婚姻までの道
アリシアは元は男爵家の生まれだが、ヒーリング魔法が使えたことから神殿で神官として働き始めたらしい。そんな彼女は武術にも身を入れていて、武器は大刀らしい。腕はほっそりしていて美少女なのに、マジかっ!!
神官長さまが言っていた、戦場でも戦える神官っ!!きっとザカリィにとっても有能な神官として補佐してくれていたんだろう。
私は貴族令嬢であるアリシアに慣れた手つきで洗われ、そしてワンピースを着せてもらった。黒い生地で、襟元にレースをあしらったかわいらしいデザインだ。
「あの、アリシアは慣れているの?」
私は水浴びくらいしか慣れていないけれど。
「行儀見習いでメイドもやっていたし、見習い神官の時はなんでもやらされたから」
同世代の少女であるアリシアは飾らぬ感じで話してくれて、私としても何だか気楽である。
「アリシアは着替えないの?」
「私はまだ団長の団の団員だから、これでいい」
「そっか。あの、ザカリィはどんな団長なの?」
ザカリィは原作では孤高の魔王だった。けれどここでは団長として部下のひとたちに慕われてる・・・んだよね?
「団長は強さだけなら一番だ。一番頼りになる」
確かに、原作ではラスボスの魔王だからね。
「だが空気を読まない」
読めない、のではなく敢えて読まないと!?
「でも、あんなでろ甘な団長は初めて見た」
でろ甘。うん、周りからもそう思われていたか。
「リューリ!」
そしてそんなでろ甘にしてくる主が現れ・・・
―――誰だ、あれ。
いや、ザカリィなんだけど。全く以ってザカリィなんだけど。
何か王子さまみたいな恰好をしてるぅ―――っ!
まぁ、王弟殿下なのだけど。王族らしい格好なのだと思うけど。
ひらひらの襟や袖のついたブラウスや金色の装飾のついた暗めな赤いスーツ。
こんなザカリィ、原作でも見たことな―――いっ!いや、それは当然である。原作のラスボス・ザカリィとは立場が全く違うのだ。
「リューリ、あぁ、リューリかわいい♡」
そして謎の呪文を呟きながら私を抱きしめる。
「そうだ、リューリ。これを付けて」
と、ザカリィが首飾りを私の首にかけてくれる。
雫型で、ザカリィの瞳のような朱色の不思議な宝石が付いている。
「あの、これは」
「リューリに俺の色を身につけて欲しい」
「えっと」
やっぱりこれはザカリィの瞳を意識して・・・
この黒のワンピース、ザカリィの髪の色!?全身ザカリィコーデ!
あれ、ザカリィのスーツの色。暗めの赤だよね。まさか、私のローズレッドの瞳の色!?元々持っていたのかな?偶然かもしれないけど、意識してたのか?
「リューリかわいい♡あぁ、リューリが俺の妻になったなんて嬉しい」
まぁ、その陛下の許可は得たわけだけども。
「団長、まずは書類にサインをしないといけません。そうしなければ戸籍上の夫婦にはなれませんよ」
アレンが書類を見せてくる。これが陛下が仰っていた婚姻に必要な書類ね。
「わかった」
「あ、でもザカリィ、待って」
「どうした?リューリ。もしも俺とリューリの仲を引き裂くものがあれば、即時抹殺するから大丈夫だ」
それは大丈夫じゃないっ!!
「一応生かしておいてください。陛下に叱られますよ」
「それもそうか。残念だ」
陛下、ありがとう。私は心の中で陛下に礼を述べた。
でもアレンの“一応”の部分がちょっとだけ引っかかる。
「あの、私伯爵位を受け継げる方を婿にとらないといけないから。その、王弟殿下が継いでいいものなの?それとも私がこの爵位を陛下にお返しすべき?」
そう、告げた時。途端に扉が開いた。
「ザック。準備は済んだか。リューリ嬢のことで陛下がお待ちだ」
あ、副団長さんだ。
「わかった」
「リューリ嬢はここで休んでいてくれても構わないが」
「いえ、私も行きます!私のことですから!」
「そうだ、俺もリューリと離れるなんて嫌だ」
何だろう、決心を揺らがせるようなザカリィのこの一言は。そして重要なのはそこなんかいっ!
「わかった。体調に変わりはないか」
「え、えぇ。神官長さまにも診ていただきましたし」
「では、行くぞ」
副団長さんに案内されたのは応接間のようだった。アリシアとアレンは部屋の外で待つようで、私とザカリィ、副団長さんがその中に入る。
中には国王陛下と神官長さまがいらっしゃって、私とザカリィがその正面に腰掛けることになった。私の正面は神官長さまとは言え、斜め向かいが国王陛下!!
き、緊張せずにいられようか。そしていつも以上にザカリィが腰を掴んでぎゅむっと引き寄せてくるぅっ!!
「さて、今回のランツェ伯爵家の件だが、こちらで対応が遅れたことをまずは謝罪しよう」
そう、国王陛下が軽く頭を下げてきたっ!?
「そ、そんなことはっ!」
国内も国外も大変だった時に、一伯爵家を国王陛下に気にかけろと言う方が傲慢だと思うし。
「問題ない。リューリは俺が保護し、嫁に迎えた」
ザカリィがきっぱりと告げる。
「いや、まだ手続きが完了していない」
「だが、兄上は認めると」
「それは撤回する気はない。重要なのはリューリ嬢がランツェ伯爵家の正統な跡取りだということだ」
「それが?」
「お前たちが結婚するに当たり、方法は2つある。まず1つめは、ザックに此度の討伐における褒章としてそれ相応の爵位を授けてその夫人として迎える。その場合、ランツェ伯爵家の爵位継承者がいなくなるから、国に爵位を返還してもらうことになる。2つ目はリューリ嬢を正統なランツェ伯爵家の跡取りとしてザックを婿に迎えさせること」
このシュリュッセル王国の法律では、仮にザックが爵位をもらえばランツェ伯爵家の爵位を継ぐことができずに継承者がいなくなる。
一度女伯爵としてお母さまが継承している以上、私が婿を迎えなければお家断絶になる。
そしておのずとランツェ伯爵家の爵位は国に還すことになる。その場合の最大の問題は私は貴族ではなくなるのだ。だって、ランツェ伯爵家が断絶するのだから。
更に私は平民になる。貴族か平民にこだわるわけじゃないけれど、そうなればそもそもザカリィと結婚できないのだ。
まぁ、私がザカリィを諦めて婿を探すという道もあるが、その隙にまた寄生虫に家を乗っ取られるなんてまっぴらごめんだし。
ザカリィが私が他の婿を取ることに満足するとは思えない。
何だろう。強烈に病みそうだもの。これ、乙女の勘。
「けど、2年間最前線で戦ってきた王弟であるザックに伯爵家への婿入りをさせて伯爵位を授けるのは褒賞としては嘗められるよね」
と、神官長さま。
「特に、副団長の身分も問題なんだ」
と、陛下。副団長さんの身分?どういうこと?
「副団長のシーザーは、ヴィーダーシュプルフ公爵だ」
え?公爵?副団長さんがっ!?しかもヴィーダーシュプルフ公爵って神官長さまとザカリィのお母さまのご実家では?
「団長として国内外で大いに活躍した“王弟”であるザックを、褒賞で副団長よりも低い身分に臣籍降下させることはできない」
確かに、実績を残したのに最終的に与えられた爵位が副団長さんより下になってしまうのは世間体が心配かも。
むしろ、国王陛下がザックを冷遇したという風にも見られかねない。少なくとも国王陛下はそれを望んでいないんだろう。
「だから、ひとつ提案があるんだが」
「はい」
私は陛下の言葉に背筋を伸ばす。
「ランツェ伯爵位を、一度国に返還してくれ」
「・・・っ」
それはつまり、私は平民になる。ザカリィと結婚できなくなるということでは?
「兄上っ!」
さすがにザカリィもそれが分かっていたのか、怒りをあらわにして立ち上がる。
「まぁ、待て。話を最後まで聞け」
国王陛下の“待て”に、ザカリィが渋々ソファに腰掛ける。
「その、な。多分だが、身分の釣り合いは取れるはずだ」
「えぇ、そうですね。リューリさんのお話を聞いて確信しましたもの」
何故か国王陛下はげっそりしながらそう答え、相変わらず神官長さまはにこにこしている。
身分の釣り合いが取れる?一体どういうことだろう?
私は平民になるのでは?
「そろそろ到着するころだ」
何が、誰が到着するのだろう?
そう、思っていたら。応接間の扉がバァン!と乱暴に開かれた。
「えっ!?何っ!?」
「戦神!」
そう、ザカリィが叫んで驚いたように立ち上がりその“戦神”と呼ばれた人物を見つめていた。
―――そして、私も・・・
※爵位の継承関連についてはシュリュッセル王国独自の法律に基づいております※
※地球を含めその他異世界の法律とは異なります※




