第18話 絶縁という名の報い
ついに観念したのか、お兄ちゃんは深くため息をつき、これ以上の逃亡を諦めたようにガクリと肩の力を抜いた。
さあ、ここからが私と佳乃がファミレスで結んだ【淑女協定】の本番だった。
「お父さんと叔父さんを許してほしいって、おじい様に頼んでほしいの。縁を切るのはかわいそうだって」
私はわざとらしく、今にも泣き出しそうな悲しげな声を絞り出した。もちろん、親たちのために言っているわけではない。親たちが本家から完全に失脚して破産すれば、私たちの私立高校ライフやお小遣い、そしてお兄ちゃんを確実に手元に置いておくための生活基盤が、すべて崩れてしまうからだ。
「いやだよ、絶対に」
お兄ちゃんは即座に拒絶した。
「ぼくはあの二人が大嫌いなんだ。縁切りだって、正直、当然だと思っているよ」
お兄ちゃんの口から、普段の省エネモードからは想像もつかない、珍しく感情の乗った言葉が飛び出した。
当然だろう。真夏だというのに自分の部屋からエアコンを容赦なく撤去され、ネットカフェに逃げ込む寸前まで追い込まれた親たちなのだ。お兄ちゃんが彼らを心底嫌悪し、現在の状況を「自業自得」と思っているのは、至極真っ当な感情だった。
「でも、絶縁なんてしたら、私たち、お兄さんに会えなくなるのよ」
佳乃は背後から徹の肩に顔を埋めるようにして、清楚なお嬢様らしい哀愁を最大限に利用した。涙を浮かべたその表情は、男心を確実に揺さぶる武器だった。
「叔父さんはぼくの家出に関係ないだろ?」
お兄ちゃんは怪訝そうに、背後にぴったり張り付いている佳乃を振り返ろうとした。
「お父さんは、お兄さんを織原家から追い出して、わたしたちのどちらかに跡取りの婿を取らせようと企んだのよ」
佳乃は悲しそうに顔を伏せながら、静かに続けた。
「それに、伯父さんと伯母さんが同意して、お兄さんの家での居心地を悪くしたの」
リビングの空気が、再び重くなった。
そう、すべての元凶は、お兄ちゃんを織原家から完全に追い出し、その莫大な財産を自分たちの息のかかった「婿」に継がせようとした、大人たちの強欲な計画だった。私の両親も、そのおこぼれに預かろうと叔父の計画に積極的に乗った。そして、お兄ちゃんの部屋のエアコンを外すという、セコくて最低な嫌がらせを実行したのだ。
「いかにも叔父さんの言い出しそうなことだね」
お兄ちゃんの目が、冷たい知性を宿して細められた。
「でも、おじいさんに知られなければ問題ないよ」
お兄ちゃんはまだ、おじい様がなぜ分家に対してあそこまで激怒しているのか、その決定的な情報源を知らなかった。
「それが、なぜか最近おじい様の耳に入って、カンカンに怒ってしまったの」
「誰がばらしたんだい、佳乃ちゃん」
お兄ちゃんは背後の佳乃をじっと見つめた。秀才の脳が、この状況を裏で操っている「密告者」の存在を突き止めようと、鋭く回転し始めている。
佳乃は顔を伏せたまま、静かに言った。
「その後、おじいさんがお兄さんのことを心配して、私立探偵まで雇って探し始めたのよ」
(ちょっと佳乃……完全に目が泳いでるじゃないの)
私は隣でハラハラしながら、この自業自得な異母姉妹の駆け引きを見守るしかなかった。お兄ちゃんの推理の矛先が、ついに「おじい様への密告者」へと向き始めていた。
読んでくださりありがとうございます。「おもしろい」とか「よかった」という一言でも感想を残していただけると嬉しいです。よろしければ、☆のポイントとリアクションのクリックをお願いします。




