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第23話 路頭に迷うの?

「お金がなかったらどうなるの?」


 お兄ちゃんが、ふと核心を突く質問をした。親たちのしでかした不祥事にはどこまでも冷淡だったお兄ちゃんだけれど、その後に残される「結果」については気になるらしい。


「遠からず、破産するじゃろう」


 破産。おじい様の口から厳かに告げられたその二文字が、私の脳内で不吉に鳴り響いた。お小遣いカットとか、エアコン撤去とか、そんな可愛いレベルの話ではない。我が家が、そして佳乃の家が、社会的に完全に息の根を止められるということだ。


「絵里ちゃんと佳乃ちゃんは路頭に迷うの?」


 お兄ちゃんのその問いに、私の胸がキュッと締め付けられた。


 ああ、お兄ちゃん……!


 呆れ果ててはいるけれど、やっぱり私や佳乃がどうなってしまうのか、ちゃんと心配してくれているのね! 大人たちの汚い都合に巻き込まれた私たちを気遣うような、そのぶっきらぼうな優しさに、私は感動で泣きそうだった。


「そこまでにはならんとは思う」


 おじい様は冷徹に現実的なラインを弾く。


「だが、もう私立の学校には通えんじゃろうな」


「それはかわいそうだね」


 お兄ちゃんは少しだけ眉をひそめて、同情するように呟いた。


 そうなのよ、お兄ちゃん! このままじゃ私のお嬢様ライフも、佳乃の清楚系お嬢様ブランドも、全部一瞬で消し飛んで、明日の食費を切り詰めるお下がりジャージ生活に転落しちゃうのよ!


「わたしがお兄さんを好きなのは本当です!」


 ここで佳乃が、ボロボロと大粒の涙を流しながら叫んだ。


「お金なんか関係ありません!」


 その涙は、琥珀色の照明に照らされてキラキラと輝き、一見すると純愛に生きる悲劇のヒロインそのものだった。


 おのれ佳乃、実家の破産という絶体絶命のピンチすら、自分の一途さをアピールしてお兄ちゃんの庇護を勝ち取るための武器に変えるなんて……どこまで計算高くて抜け目のない狐なの!


「だが、両親に言われて徹に会いに来たんじゃろ?」


 おじい様の容赦ないツッコミが、佳乃の綺麗な涙を一瞬でフリーズさせる。さすが百戦錬磨の織原グループ総帥、女子高生の涙目攻撃などビタ一文通用しない。背後にいる大嫌いな裕太叔父様たちの影を、おじい様は見逃さなかった。


「本当に兄さんのことを心配してたんです!」


 佳乃に遅れをとるわけにはいかないと、私も負けじと涙をボロボロと流した。もう、こうなったらあざとい演技なんかじゃない。半分はマジの涙だ。実家が破産してお兄ちゃんと離れ離れになって、私立の学校も辞めさせられて、事業に失敗したパパと泥船からいち早く脱出しようとするママの巻き添えを食らうなんて、そんなの絶対に嫌だ。何が何でも、この織原家の次期絶対権力者であるお兄ちゃんにしがみつき、濁流から救い上げてもらうしかないのだ。


「お兄ちゃん、お兄ちゃぁぁん……!」


 私は徹の右腕に顔を埋めて、悲劇のヒロインになりきって激しくむせび泣いた。


「そんな戯言、聞いてられん」


 しかし、おじい様はフンと鼻を鳴らし、私たちの必死な涙の訴えを冷酷に一蹴した。


「どんな約束をしたのか知らんが、女の芝居に乗せられてはいかんぞ」


 おじい様の鉄壁の防御を前に、私と佳乃の涙の籠城作戦は、何一つ戦果をあげられないまま、完全に崩壊の危機に瀕していた。


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