第17話 従妹という名の特権
お兄ちゃんの言葉を聞いた瞬間、私の脳内で、再び強烈なピンク色のラブコメ的大バグが火柱を上げて爆発した。
そう、私は知っていた。先日、両親を問い詰めた際に、自分がお兄ちゃんの「実の妹」ではなく、血の繋がった「従妹」であるという事実をすでに聞き出していたのだ。
あの時は世界がひっくり返るほどの衝撃を受けたけれど、今こうして、何も知らなかったお兄ちゃんの口から「従妹」という言葉が出た瞬間、点と点が繋がり、私の脳内シミュレーションは一気に斜め上の結論へと飛んだ。
私はちゃんとお兄ちゃんと血が繋がっている。
けれど、実の妹ではなく「従妹」なのだから――日本の法律上、何の問題もなく結婚できてしまう。
「私はお兄ちゃんの妹よ! だけど、お嫁さんになれるんだからね!」
私はお兄ちゃんの右腕を再び自分の胸にぎゅっと抱きしめ、堂々と宣言した。
しかし、左側にいる佳乃も負けてはいなかった。
「徹お兄さんの婚約者は私よ」
彼女は冷ややかでありながら絶対的な独占欲を孕んだ目で私を牽制すると、お兄ちゃんの左腕をスマートに自分のほうへ引き寄せた。
「言ったでしょう、エリー。うちの両親や伯父さんたちの間では、私とお兄さんの婚約はもう決まっているの。いくら従妹だからって、後からしゃしゃり出てこないで」
「そんなの認めないわ!」
私は佳乃を睨み返した。お兄ちゃんを巡る戦いは、山下さんのDカップ疑惑から始まった第一ラウンドを終え、今や本気で「織原徹」を奪い合う第二ラウンドへと移行していた。
二人の女子高生の執念と、突如明かされた親世代の血縁関係。そのあまりの重圧に、省エネをモットーとするお兄ちゃんの限界は、完全に超えていた。
「そうか、事情はだいたいわかったよ。それじゃあ、ぼくは一足先におじいさんのところに行くよ。また後でね」
お兄ちゃんはすっと立ち上がった。その動作はいつもの飄々とした様子を装っていたが、逃げ足の速さだけは天下一品の彼のことだ。この地獄の修羅場から秒速でフェードアウトし、そのまま逃げようとしているのは明らかだった。
しかし、甘いわよ、お兄ちゃん。
今の私たちは、あなたを絶対に逃がさない。
ほぼ同時に、私は素早くお兄ちゃんの右腕を両手で掴み、佳乃が背後からその背中にぴったりと抱きついた。
左右と背後から、一切の隙のない完璧な捕獲態勢が完成し、お兄ちゃんの動きがピタリと止まる。
「どこに行くつもり?」と私はお兄ちゃんの顔を至近距離から見つめながら言った。
「だから、おじいさんの家に……」
お兄ちゃんは視線を泳がせながら、必死に言い訳をしようとする。冷や汗が額を伝っていた。
「うそつき。このまま家出するつもりでしょ。逃がさないわ」
佳乃が耳元で静かに囁いた。声は甘く、そして凍りつくほど冷たかった。奥多摩のキャンプ場で披露した「湧き水詐欺」による逃亡を、私たちは二度と許すつもりはない。
「そんな、ぼくが逃げるわけないだろ」
「今、『やばい、逃げなきゃ』って顔をしてたわ。私をごまかせると思っているの?」
私は掴んだ腕にさらに力を込めた。伊達に何年も「お兄ちゃんの妹」として一緒に暮らしてきたわけではない。お兄ちゃんが省エネモードから全力逃走モードに切り替わる瞬間、あの特有の「めんどくさいやつが来た」という顔の動きは、完全に百発百中でお見通しなのだ。
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