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第6話 キャンプ場での鉢合わせ

「お兄ちゃんの居場所なら、だいたい見当がつくわ」


 私は自室でサッとノースリーブのシャツとデニムのショートパンツに着替え、リュックを背負って家を飛び出した。


 インドア派で極度の省エネ主義の徹お兄ちゃんが、この猛暑の中で家出してまで向かう場所なんて、たった一つしかない。


 ――奥多摩の川辺にある、織原家一族が所有するプライベートキャンプ場だ。


 管理人が常駐しているし電気も水もある。何より川沿いは涼しい。あの怠け者の天才が、見知らぬ土地で本格サバイバルなどするはずがない。


 電車とバスを乗り継ぎ、山道を二時間。セミの合唱が降り注ぐ渓谷にたどり着いた私は、受付を素通りして川辺のテントサイトへ急いだ。


 ビンゴ。


 木陰の特等席に、見覚えのあるコールマンの緑色のテントが張られていた。


 その前で、白のTシャツにハーフパンツという涼しげな格好の男子が、慣れた手つきで炭を熾している。


「お兄ちゃん……!」


 一週間ぶりに見る兄の姿だった。家で冷遇されていた時より、少し日焼けした肌が妙に男らしく、引き締まって見える。


「――あら。やっぱりここに来たのね、エリー」


 背後から、鈴を転がすような、しかし胸クソの悪い声が響いた。


 振り返ると、ストローハットに白いサマードレスという、山の中には場違いすぎる完全無欠のお嬢様スタイルの佳乃が立っていた。日傘を優雅に差しながら、小馬鹿にしたような笑みを浮かべている。


「佳乃……! あんた、どうしてここにいるのよ!?」


「言ったでしょう、徹兄さんの行き先なんて私にはお見通しだって。私の方が一足先に着いて、管理人さんにお冷やのお茶をいただいていたの。さあ、徹兄さん。おじい様がとても心配していらっしゃるわ。私と一緒に本家へ帰りましょう?」


 佳乃が可憐な笑顔で徹に歩み寄る。


「ちょっと待って! お兄ちゃんを連れ戻すのはこの私よ!」


 私は佳乃の前に素早く割り込み、お互いに火花を散らして睨み合った。


「やれやれ……。静かに涼みたくて家出したのに、一番うるさいのが二人とも押しかけてくるなんてね」


 炭をうちわで煽ぎながら、徹が心底面倒くさそうに深い溜息をついた。その冷ややかで知的な横顔を見た瞬間、私の胸がドクンと大きく跳ねた。


(……かっこいい。知ってたけど、従兄だとわかったら、余計にかっこよく見えるじゃない……!)


 私の脳内バグは、この大自然の中でも絶好調に暴走を続けていた。


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