第20話 メイドという過去
お兄ちゃんと私と佳乃の三人は連れ立って本家を訪れた。
夜の帳が下りた応接室は、重厚な革製品と琥珀色の照明に満ち、まるでおじい様の絶対的な権力を具現化したかのような、張り詰めた空気が漂っていた。自然木のローテーブルを挟んで、織原グループの総帥である源一郎おじい様が、ソファに深く腰掛けて私たちを鋭い眼光で射すくめている。
お兄ちゃんはおじい様に、今回の家出の経緯とそれに伴う実家と水瀬家の大人たちの思惑についてのあらましを話した。そして、両親たちは反省しているので許してほしいと告げた。
おじい様は静かに腕を組み、重々しい口調で言った。
「徹の好きなようにしたらよい。だが、本当にこの二人から事情を聞いたのか?」
「はい。絵里子が妹ではなくて従妹だと」
お兄ちゃんはおじい様の前だというのに、左右から私と佳乃にがっちりと腕をホールドされたまま、いつものポーカーフェイスを崩さずに淡々と答えた。
「なるほどな」
おじい様は私と佳乃をじろりと睨んだ。その老練な瞳には、後継者としてかわいがっている孫を囲い込もうとする私たちの下心をすべて見透かしたような、冷徹な光が宿っている。おじい様の放つ凄まじい威圧感に、私の背中には冷たい汗が流れた。
「お前はたぶらかされておるぞ」
「そうでしょうか?」
お兄ちゃんは眉一つ動かさず、どこか他人事のように問い返した。
「この二人の母親のことを聞いているか?」
おじい様の口から、不穏な言葉が飛び出した。
「ぼくの義理の母親と叔母のこと?」
お兄ちゃんが怪訝そうに首を傾げる。たしかに、大人たちの後継者争いや、私たちが異母姉妹であるという事実は把握したけれど、肝心の「母親たちの過去」については、お兄ちゃんも私も知らない。
「そうだ。二人の結婚前の職業のことじゃ」
おじい様は、じりじりと私たちを追い詰めるように、織原家と水瀬家の本当の闇の核心へと近づいていく。
「職業なんて大事なの?」
どこまでも省エネ主義のお兄ちゃんらしい、冷めた疑問だった。
「そういうことではない」
おじい様はふっと鼻で笑い、私たちの親世代がひた隠しにしてきた忌まわしい過去の記録を暴くように、冷酷に吐き捨てた。
「二人はうちのメイドだったんじゃ」
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