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エルフの鍛冶屋 ―辺境の街で紡ぐ小さな物語―  作者: ぱられ


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森での薬草採取

 朝食を終え、いつもなら工房で炉の火を見ている時間だが、今日はリビングで、久々に使う弓の具合を確かめている。暇な時に軽い手入れはしていたので、特に問題なく使えそうだ。弦を張りテーブルに置くと、火の消えた暖炉の前で矢の先を削る。矢じりはないが問題ないだろう。


 今日は工房を休み、森へ出かけることになっている。言い出したのは薬屋だ。先週工房に遊びに来た時に少年を交えて話していて発覚したのだが、少年はまだ街の外に出たことがないらしい。勝手に孤児院の散歩で、近場の森くらいなら行ったことがあると思っていたのだが、よく考えれば大勢の子供を連れて街の外に出るのは難しそうだ。そこで薬屋が三人で森に採取に行こうと言い出し、少年の期待に満ちた目に抗えず了承することになった。


 削った矢の先を暖炉の燃え残った炭で炙っていると外から賑やかな話し声が聞こえてくる。扉を叩く音に返事をすると薬屋と少年が並んで入ってくる。どうやら途中で一緒になったようだ。


「さぁ森へ行くぞ!準備はできてるか?」


「ちょっと待って、この矢だけ仕上げたらもう出られるから」


 削った矢先を炙っていると、少年がやってきて隣に座る。仕上がった矢を見ながら少し驚いたような顔をしている。


「親方って弓使えたんですか?」


「そりゃ使えるよ。旅をしていた頃は護身用に持ち歩いてたからね」


「森って危ないんですか?」


「それもあるけれど、今回は別の目的もあるかな。護身はあの子がいれば大丈夫だよ」


 そう言って薬屋の方を見ると得意そうに小さめの杖を腰から抜いて見せてくる。この薬屋は薬師である以前に錬金術師でもある。そして錬金術師とは魔法を使って様々な道具を作り出す者だ。私も魔法を使うのは得意な方だと思うが、あくまで仕事や生活に使う場合の話。戦いに使うとなれば、この子の方がよほど頼りになる。


「杖はなくても魔法は使えるけど、今日は風の刃を込めた杖を持ってきてるぞ。安心しろ少年!何かあったらお姉さんが守ってやるからな!」


 得意げな薬屋の様子より、初めて見る魔法の杖のほうが気になった少年が質問を始めると、薬屋も嬉しそうに話し始める。ちょうどいいので二人のお喋りを聞きながら残りの矢を仕上げてしまおう。川を越えて少し森へ遊びに行くだけなのだが、少年にとっては初めての街の外だ。少しでも危険を減らし、楽しい思い出にしてあげたいと思っているのは薬屋も一緒なのかもしれない。


 支度が終わり、荷物を抱えて工房を後にする。薬屋は自分用の背負籠と一緒に、少年用の小さめの背負籠も準備してくれていたようで、二人は並んで籠を背負ってこれから向かう森について話している。


「春に採取に出かけた話はしただろ?あの時期はあまり採取しちゃうと夏に採れる素材が減っちゃうから、実は採取より確認の意味のほうが大きいんだ。ここ数日かなり暑くなってきたしな。薬草だけじゃなくてベリーや山菜もたくさん採れると思うぞ」


「魔物や動物に襲われたりはしませんか?」


「この時期は森に食べ物がたくさんあるからな。魔物や動物も腹いっぱいだと、わざわざ人間を襲ったりはしないんだ」


 実際、夏場は魔物や野生動物の被害は少ない。それに今回向かうのは、新人冒険者もよく出入りする森の入口付近だ。危ない生き物と遭遇することもないだろう。


 そうこうしていると橋の手前の西門が見えてくる。街の住人は出入り自由なので軽く挨拶を交わして門をくぐると、橋の中腹あたりで少年が立ち止まった。ここからは彼にとって未知の世界だ。


「初めて門の外に出ました。遠くから見ていただけの橋の上に立つのも初めてです」


「今日は君にとって初めての冒険だね」


 そう言って少年の手を取り歩き始めると、反対側で薬屋も少年と手をつなぐ。私たちにとってはちょっとした散歩程度のものだが、少年の目には今、どんな景色が映っているのだろうか。初めて旅に出た頃のことはもうほとんど覚えていないが、私もこんな風に期待に満ちた目をしていたのだろうか。彼の初めての冒険に同行できていることが、なんだか嬉しく感じてしまう。


 森に入ると、一気に空気が優しくなったように感じる。実際、日差しがないだけでかなり過ごしやすい。まだ本当に森に入ったばかりだが、すでに薬屋は道端にしゃがみこんで何やら採取している。いつもこんな調子で何か見つけるたびに採取しているのだろうか。


「何か見つけたんですか?薬草ですか?」


「これはワイルドガーリックって言って、山菜の一種だ。薬にも使えるけど、香りがいいから料理に使うほうが多いぞ」


 そんな調子で森を歩き、見つけたそばから山菜やベリーを採取する。お昼までにこの先の小さな沢まで移動すると言っていたはずだったが、このペースで大丈夫なのだろうか。そんなことを考えながらふと茂みの影、枯れ草のあたりに目を向けると小さな鳥がうずくまっている。ヤマシギだろうか。音を立てないように弓を構え矢をつがえると、それに気づいた薬屋が少し警戒するように近寄ってくる。


「なにかいたの?」


「大丈夫。ただのヤマシギだよ」


 弓を引き絞り矢を放つ。距離も近いので綺麗に矢が頭を貫いた。ベリーを摘んでいた少年もその音に気が付きこちらへ駆け寄ってくると、私が仕留めたヤマシギを見て目を輝かせる。


「鳥ですか?親方が仕留めたんですか?」


「この鳥は危険を察知すると、逃げずにうずくまって危険が去るのを待つ習性があってね。仕留めるの自体は簡単なんだよ」


「でも小さいから、頭を射抜けるのはたいした腕だぞ。こいつは内臓まで美味いから、頭や首を射抜くのが肝心なんだ」


 薬屋が説明している間に、またヤマシギを見つける。今度は二羽まとまってうずくまっている。まとめて仕留めたほうがいいかもしれない。私は矢を二本まとめて弓につがえると、それを放つ。今度も綺麗に二羽とも頭を射抜いた。


「ちょっと!なに今の!二本まとめて射って全部頭貫いたんだけど!?」


「親方すごいです!」


「動かないし近いから簡単なだけだよ」


 私は獲物から矢を抜くと、手早く縄でくくって腰に下げる。小さな鳥だが三羽もいれば昼食には丁度いいかもしれない。しかし少年はともかく薬屋も驚きすぎだ。旅をしていた頃には、もっと離れた場所から動く獲物を仕留めるような人もいたし、この程度なら熟練の狩人でなくても難なくこなせると思うのだが、弓での狩りを見たことがないとこんなものなのかもしれない。


 それからも少年と薬屋が採取する傍らで、周囲を警戒しつつ山鳥を狩る。物音に気づいて走り出したヤマウズラは綺麗に仕留めることができたが、木の上にいたモリバトには当たらなかった。やはり長く弓を使っていなかったので腕がなまっているようだ。まぁ目的は狩りではないので上々だろう。結局、その後ヤマウズラを二羽仕留めることができた。これは夕飯のスープに入れたら美味しそうだ。


 見つけるたび採取していたので時間がかかるかと思っていたが、予定通りお昼時より少し前に沢にたどり着いた。適当に興味の赴くまま採取しているように見えたが、森を歩くのには慣れているのだろう。少し失礼かもしれないが感心してしまった。


「テーブルやかまどがありますね。どなたかいらっしゃるのでしょうか?」


「あぁ違う違う。ここはギルドが管理してる休憩所なんだ。この辺りは採取できる素材が多いから、新人冒険者がよく使ってるんだ。今は誰もいないみたいだけどな」


「僕たち冒険者じゃないけど、使ってもいいんでしょうか」


「管理してるのが冒険者ギルドってだけで、利用者に制限はないからな。さてと、沢で手を洗ってお昼の支度をしよう」


 荷物をおろして三人で連れ立って沢へ降りる。足元が滑りやすいから気をつけるよう伝えようと周囲に目を向けた時、ふと水際に細い節のある草が群生しているのが目に入った。


「砥草じゃないか。いいね、せっかくだから採って帰ろう」


「そいつは薬草にもならないし、食べられる山菜でもないぞ?」


「これは加工するとヤスリとして使えるんだよ。鋼のヤスリなんかより滑らかに仕上げることができるから重宝するんだ」


 私がしゃがみこんで採取を始めると、少年も隣にしゃがんで手伝い始める。


「ほどほどのところで戻ってこいよ。アタシは先にスープの準備しとくからな」


 職人としてはかなり魅力的な素材なのだが、薬屋には興味がないらしい。少年はヤスリになると聞いて、活き活きとした表情で採取している。任されている仕事にも直結するので興味があるのかもしれない。


「これはどうすればヤスリになるんですか?」


「一度カラカラになるまで乾燥させて、それから煮込んで柔らかくして……」


 説明をしながら手早く砥草を採取する。この暑さなら日陰で干しても一月もかからないだろう。時間ができたら、一緒に砥草のヤスリを作るのもいいかもしれない。元々夏は炉の前に立つ仕事を控えるつもりだったし、ちょうどいい。


 砥草を採取し終えてかまどの近くに戻ると、薬屋は既にスープの準備を進めていた。私は少年と手頃な石の上に腰を下ろし、先程仕留めたヤマシギの羽をむしることにする。


「羽は色々と使い道があるから、この麻袋に入れてね」


「こんな小さな羽なのに使い道があるんですか?」


「柔らかい羽毛は集めればクッションにできるし、落ち着いた色合いの羽は飾りとしても使える。それにヤマシギの翼の先に細くて長い羽が一枚ずつあるでしょ?これは筆の材料になるらしくてね、商人のところに持っていけばそこそこの値段で買い取ってくれるはずだよ」


 まだ仕留めたばかりのヤマシギは簡単に羽もむしれるので、残りは少年に任せる。生木を削って串を作ろうかと思ったが、先日せっかく老騎士にナイフの扱いを教わっていたので、串作りも少年に任せることにした。


 綺麗に削られた串をヤマシギに通してかまどのそばに行くと、薬屋が薪で火をおこし鍋でスープを煮込んでいるところだった。薪なんて持ってきていたのかと周囲を見渡すと、大きな木のそばに膝くらいの高さの薪小屋があった。これもギルドが管理しているのだろうか。丸太を割ったテーブルに石積みのかまど。これだけの設備があれば休憩するには十分だろう。


 薬屋の足元にしゃがみ込み、焚き火から少し離れた地面に、串に刺したヤマシギを突き刺す。かまどのそばに置いてあった革のカバンからフライパンを取り出し、ヤマシギの根元に置く。


「ねぇ親方、この鳥は捌いて肝を出さなくていいんですか?」


「ヤマシギって実は肝が最高に美味しいんだよ。こうやって丸焼きにすると、お肉の中で蒸し焼きにされるから、あとでペーストにしてパンに塗って食べるの」


「このフライパンはなんですか?」


「肝をペーストにするのにヤマシギの油をちょっと使いたくてね。こうしておけば、焼いてる間に落ちる油を集められるでしょ?」


 ちなみにこれは旅をしていた頃に、偶然知り合った狩人に教えてもらった。あの時は滴る油を直接パンで受けて焚き火で炙っていたが、個人的には肝と油を合わせたほうが好きなので、私はこうすることにしている。


「ヤマシギの肝、美味しいよなぁ。私も何度か食べたことあるけど、動物の肝とは思えないくらい香りもいいんだ。そうだハーブとベリーがあるからいっしょに混ぜてペーストにしようよ!絶対美味いぞ!」


 かまどの前で調理をしながら午前の採取の話をする。少年は初めての森歩きがとても楽しかったようで、様々な山菜やキノコの話、私が仕留めた鳥や弓の話を楽しそうに語っている。この分なら昼からの採取も楽しいことになりそうだ。


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