第16話 異母姉妹の告白
佳乃の言葉が、冷え切ったリビングの空気をビリビリと震わせていた。
何も知らないまま奥多摩のキャンプ場から連れ戻されたお兄ちゃんは、先ほど突きつけられた「エリーは実の妹ではない」という衝撃の事実に、自分の出生、そして織原家に刻まれた致命的な「タイムラインのバグ」を必死に脳内で組み立てているようだった。
しかし、佳乃の冷酷な暴露は、まだ終わっていなかった。
彼女は絶望の淵に立つ私をチラリと一瞥すると、大人しそうなタレ目の奥に宿る冷徹な光を、さらに鋭く研ぎ澄ませた。
「エリーの本当の父親が誰か、知りたくないかしら?」
佳乃はいたって真面目な顔で言った。その表情には、長年実家で抱えてきた親世代のドロドロとした秘密を、ここで全部ぶちまけて、この歪んだ家族のパワーバランスを引っくり返してやろうという、冷たい決意が満ちていた。
「そうだね」とお兄ちゃんは困った顔で答えた。
ついさっき、私の激情のビンタを食らって頬を真っ赤に腫らしたままのお兄ちゃんは、これ以上どんな泥沼のプライベート・サスペンスが飛び出すのかと、戦々恐々としている様子だった。
「わたしが教えてあげるわ。いいでしょ、エリー」
私は腕組みをして、ふいっとそっぽを向いた。本当は「あんたの口から言うな! この泥棒狐っ!」と叫びたかったけれど、ここで取り乱して泣き喚いたら完全に佳乃のペースに飲まれて負け犬になってしまう。
私はただ不機嫌そうに唇を尖らせ、最悪のタイミングで最悪の爆弾を落としていく異母姉妹を、殺意のこもった目で睨みつけることしかできなかった。
「エリーの本当の父親は、私のお父さんなの」
「え、叔父さんが?」
あの省エネでポーカーフェイスな徹の口から、今日一番の素っ頓狂な裏返った声が出た。
「そうよ。わたしのお父さんは、伯母さん――つまりエリーの母親と結婚前に付き合って妊娠させたの。でも別れてすぐに他の女の人と結婚した。それがわたしのお母さんよ。だから、エリーと私はお父さんが同じ異母姉妹なの」
佳乃は淡々と、水瀬家と織原家の過去のドロドロとした愛憎劇を暴露した。
つまり、私のママが結婚する前、お隣に住む水瀬の裕太叔父さんと泥沼の恋に落ち、私をお腹に宿した。けれど二人は何らかの理由で破局し、叔父さんは今の佳乃のママと結婚。一方、私のママは私を宿したまま、今のパパ(織原の長男)と強引に結婚して、私を「織原徹の妹」として戸籍に滑り込ませた――。
お兄ちゃんはお得意の天才的な脳をフル回転させ、その複雑怪奇極まりない「血縁のバグ」を必死に組み立てていた。そして、ようやくすべてのピースが繋がり、恐るべき話を完全に理解すると、「ええっ……!」と珍しく少しのけぞって驚愕した。
「ということは、エリちゃんはぼくの従妹っていうこと?」
お兄ちゃんの口から漏れたその一言が、私たちの「兄妹」という絶対的な関係性が、跡形もなく崩壊した瞬間だった。
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