初代魔王
「オーヴェさま。自分はザックさまと同じく魔物の血を受け継いでいます。何故、ザックさまなのですか」
そう、アレンは苦し気にお父さまに問うた。
「大神殿の予言については、魔物の血を受け継ぐものが魔王の再来として現れるというものだ。名指しはない。だが、此度の戦で濃厚な候補となったのがザックと言うだけだ」
「それならっ!」
アレンが憤る声が響く。アレンは、信頼するザカリィがそう呼ばれることを快く思っていないのだろう。“魔王”と聞けば、私は前世の記憶を持っているから思わず“ラスボス”“ロリッ娘魔王”“魔族の国を治める王(※但しこの世界に魔族と言う種族は今のところ聞いたことがない)”など、ラスボス系以外にも多く思いついてしまうが。やはりこの生粋の世界の考えを持っているひとびとにとって、魔王は恐ろしい存在なのだろう。
実際に、原作では魔物よりも遥かに恐ろしい人類の敵であったわけで。
「再来と称されているが、それも事実とは異なる。過去、魔王と呼ばれた存在は帝国の歴史上存在しない」
「え?」
その言葉に、私はついお父さまの顔を見上げてしまった。今度は私の前髪に優しく手を添えながらアレンを静かに見上げている。
下から見ても、何あの彫刻美みたいな顔立ちっ!!
「魔物の血を受け継ぐことが条件ならば必ずしもザックがそうなるとは限らないし、そもそも本当に魔王たる存在が現れるとも限らない」
「はい」
アレンの静かな相槌を返すのが聞こえる。
「だが、帝国の歴史上“魔王”と呼ばれた存在がひとつだけある。それが俺が知る限りの初代魔王だ。それが何だかわかるか?」
「え、いえ。聞いたこともありません」
私もだ。しかし、初代魔王。そう呼ばれる存在ならばはっきりと史実に残っていてもおかしくないのに。
「正式なものではないからな。帝国の歴史上も文献や記録に残っているわけでもない」
それは一体どういうことなのだろう。正式な文献や記録に残ってはいないけれど、“魔王”と呼ばれた存在がいたってこと?
「―――名をゼフラ・バシレウスと言ってな」
その場に、沈黙が流れた。
あ、あのー。お父さま?そのファーストネームにものっそい聞き覚えがあるんですけど。
「今はゼフラ・シュリュッセルと言う」
シュリュッセルの姓で“ゼフラ”さまと言えば。
お、王妃さまぁ―――っ!!!
まさかの王妃さま!?何それ、何で王妃さまが魔王なの!?
確かに最強通り越して最恐な気はしていたけれどっ!!
「その昔、英雄王と共に戦場を駆けた女神。だが同時に天才的な魔法使いでその手腕はまるで魔王のようだと称された」
その魔王は、魔物の王と言うよりも何か別の意味での魔王に聞こえるのだけど。
「俺が知っている魔王はあれだけだ」
沈黙が、沈黙が長すぎるっ!みんな固まってるんだけどっ!!この空気どうしてくれるのお父さま!まさか冗談を言っているわけじゃないよね!?
「まぁ、魔力が膨大で、帝国の脅威になりえるものを大神殿は“魔王”と称したのだろう。それが今回はザックだった。そしてそれに対抗し得るのが唯一戦神と呼ばれた俺だけだ。俺の異名にはいくつかある。戦神、軍神、それから魔神」
んまっ、魔神まで!?戦神だけじゃなかったお父さまの異名っ!!何故魔神ってつけた!どこの誰じゃおらぁっ!!
「帝国の皇帝に忠誠を誓った魔神がシュリュッセル王国に根を下ろす傘となる。それならばそれほど安全なことはない。それが帝国民や諸外国を納得させ、魔王とザックがシュリュッセル王国で暮らせるための最善だ」
あの、お父さま。いま完全に王妃さまを魔王扱いしませんでしたか?
「ザックさまが魔王の再来と謳われるのは変わらないのですね」
「あぁ、だが今のところ魔王との伝説を残すのは王妃のみ。世界中の魔法使いどもが知っていることだ」
いや、王妃さま魔王伝説、世界中の魔法使いに浸透してんのかよっ!!そんな話聞いたことないけど!?お母さまが言わなかっただけで私が知らなかっただけなんだろうか。確かに正式な記録として残っていないのなら魔法の勉強をしていた私が知らなくても無理はない。本格的に一人前の魔法使いとして活躍したことはないし。
「ザックは確かに帝国の要監視対象ではあるが、重要なのは帝国に対し信頼を置ける人物たる存在にすることだ。王妃のようにな。そのためにも俺がここに来た。リューリのついでだが」
わ、私のついで。でも、そう言うことならお父さまはザカリィの味方になってくれるってことだよね。口論はしているけどザカリィの敵になるわけじゃない。
むしろ王妃さまが英雄王陛下の妃として帝国に認められるように力になってくれるということ。
「お父さま」
「どうした、リューリ」
「ザカリィのこと、そのザカリィの味方でいてくださいますか?」
「任せろ。リューリ。俺はお前を悲しませることはしない」
「はい。ありがとうございます」
「だが、調子に乗っているようならぶっ飛ばす」
ぐごごごご・・・
「いや、平和的にお願いします?」
「俺も、ザックさまには忠誠を誓っています。俺は、俺が生きて来られたのは、ザックさまにお仕えするためですから」
アレン。アレンはそこまでザカリィに・・・
「ならば、特に異論はないな」
「はい。これからもザックさまのために」
ザカリィは原作では孤独だった。けれど今はザカリィを信頼し付いて来てくれるひとがここまでいるんだ。お父さまも力になってくれる。
それが何よりも嬉しい。あの孤高の魔王だったザカリィも前世では好きだったけれど。今の優しい微笑みをくれる現実のザカリィが好きだ。
あ、好き?
不意に脳内に流れたその言葉。
す、好き、なのか。私。
いや、その結婚するんだし、いいんだよね?
思わず仰向けの状態から横向きに体を動かし両手で顔を覆ってしまった。
「リューリ、どうかしたのか?あのガキが調子に乗ってリューリに何かしたのなら一発ぶん殴るが」
「いいいぃ、いや、何もないのでヤメテクダサイ!!!」
ヤバい。お父さまの目がマジな気がする。この体勢で見えないかもしれないけれどマジな気がする!!
でもそれはあくまでもザカリィにとっての義父としての目線なのだろう。
何だかそれがちょっと嬉しかった。
~リューリのわかりやすい(?)解説~
最“恐”:多分王妃さま
最“強”:ザカリィ(ザカライアス、ザック)
最早神ってる:お父さま(オーヴェ、戦神、軍神、魔神)




