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第24話 絶望の宣告

「そうだね」


 張り詰めた空気の中、お兄ちゃんはそこで、ふっと小さく笑った。その笑みは、いつもの省エネなものとはどこか違う、すべてを見通したような不敵なニュアンスを含んでいた。


「だけどおじいさんが言うとおり、本当に二人が言い寄ってきた時は驚いたよ」


 私は、その言葉に涙がピタリと止まった。


「お兄ちゃん、何もかも知ってたの?」


 え? どういうこと?


 お兄ちゃんはさっき、我が家のリビングで私の涙を見て、あんなに困った顔をしてうろたえていたじゃない。佳乃が私たちの出生のバグを暴露したときも、「ええ!」と珍しくのけぞって驚いていたじゃない。


 あのリアクションは全部、演技だったというの……!?


「いいや、おじいさんから絵里子と佳乃に気をつけろって忠告されただけだよ」


 お兄ちゃんは、左右からしがみつく私と佳乃のホールドをすり抜けることもせず、事も無げに白状した。


「いつ連絡したの?」


 いつもは冷静沈着でお嬢様を気取っている佳乃の声が、珍しく焦りで上ずっている。


「奥多摩で警察に保護されたとき、父さんと母さんに連絡したくなかったから、おじいさんに電話したんだ。そのとき、絵里ちゃんと佳乃ちゃんが近寄ってくるはずだって聞いたんだよ」


「そんな……」


 私の頭が真っ白になった。じゃあ何? さっきのリビングでの泥沼の暴露大会……お兄ちゃんはおじい様から「分家の娘たちが罠を仕掛けて近寄ってくる」と予言されていたというの?


 私と佳乃がファミレスで必死に結んだ【秘密の淑女協定】も、お兄ちゃんをハメるために仕掛けたあざとい涙の演技も、この超絶引きこもり秀才の掌の上で踊らされていた道化のダンスに過ぎなかったのだ。最初から全部知った上で、この男は面白がって私たちのドタバタ劇を眺めていたのだ!


(どこまで、どこまで食えない男なのよ、このお兄ちゃんは……!! 天才すぎて逆に引くわよ!!)


「徹、わかったら、こんなあざとい芝居を早く辞めさせなさい」


 おじい様が、満足そうに頷きながら徹に促す。これで分家の哀れな娘たちの化けの皮は剥がれた、と確信したのだろう。


「そうだね」


 お兄ちゃんはあっさりと同意する。冷酷。どこまでも冷酷な男である。


「絵里子、佳乃、二人とも家に帰って両親に伝えなさい。お前たちの家族と縁を切ると」


 おじい様の口から下された、冷徹極まりない最終宣告。本家からの完全な勘当。援助の打ち切り。先ほどおじい様が言っていたネットビジネスの大爆死による負債を抱えたまま、我が家も、水瀬の叔父様の家も、これで完全に終わりを意味していた。


 さっきまでの、お兄ちゃんの気を引くための「あざとい嘘泣き」なんかじゃない。今度の涙は、自分の未来が真っ暗闇に包まれた、本当の、完全な絶望の涙だった。


 お兄ちゃんをロックして、二人でシェアして、合法的な従妹の特権を使ってあんなことやこんなことを……なんて妄想していた輝かしい未来が一瞬で霧散していく。


 何もかもおじい様とお兄ちゃんの手のひらの上。私たちの完全敗北だ。親たちの自業自得な連帯保証のツケを払わされ、私たちはこのまま路頭に迷うんだ――。


 応接室には、ただ私たちの悲痛な泣き声だけが、虚しく響き渡っていた。


読んでくださりありがとうございます。本作は次回で完結します。「おもしろい」とか「よかった」という、一言でも感想を残していただけると嬉しいです。よろしければ、☆のポイントとリアクションのクリックをお願いします。

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