂を信じて私が“魔物の血が混じった子ども”だから聖女・ユーフェミアに尽くすことで魔物から身を守ろうとしているのだろうか。
本当にバカバカしい。
せめて、父と連絡をとる術さえあれば。
そう言えば、昔夢の中で出会った“ザカリィ”も赤い瞳をしていた。私のローズレッドの瞳よりも明るい、朱色の瞳。
あぁ、幻でもいい。ただの夢でもいい。父に会えないのならせめて、“ザカリィ”に会いたい。
そう思いながら、熱でぼぅっとした私の瞼は深く閉じ、意識は夢の中へと誘われる。
―リューリ―
この、声は?
―リューリ―
成人した男のひとの声。けれど何だか面影があるような。
―リューリ、俺を呼んだのか―
ふと振り返ったそこにいたのは。漆黒の闇色の髪に私のローズレッドの瞳よりも色の明るい、朱色の瞳をした青年だった。
「もしかして、ザカリィ?」
「そうだ、リューリ。また、会えたな」
「うん、本当に、久しぶり。またあなたに会えるとは思わなかった」
「あぁ、俺も。俺もだ。リューリ、俺はずっとお前を迎えに行きたかった」
「私を?」
「そうだ。その準備が、もうすぐできるんだ」
「準備?」
「あぁ、この戦が終われば、俺はお前を迎えに行ける」
「戦。ザカリィは魔物と戦っているんだよね」
この世界の“戦”と言えば、ひととひととの争い、そして魔物の争い。
ラントカルテ帝国の一国となったシュリュッセル王国はその庇護の元で国同士の争いとは長らく無縁であった。しかしながら、シュリュッセル王国を始めこの世界の多くの国々は深刻な問題を抱えていた。それが、魔物。
突如として発生し、群れを成してひとを襲う魔物たち。
シュリュッセル王国では彼らとの戦いを主に“戦”と呼ぶ。
小規模な魔物の発生なら毎年起きている。確か大規模な発生は、今の英雄王陛下が即位される前の20年前と、つい最近は母が亡くなる前の2年前。
当時、討伐団団長に抜擢されたのは英雄王の“血のつながらない”王弟殿下だったはずだ。王弟殿下はザカリィや私と同じ赤い瞳を持つ方だという。
だからこそ私は身分が違うとはいえ親近感を持っており、彼を影ながら応援していた。どうか、無事に帰ってきて欲しいと。彼は、王弟殿下とその戦に参加しているのだろう。
「本当に、私を迎えに?」
「あぁ、約束する」
例え夢でも、そう言ってくれる彼の心が嬉しい。
「ザカリィ」
「リューリ?」
「もし、もしも戦が終わって、私を迎えにくるなら」
「あぁ」
「どうか私を、ランツェ伯爵家から連れ去って」
「・・・どう言うことだ?」
「ランツェ伯爵家は、母の遠縁の聖女一家によって乗っ取られたの」
「んなっ!?何だと!?」
「お願い、こんなこと頼めるの、ザカリィしかいなくて」
夢でも幻でもいい。心の支えが欲しかった。
「あぁ、約束する。必ず、リューリを助ける。だから、待っていて」
「う、うぅ、ごめんなさい。あなたが命を懸けて戦っている時に」
「俺が命を懸けるのは、いつだってリューリのためだ」
そんなことをさらりと言ってくれるのは、やっぱり私の夢だから?でも、それでも。
「信じてる、ザカリィ」
「あぁ、待っていてくれ。リューリ」
ザカリィが私を抱き寄せる。そしてその温もりに私はそっと身を委ねた。
夢のはずなのに温かい人肌の温もりに包まれている気がするのは、熱のせいだろうか?




