第22話 女の涙に騙されるな
私の天才的(?)な状況分析によって、親たちの過去の恥部が生々しく暴かれた応接室。おじい様はフンと鼻を鳴らし、お兄ちゃんに向かって、私たちを警戒するよう促した。
「徹、気をつけろ。こいつらはグルなんじゃ」
「ぼくは完全に蚊帳の外だったのか」
お兄ちゃんは左右から挟まれ、がっちりと二対の腕でロックされた己の境遇を顧みるように、ぽつりと呟いた。織原家を揺るがす血脈のバグにおいて、自分だけが何も知らされず、母を離婚に追い込んだ女の娘である従妹たちに囲まれている事実に、今更ながら呆れているようだった。
「その通りじゃな」
おじい様が冷酷に太鼓判を押す。
「そんなことありません!」
佳乃が必死に徹の左腕を抱きしめる。その胸の柔らかさをこれでもかと押し付けながら、潤んだ瞳で上目遣いにお兄ちゃんを見つめた。
「お兄さんには、私からちゃんと説明するつもりです」
「なぜ、こいつらがわしの財産を奪いに来ておるか知っているか?」
源一郎おじい様はここで、過去のドロドロした男女関係から、現実的かつ本題である「金」の話に切り替えた。その声のトーンが一段と低くなり、経済的な破滅の香りが部屋に漂い始める。
「お金が欲しいからでしょ?」
相変わらず、身も蓋もない直球の回答を返すお兄ちゃん。
「それはそうだが、切迫した理由があるんじゃ」
「事業で失敗したの?」
「そうじゃ」
おじい様の短い肯定に、私の心臓がドクンと跳ねた。やっぱり。パパたちのあの異様な焦り方は、単におじい様に嫌われたからというレベルではなかったのだ。
「あの怪しげなネットビジネスのやつ?」
お兄ちゃんは、家出する前にパパたちや、佳乃の父親である裕太叔父様が書斎でコソコソと話していた胡散臭い投資話のことを思い出したようだった。
そもそもお兄ちゃんは、昔から裕太おじさんのことが大嫌いだった。見栄っ張りで、いつも本家の財産をあてにしているあの男とは、彼も「反りが合わない」と露骨に嫌悪感を隠さなかった。
「雇った社長に逃げられ、会社が顧客に訴えられておる」
おじい様の口から飛び出したのは、想像以上の大爆死報告だった。社長に計画倒産同然で逃げられ、残されたのは膨大な負債と、ブチ切れた顧客からの訴状。典型的な詐欺に引っかかった形である。
「他人のふんどしで相撲を取るからだよ」
切り捨てるような冷たい正論。さすが我が兄、特に大嫌いな裕太叔父様たちがしでかした大ピンチとあって、その声には一切の容赦も慈悲もなかった。
「仕方ないじゃろ」
おじい様は深くため息をつき、ソファの背もたれに体を預けた。
「あいつらには何の才覚もないからのう」
「そうだね」
お兄ちゃんも深く同意する。無能な分家の父親たちが、身の丈に合わない一攫千金を狙って自爆した――それがこの騒動の、あまりにも情けない舞台裏だった。
「そういうわけで、絵里子と佳乃はお前に取り入って金をせびるつもりじゃ」
おじい様は私と佳乃をぴしゃりと指差し、お兄ちゃんに最大の警告を与えた。
「女の涙に騙されるな」
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