プロローグ
―――いつも夢の中に現われる、あなたはだぁれ?
「私は、私はリューリ・ランツェ。あなたは、あなたの名前は?」
「俺は、俺はザカ・・・ザカリィ」
「ザカリィ?」
「そうだ。リューリ」
幼い頃に夢の中で出会ったその男の子は、私のただの夢の空想だとは思えなくて。
「あの」
「少しだけ」
「うん?」
「少しだけ、傍にいてくれないか」
「私で、いいのなら」
そうして、夢の中なのに何故かよりそう彼の体は温かくて。互いの温もりを感じながら私は瞼を閉じた。
―――数年後
私は、リューリ・ランツェという。このシュリュッセル王国では、16歳になれば成人となる。本来ならば1年前に亡くなった母から伯爵位を受け継ぎ婿をとるはずだった。
この国では、他に後継者がいなければ1代限りの女性の爵位継承が可能となる。その1代が私の母であった。だから私は婿をとり、爵位を継いでもらう必要がある。そしてその爵位を継承するのは私の実子のみとなり、私の血を引いていない子どもはその爵位を受け継げない。そう、なるはずだったのだ。
無論、16歳になってすぐ婿を取らなくてはならないわけではない。代理人がいれば、20歳まで爵位継承を待つことができる。私は長年母を支えてきてくれた家令を代理人にするはずだった。けれど母が亡くなってすぐに彼も後を追うように亡くなってしまった。高齢だったというのもあるけれど。私はすぐに代理人を探さなくてはならなかった。
元々ランツェ伯爵家とやり取りのあった貴族を頼ろうとしていた矢先、それらは現れたのだ。
その男は母の亡くなった妹の夫の弟で、オックス子爵家の次男だった。夫婦でお互いに家督を継げなかった彼らは、実家の子爵家で寄生虫のようにして彼らの娘・ユーフェミアと共に子爵家に居座っていたらしい。そんな時に彼らが嗅ぎ付けたのが、後継者不在となったランツェ伯爵家だった。
元々領地持ちではなく、魔法研究で生計を立ててきた我が家は使用人もひとにぎり。母の代から仕えてくれたひとにぎりの使用人たちを彼らは買収し、そして私を納屋に閉じ込めてランツェ伯爵家を乗っ取ったのだ。
そして信じていた使用人たちに裏切られた私は、ひとり助けを求めることもできずに暗い納屋の中に閉じ込められた。
更に驚くべきことに、娘のユーフェミアは聖女に選ばれたのだ。彼らは聖女の生家としてランツェ伯爵家を事実上乗っ取った。
あぁ、お母さま。どうしてこんなことに。
長年仕えてくれた男の使用人たちは、見目麗しいユーフェミアに夢中。更に女性の使用人もまた、見た目だけはいいユーフェミアの父で伯爵位を不当に簒奪したリチャード・オックスに夢中になった。メイドに日々夢中になるリチャード・オックスに、夫人のサンドラ・オックスはその苛立ちを私にぶつけた。
魔法が使えれば、こんなところすぐにでも脱出できるのに。私は使用人たちに騙され魔力を使えなくする腕輪をはめられていた。
あぁ、お父さまに連絡さえつけば。
私の母・フェリ・ランツェは未婚であり、母は私を未婚で産んだ。戸籍上は私に父親はいないが、実際にはいる。当たり前だ。私が産まれた以上、父親はどこかにはいる。
そして、そのひとと母は結婚できなくとも共に魔法で文を交わしていた。
当然、私もだ。
母が言うには、私の父はこのシュリュッセル王国の宗主国であるラントカルテ帝国の軍人らしい。属国の伯爵家の母とは相容れない身分のひとで、結婚が許されなかった。だから対外的にも私の父の存在は伏せられている。
名前と、容姿だけは知っている。けれど姓は知らない。その他のことは何も知らない。
定期的にやり取りをしていた魔法の文も途絶えてしまった。恐らく私の魔力が封じられてしまったから、その文も行き先が分からずに届かないのだろう。そして、私も父に文を届けられない。
あぁ、何とかしてこの窮状を外に届けられないのかな。
私は絶望の中、熱でぼうっとした頭を休めるため、ふらふらと横になりながらぐったりとしてすっかり古くなってかたくなってしまった藁の上の床に就いた




