第25話 確信犯たちの笑顔
「おじいさん、それはかわいそうだよ」
絶望に暮れる私たちを救ったのは、他でもない、その冷徹なお兄ちゃんだった。
てっきりおじい様と一緒になって私たちを冷たく切り捨てるものとばかり思っていたから、そのぶっきらぼうな助け舟に、私と佳乃は涙で濡れた顔を同時に跳ね上げた。
「悪いことは言わん、この二人はやめておけ」
おじい様は苦々しげに顔をしかめ、なおもお兄ちゃんを諭そうとする。分家の血を引く、このあざとい女狐たちの本性を見ただろう、と。
「ぼくは賢い女の子が好きなんだ」
お兄ちゃんはそう言って、私の頭をポンと親しげに叩き、背中に張り付く佳乃の頭を優しく撫でた。
「この二人の抜け目のないところが大好きだよ」
おじい様への密告、ファミレスでの秘密協定、そして自分を絡め取ろうとしたあざとい罠の数々。お兄ちゃんは、そのすべての「邪悪さ」と「抜け目のなさ」を否定するどころか、まるごと「賢くて可愛い」と肯定してくれたのだ。
最初から私たちの企みをすべて知った上で、それでもなお「大好きだ」と言ってのけるこの兄は、やっぱり私たちの想像を遥かに超える器の持ち主だった。
「ひょっとして、お前、もうこの二人とできておるのか?」
おじい様が、呆れ果てたように深く眉間を押さえた。厳格な本家の総帥が、完全に孫のペースに巻き込まれている。
お兄ちゃんは頭を掻いた。悪びれる様子もなく、どこか照れくさそうに首を傾げるその仕草が、何よりも雄弁に答えを物語っていた。
「やれやれ」
孫のあまりのタラシぶりに、そして曲者揃いの女狐たちを完全に手懐けているその底知れぬ器の大きさに、織原家の絶対権力者もついに白旗をあげたようだった。
「もう、お前の好きにしなさい」
「ありがとう、おじいさん」
お兄ちゃんは満足そうに微笑んだ。これでおじい様の庇護のもと、無能な親たちの負債も適正に処理され、私たちのお嬢様ライフと、何よりお兄ちゃんとの共同生活は約束されたのだ。
「あと一つだけ忠告しておいてやる。早くどちらかを選んでおいたほうがいいぞ。お前の父親のようになりたくなかったらな」
おじい様は私と佳乃を睨みながら言った。泥沼の二重婚約、実は妹が従妹で、従妹二人が腹違いの姉妹だったという歪んだ関係。かつて自分たちの父親たちが引き起こしたメイドの取り合いという最低最悪の歴史を、この優秀な孫にだけは繰り返させまいという、おじい様なりの親心だった。
けれど。
(選ぶ? 誰が選ばせるもんですか!)
(そうよ、どちらか一人なんて選んだら、選ばれなかった方が暴走してお兄ちゃんを刺しちゃうかもしれないじゃない。だったら二人でお兄ちゃんをシェアしたっていいんだから!)
ファミレスで結んだ【秘密の淑女協定】は、今もなお、私たちの間でギラギラと生きている。
お互いに正妻の座を譲る気は毛頭ないけれど、お兄ちゃんを他の女に渡すくらいなら、二人でこの食えない秀才を一生かけて、ギチギチにロックし続けてやるのだ。
涙で濡れた顔のまま、私たちは最高に不敵で、最高に抜け目のない確信犯の笑顔を、おじい様とお兄ちゃんに向かって同時に咲かせたのだった。
――第1部・終――
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