小さな鍛冶屋の仕事
孤児院で子供たちと一緒に食事を取る。一緒と言ってもテーブルは別だ。以前にも聞いたが、基本的にここの子供たちは十二歳になる頃までに住み込みの仕事を見つけ、孤児院を出ることになる。あるいは聖職者見習いとして、教会の寄宿舎に移るそうだ。そのためここのテーブルと椅子は幼い子たちに合わせて作られていて、大人が使うには少し小さい。
今は子供たちの様子が見える窓際の席で、シスターと向かい合ってお昼をいただいている。少年にはいつもの席があるようで、子供たちに混じって食事中だ。先ほどから幼い子たちの質問が途切れる様子はない。仕事中に話しかけられなかったのは、邪魔をしないよう言い聞かせられていたのかもしれない。
「それにしても驚きました。あの子はもうお仕事を任せられているのですね」
「あの子は覚えも早いし丁寧だからね。何より仕事に対しての意欲が高い。つい色々と任せちゃってるけれど、他の工房の親方連中が見たら驚くかもしれないね」
「他の工房では違うのですか?」
私は一般的な鍛冶工房の弟子について、知る限りの話をする。まず一年は下積みとして鉄には触れず、掃除や道具の手入れをしながら工房に慣れさせるところから始まる。その後二年ほどは馬具や建築金具など、簡単な品を作りながら道具の扱いと鉄に慣れていき、そこまで経って、ようやく工房の主力商品を扱わせてもらえるようになるそうだ。
「あの子は通いで回数こそ少なかったけれど、一年くらい工房で手伝いをしていたからね。ただ、うちの工房は金具なんかの簡単なものって、あまり作らないんだよ。だから一年目だけど農具の修理や主力商品の仕上げの仕事を任せてる。他の工房の親方連中が聞いたら怒るかもしれないね」
「どうして金具などは扱わないのですか?」
「ああいうのは付き合いが大事だから、街に昔からある工房がどうしても強いんだよ。それに大量生産できる大きな工房じゃないと利益も出づらい。私の工房は、今では単価の高い商品が主力だね。あとは時間のかからない修理依頼をたまに受ける程度かな」
「お花の印の入ったお鍋や包丁ですよね。高価だけどとても質が良いというお話はよく聞きます」
「その質の良いお鍋の仕上げは今あの子が全部やってるよ。もう何度も店に卸してて、評判も変わらず良好だね」
シスターは目を見開く。幼い頃から見知った少年が、修理依頼だけでなく売り物になる商品まで手掛けていることには、驚きを隠せないようだ。
「子供の成長というのは早いものですね。ついこの間まで他の子たちと一緒に庭を駆け回っていたような気がしていたのですが」
懐かしむように少年の方を見つめるシスターを見て、つい吹き出してしまう。
「私もあなたがシスターとして働くのを見るたび、同じことを考えているよ」
つい昔の癖でシスターの頭を撫でてしまうと、嬉しそうな、恥ずかしそうな表情で頬を膨らませる。少年もいつかこうやって頭を撫でられることを恥ずかしがる日が来てしまうのだろうか。それは少し寂しいなと思いつつ、それからは子供たちの笑い声を聞きながら他愛もない話を楽しんでいた。
昼食を終えると荷車を引いて工房へ戻る。隣にはシスターも並んで歩いていた。井戸の修理の際に釣瓶を交換したほうがよいと言ったのだが、肝心の釣瓶用の金具一式を持ってくるのを忘れてしまっていた。少年に帰りに持たせると伝えたのだが、せっかくなので工房で受け取り、そのまま木工工房へ向かうらしい。
工房に着くと荷を下ろし、少年に荷車の片付けを任せて倉庫で金具を探す。今のところ井戸の修理は教会でしか受けていないので、在庫はそれほど多くない。数が少ないと、どうしても仕舞った場所が分からなくなる。
目当ての金具を見つけて工房に戻ると、ちょうど少年が納品前のフライパンをシスターに見せながら、嬉しそうに説明しているところだった。
「この縁のところをヤスリで削るんです。全部僕がやったんですよ」
「すごいですね。あなたがしっかりお仕事できているようで、私も嬉しいです」
髪の色こそ違うが、こうやって見ると仲の良い姉弟のように見える。詳しい話は聞いたことがないが、年齢的に考えると、少年が孤児院に来た頃から面倒を見てきたのかもしれない。
シスターは愛おしそうに手に持ったフライパンを撫でると、私に目を向ける。
「エルフさん。よろしければ、このフライパンを扱っているお店を教えていただけませんか?個人的に一つ購入してみたいので」
「それ、そのまま持っていっていいよ。特別に卸値で売ってあげる。その代わり、街の人には内緒ね」
「よろしいのですか?お花の印のお鍋は高級品ですよね?」
「じゃあその代わり、職場の人にもおすすめしておいてね」
「そういうことでしたら、喜んでお引き受けいたします」
シスターは嬉しそうに微笑んでお礼を伝えると、また少年の仕事の話に耳を傾け始めた。
その後、代金はまた今度で構わないと伝え、金具の入った麻袋とフライパンを大切そうに抱えて工房を後にするシスターを見送る。
「さて、私たちも仕事に戻ろうか」
炉に火を入れ、包丁の柄付けを始める。包丁の根元を熱して木材で作った柄に差し込みながら、少しずつ穴を開けていく。隣では少年がヤスリを手に、フライパンの仕上げ作業をしていた。
「そういえば、お昼の時は他の子たちに何を聞かれていたの?」
「お仕事のこととか色々です。僕が親方と一緒に井戸の修理をしているのがすごいって言われました」
照れくさそうだが、少しだけ誇らしそうな少年の表情を見るに、今日、修理の一部を任せたのは思った以上に意味のあることだったのかもしれない。
この子にとっては、自分の手掛けた商品がお金に変わる瞬間よりも、実際に仕事ぶりを見てもらい、褒められる方が嬉しいようだ。私も自分の商品を使った感想を聞く時が一番嬉しいので、その気持ちはよく分かる。
この子の指導方針についてあれこれ考えていたが、難しく考える必要はないのだろう。
こうやって一緒に仕事をして、一緒に街の人に感謝されて、そうやって少しずつ仕事を覚えていけば、いつかきっと立派な鍛冶屋になれる。
少しだけ肩の荷が下りたような軽やかな気持ちで、少年のヤスリの音に耳を傾けていた。




