表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
3/11

第3話 水色の悪魔、現る

「か、か、勘当……!?」


 おじい様が嵐のように去った後のリビングは、惨憺(さんたん)たる有様だった。


 父は泡を吹いてソファーに崩れ落ち、母は「私のシャネルが! 私のエルメスがぁ!」と意味不明の悲鳴を上げながら頭を抱えている。


 完全に自業自得である。自業自得なんだけど……このまま実家が破産して一家離散なんてことになったら、私の華やかな女子高生ライフはどうなるというの?


 お兄ちゃんをちょっとだけ懲らしめるつもりだったのに、まさか本家のおじい様が直々に乗り込んできて、我が家を跡形もなく吹き飛ばす引き金を引いてしまうなんて。


 私が頭を抱えて床にへたり込んでいた、その時だった。


 ピンポーン、という場違いに間の抜けたインターホンが鳴り響いた。


 玄関のドアはおじい様が蹴り開けたまま放置されている。トトトと軽快な足音が廊下に響き、リビングのドアがすっと開かれた。


「あらあら。お取り込み中のところ、ごめんあそばせ」


 涼やかな風をまとって現れたのは、水色のワンピースをひらひらと揺らした可憐な美少女だった。


 絹のような黒髪をハーフアップにまとめ、おっとりとしたタレ目、誰が見てもため息が出るような上品な笑顔。隣に住む私の従姉妹であり、同い年の最大のライバル――水瀬佳乃(みなせよしの)


「よ、佳乃……!? どうしてあんたがここにいるのよ」


 私が這い上がりながら睨みつけると、佳乃は白革のハンドバッグを抱え直し、「ふふっ」と優雅に微笑んだ。その目は全く笑っていない。


 外面はおっとりお嬢様、中身はマキャベリも裸足で逃げ出す計算高い悪魔。それが水瀬佳乃だ。


「だって、おじい様の怒鳴り声、近所中に響き渡っていましたもの。お隣から聞いていて、心配で見に来たの。まあ、叔父様も叔母様もずいぶんお気の毒なご様子ね」


 佳乃はソファーで失神しかけている両親を冷ややかに見下ろし、すぐに視線を私に戻した。


「エリー。徹兄さんが家出したんですって? エアコンを取り上げられた腹いせに、ですって」


「取り上げたんじゃないわよ! パパたちは修理に出したって……」


「見苦しい言い訳は身を滅ぼしますわよ、エリー」


 佳乃は人差し指をチッチッと横に振った。


「おじい様は今、車の中から一族中に命令を出しているわ。『誰でもいいから一刻も早く徹を連れ戻せ。見つけた者には何でも褒美を取らす!』って。勘当を免れるチャンスは、これしかないわよ」


「えっ……!」


「うちのパパも慌てて私設探偵を雇おうとしているみたいだけど、そんな回りくどいことをしなくても、徹兄さんの行き先なんて私にはだいたい見当がつくわ。ねえエリー、徹兄さんを最初に見つけて、おじい様のご機嫌を取るのは……この私よ」


 佳乃はそう言って、ペロリと小さく舌を出した。


「教えに来てあげたの。恩に着なさい。では、ごきげんよう」


 風のように現れ、宣戦布告だけを残して去っていく水色の悪魔。


 悔しさと焦りで、私の奥歯がガチガチと鳴った。


 待ちなさいよ、佳乃。お兄ちゃんを見つけるのはこの私なんだから!


 ――でも、ちょっと待って。パパたちを助けるために必死になるのはわかるけれど……そもそも、私、なんでこんなに一生懸命にならなきゃいけないの?


 最悪の危機の中で、私の脳裏に、以前からずっと引っかかっていた「ある疑惑」が、不吉な顔をのぞかせ始めた。

読んでくださりありがとうございます。「おもしろい」とか「よかった」という一言でも感想を残していただけると嬉しいです。よろしければ、☆のポイントとリアクションのクリックをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ