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エルフの鍛冶屋 ―辺境の街で紡ぐ小さな物語―  作者: ぱられ


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初めての魔法

 魔法についての説明はある程度できたので、いよいよ実戦的な練習に入るが、ここからは私も注意深く少年の魔力操作を確認する必要がある。初めての魔法行使で怪我をしたり、体調不良を起こした結果、魔法自体がトラウマになってしまうことは決して少なくはない。


「さて、一通り説明はできたね。じゃあ早速、風の魔法から練習してみようか」


 私は少年を椅子に座らせると、足元に灰の詰まった布袋を置く。これで実際に風が起これば、灰が舞い上がって確認しやすいはずだ。


「座って練習するんですか?」


「初めのうちは魔力を使いすぎて頭が痛くなったり、めまいがしたりすることもあるからね。私がついている間は魔力の流れをこうやって見ているから、たぶん大丈夫だよ。だからしばらくは練習も、私の見ているところでしかしちゃダメだからね」


 少年は頷きながら、真剣に話を聞いてくれている。孤児院での教育なのか、彼の性格なのか、話はきちんと聞くし、約束はしっかり守ってくれる。工房での手伝いや仕事でもそうだったが、素直に聞いてくれるというだけで、何かを教えるのが本当にやりやすい。


「まずはさっきまで体の中で巡らせていた魔力を、ゆっくり手のひらから押し出すように意識してみて。そこの灰に向けて手をかざしておけば、実際に魔法が発動できた時に分かりやすいからね。魔力を体の外に出すのは難しいけれど、焦らずゆっくりでいいから」


 空気が動けば風が起こる。魔力でも同じことが可能なので、ただ風を起こすだけであれば、魔力を放出するだけでも発動させることはできる。


 少年が灰の詰まった袋に手を向け、目を閉じて集中し始めたのを確認すると、私は少年の肩に手を乗せ、体内の魔力の動きに集中する。


 ゆっくりと少年の体内で魔力が巡っているのを感じる。私の言った内容はしっかり守ってくれているようで、無理に魔力を巡らせている様子は今のところない。


「焦らないで。そのままゆっくり。さっき魔導具を使った要領で、体を巡る魔力を手のひらに集めるように。そうすれば、じわじわ手のひらから魔力が溢れていくのを感じられるはずだよ」


 しばらくすると、少年の体内から魔力がじわりと放出されるのを感じる。同時にふわりと風が起こり、灰が少しだけ舞い上がる。少年は目を閉じていてまだ気づいていないようだが、それはまだ伝えず、集中を途切れさせないようにする。


「手のひらから魔力が溢れているのを感じるでしょ?今度はその溢れた魔力で、空気を押すように意識して。出し続けるとすぐに魔力が尽きてしまうからね。木の板で扇いで風を起こすのと同じだよ。魔力を使って空気を動かすの」


 私の説明がうまく伝わったようで、一瞬風が止む。魔力の放出も止まり、しばらくすると、先ほどより勢いよく風が起きて灰が舞い上がる。今までの感覚との違いに気づいたようで、少年は目を開けると感嘆の声を漏らした。


「風が出てます。これ、僕がやってるんですか?」


「おめでとう。正真正銘、君の起こした魔法だよ」


 少年は風の出ている手のひらを自分に向ける。程よい風が背後に立つ私にも届き、二人の髪を揺らす。これだけの風量があれば、涼むのには十分だろう。炉の温度を上げるには範囲を絞る練習が必要だろうが、それはまた追々で構わない。


「魔力を扱う感覚を覚えているうちに、水の魔法も試してみようか。今度は手のひらを上に向けて、空気中にある水をなんとなくでいいから意識して。それを、さっき空気を押した感じで水分だけ集める感覚ね」


 ひとつ魔法に成功したことで、少し自信に繋がったのだろう。嬉しそうな顔で少年は頷き、手のひらを広げて魔力を巡らせ始める。


 コツを掴んだようで魔力は上手く動かせているようだが、空気の中にある水分だけを意識的に集めるのはなかなか難しい。先ほどと違い、思うようには発動できないようだ。


「さっき一緒に見た、水が水蒸気に変わるところを思い出して。それが空気の中にはたくさん含まれてる。その空気に溶けた水蒸気をもう一度集めて、水に還すんだよ」


 魔法とは、知識を想像力で実現する技術だと、どこかの研究者が記していた。想像力に関しては少年自身の力に依存する部分ではあるが、知識に関しては私が補助してあげればいい。


 そう考えていたのだが、私の知識は学んだものよりも経験の蓄積によるものが大きいので、それを言葉にして伝えるのは、思っているよりも難しい。


 その後しばらく練習を続けたが、水の魔法では少し手のひらが湿る程度の水しか出すことはできなかった。それでも少年は、楽しそうに風の魔法を練習し続けている。


「水の魔導具は使えたから、練習すればいつか水も使えるようになると思うよ」


「でも、これで僕も炉の温度を調整できるようになりますよね!」


「風の強さと範囲を調整できるようになったら、それも練習しようか」


 私の言葉に笑顔で頷くと、少年はまた風の魔法を練習し始めた。


 本来、強い魔法適性のある者であれば、仕組みさえ理解できれば初歩的な魔法はすぐに発動できるので、少年の適性はお世辞にも高いものとは言えないと思う。それでも今、こうやって確かに少年は「魔法使い」としての一歩を踏み出した。


「炉の温度かぁ」


 楽しそうに風の魔法を練習する少年を見守りながら、ぽつりとつぶやく。


 私が魔法を使う姿を見たり、蔵書の物語を読みながら、魔法使いへの憧れをよく語っていた少年が、今は炉の温度を調整するために魔法の練習をしている。


「魔法使いになれたって気づいているのかなぁ」


 私のひとりごとは、少年の起こした柔らかな風に乗り、空気に溶けていった。


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