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第10話 レナとライナス

 驚愕と動揺が、互いの身を駆け巡る。

 二人して呆然となってしまった。

 それでも、いや、だからなのか、私は知らずと眦から涙をこぼしてしまう。

 嗚咽を漏らすまいと、無意識にキュッと閉ざした唇が戦慄いた。ライナスが映る視界が滲む。

 彼は戸惑いを更に増していた。

 そんなふうに見えたのは、錯覚だろうか。滲んでいく視界のせいか。

 ただ、その中にあって、彼の前髪の合間に見え隠れする闇の紋章だけは不気味な鮮烈さを感じさせた。

 禍々しい気配が漂う悪しき紋章。水精霊ウィンダーや火精霊ファイーレのものとは、全く異なる紋様の。何と不吉な気配に満ちていることか。

 ギュッと胸が締めつけられた。ただ悲しくて、辛い。

 その紋章が彼の額にあることが、とても。こうして彼に刻まれて存在していることが、とてつもなく。

 とてもたまらない気持ちに駆られた。

 気がつけば、ごく自然に――当たり前のように、私はライナスの額へと指先を伸ばしていたのだ。神剣を持たぬほうの手を伸ばし、触れようとした。

 彼の額に、そっと。そこに刻まれた禍々しい紋章に。

 

「ライナス……?」

「――――っ!」

「……あ、痛っ」


 刹那、指先にゾクッとするものが駆け抜けた。

 とても嫌な気配が、束の間の痛みを生じさせる。胸の奥までも突き刺してきそうなほどの痛みを。

 なのに、彼の額から手を離せない。

 泣きたくなる。そんな想いが渦巻いていた。

 ライナスから今、戸惑いと緊迫感に満ちたまなざしを返されているからなのか。私の心の奥底で、もうずっと残像のように疼く痛みのせいか。

 互いの瞳が、互いの姿を映し出す。

 彼の額に触れていた手が、微かに震えていた。彼の名を紡ごうとした唇も。

 だが、そのせいか。いや、そのおかげなのか。

 私よりも先に、彼は半ば呆然と口を開いたのだ。


「……何なんだ、お前……は。お前は、いったい……」

「……レナ、よ。知ってるはずだわ、私……を。あなたはよく知ってるのよ。本当は……本当のあなたは」

「本当……の……?」


 そう、本当の――本来のライナスならば。

 私はただ、彼を見上げる。

 砂塵がかかった手から、気がつかぬ間に剣を放してしまった。

 瞬く間に、輝けるドレスは消え失せる。代わりに、私がいつも着ているドレス姿へと変じていた。

 そう、光の勇者としてではない、ただのレナという私の普段の姿へと。

 その手をゆっくりと、ふわりと彼の頬に添える。彼の額に触れていたもう一方の手とともに、両の手で彼の頬をそっと包み込んだ。知らず知らずに。

 瞬間、彼はビクッと身じろぐ。

 まばたきを忘れた彼の瞳から、冷酷な光が失せていった。その代わりに、激しい動揺が渦巻く。

 だからなのか。彼は私の両の手を外そうとしなかった。

 いや、そうしようとする意識すら、大きな戸惑いにかき消されていたのかもしれない。


「本当の俺……だと? 何だ、それ……は……」

「ライナス、あのね……」


 ――けれど、私は言葉を続けられなかった。

 唐突に、重苦しい邪悪な気配にまとわりつかれたからだ。私達二人を覆うかのように。いや、違う。私を、ライナスから引き剥がそうとするかのように、だ。

 視界に変わりはないものの、異様な息苦しさに襲われてしまった。突如の辛さに、私はうずくまりそうになる。

 思わず、彼から手を離してしまった。グッと自らの胸もとを押さえ、何とか耐えようとする。

 そんな私を映すライナスの瞳に、気遣わしげなものが灯ったように感じられた。私へと咄嗟に手を差し伸べようとしたような気がする。

 それらは、はたして錯覚だったのだろうか。

 彼は、すぐに無感情な面持ちへと変じてしまった。その瞬間、低く響いてきた禍々しい声とともに。

 耳もとにではなく、頭の中に声音が響き渡る。深い怒りと苛立ちに、ほの暗い嘲笑いを綯い交ぜにした不穏な響きが。


《ライナスよ、そなたは我の忠実なる下僕。それ以外の何者でもない。それでよいのだ。それ以外のそなたなど、どこにも無い。そうであろう?》

「――は、い。……エンディオ様」


 彼はふらりと立ち上がった。

 その瞳には、もはや動揺や戸惑いは一切ない。私を見据える冷酷さ以外は、何も。


「勇者よ、俺を惑わそうとでもしたか? 命乞いならまだしも、小癪な真似をしてくれたな」

「ち、違うわ……っ」


 咄嗟に身を起こした。

 彼へと手を伸ばすが、もはや触れられない。私の手を弾くように、彼は無碍もなく払ったのである。

 私を射るかのような視線を向けながら。

 そうして、突き立てたままだった闇色の剣を持ち直し、大きく振り上げた。両の手で、その禍々しい切っ先を私に振り下ろさんとしたのだ。

 しかし……。


《ライナス、面白いところではあるが――今は退くがよい。どうやら、ファイーレが失敗したようだ。火の神珠は一向に砕かれた気配がせぬ》

「な……っ? あの者が是非にと申し出た策で、失敗だと言われるのですか!?」

《如何なる良い策も、相応の実力がない者には任せられぬということやもしれぬ。我も少々、見誤ったらしい。火精霊どもがこれ以上に勢いづく前に退こうぞ。ファイーレは我がこちらへ連れ戻す故、そなたも早う戻れ。まだまだ勇者を討てる機会はあろうからな》


 低い冷笑い声とともに、ライナスの背後に大きな裂け目が生じた。

 禍々しい気配が、いや、邪悪に揺らめく闇煙が裂け目から立ち上っていく。

 それら全てが、ライナスを覆い包み込もうとした。

 でも、いや、だからこそ、咄嗟に私は彼へと駆け寄ろうとしたのだ。本能的に、彼を留めようとした。

 脳裏に、ついさきほどの彼の姿がよぎる。

 私を討ち取れたはずの、あの瞬間の彼が。私を貫くことがなかった――貫けなかった、彼の闇色の剣が。

 私を見つめる彼の動揺と戸惑いに満ちたまなざしが、面持ちが、私を突き動かす。砂塵を舞わせながら、私は立ち上がった。

 けれど、不気味な声が私を制してしまう。


「ライナス、待って……!」

《そなたは本当に邪魔だな、光の勇者よ。いつの世も、勇者は我を苛立たせるが――。此度も忌々しきかな……光の神子を伴えぬ愚かな勇者よ》

「それは……っ……」

「光……の、神子……。光……の……、――っうぅ!?」

「ライナス!?」

「う、うぐ……っ、っっ」


 刹那、ライナスを覆わんとする闇煙が急激に速度と広がりを増した。

 激しい頭痛が彼を襲ったのか、苦しげに瞳をきつく閉ざしゆく。そんな彼の全身を余す所なく不気味な闇煙が覆い尽くしたのだ。嘲笑うかのような低い声とともに。

 それだけではない。闇煙は裂け目の向こうへと退いていく。彼を包み覆ったまま。


《余計なことなど考えずとも良いぞ、ライナス。クククッ……! 光の勇者は我を脅かさんとする者――そなたが討ち取らねばならぬ者でしかないのだからな。フッハハハ!!》

「ライナスを返して! 彼に何をしたの!?」

《我の忠実なる下僕にしてやったのだ――あやつの何もかも、全てを消し去ってな》

「消し……去った!?」

《あやつはもう、そなたへは戻らぬ。さぁ、諦めよ。絶望に沈みゆくがよい。神子が傍らにおらぬ不完全な勇者よ。ワーッハハハ!!》

「ま、待って……っ。待ちなさい、魔王! 彼を返して!! 私の――、……っ、っっ」


 その瞬間、私は立ち尽くした。思わず、その瞬間に。

 魔王の冷酷な高笑いが吸い込まれていった裂け目に差し伸ばした手は、そのままに。

 消失した裂け目があったほうへと、懸命に伸ばした腕が虚しく揺らめく。

 まばたき一つできないほど、裂け目のほうを見つめるしかなかった。闇煙に覆い尽くされたライナスが消えていった裂け目を、ただ。

 私は呆然として呟き漏らす。


「私……。私、いったい何を……? 今、何を言おうとした……の?」

「大丈夫ですか、勇者様?」

「……あ、私……?」


 私は辺りを見回した。

 既に、闇の眷属達の姿は一切ない。

 ただ、火の神珠がふわりと浮き上がっている辺りを中心に、激しい戦いの痕跡が色濃く残されていた。

 それは、長であるファイナも例外ではない。手首の辺りを抑え、隣に佇むファルに支えられている状態だった。

 知らずと私は心配そうな面持ちとなっていたらしい。

 ファイナは痛みを堪えつつ、努めて朗らかに笑む。


「我らが郷に来られたばかりの時に、このような騒ぎに巻き込んでしまうなんて申し開きもありませんわ。あらためまして、どうぞ神珠のもとへお越しくださいな」

「さぁ、こちらへ。ファイナとともにご案内いたしましょう」

「は、はい……!」


 私は、手から離してしまっていた神剣を拾い上げ、軽く砂を払った。

 神剣自体に傷みはなく、土の力と風の力を注がれて淡い光をまとう剣身に変わりはない。

 ホッとした心地で神剣を見つめれば、鏡のように剣身に私の顔がうっすらと映し出された。その瞳が、私自身に問いかけているような気がした。


「私……の? ライナス、は……私の……。私……の。私にとって……の?」


 瞬間、胸の奥で打ち震えるものがあった。何かが、束の間に。

 反射的に、グッと神剣の柄を握り締める。片手だけではなく、両の手でしっかりと。ただ、きつく。

 ただ静かにほのかな輝きが神剣から放たれ、まばたきを忘れた私の瞳に映し出された。


「……私。私……は……。私と……ライナスは、まさか……!」

「勇者様、いかがなされました?」

「あ、いえ。ごめんなさい、さぁ――行きましょう!」


 私は急いで神剣を腰もとの鞘へと収めた。

 少しばかり怪訝そうなファイナとファルに導かれ、火の神珠のもとへ向かう。

 それでも、脳裏では、閃きにも似た想いが浮かんでは消え、消えては浮かび上がっていた。

 神珠へと、神剣を掲げ奉納した時も。神剣へ火の力が注がれ始めた時も。神珠の内で渦巻く炎が神剣を包み込み、聖なる火の力で満たしゆく時も。

 私は、ただ脳裏をよぎる想いを反芻していたように思う。

 ライナスは、私の――。私にとって、彼は――。

 波紋のように広がりゆく想い故なのかどうか、火の力を注がれゆく神剣は、これまで以上の光を放つようになった。まばゆい輝きとまではいかないけれど、もはや淡いとは言えないほどの輝きを宿す。

 それに誘われるように、両の手を神珠へと差し伸ばした。ただ、まっすぐに神珠の内にある聖剣を見つめながら。

 スゥーッと、神剣は神珠の内から外へ。ふんわりと柔らかに私の両の手へ。

 瞬間、私がまとうドレスは輝ける光を宿したものへと変じた。

 揺れ舞うドレープが美しい煌めきを放つ。僅かに砂塵立つ裾に至るまで清らかに輝いた。

 その光り輝ける様が、私を我に返らせる。

 今は、自らの手にある神剣に光を蘇らせることが先決なのだ、と。

 土と風と火――聖なる神珠が抱く清らかなる力を注がれるたびに、神剣は強き光を取り戻していくのだから。その輝きを真なるものへと至らせねばならない。

 私は静かに鞘へと神剣を収め、深い一息をついた。

 何故、こんなにも気になるのだろう。私と、そして、ライナス。私達二人のことが。ともすれば、その想いに囚われてしまいそうになるほどに。


「ライナス……。あなたは、私にとって……」


 思わず口をついて出た言葉に、まるで神剣が応えたような気がした。剣の柄を持つ手に、ピリリと感じるものがあったのだ。

 まるで輝ける光そのものが小さく弾けたような、そんな感覚が、柄を握る掌に響き渡った。

 思わぬことに戸惑う。

 

「え……?」

「いかがなされましたか、勇者様?」

「光の神剣に、何かございましたか?」

「あ、いえ……っ。また強くなったな……って、光が」


 それは本当のこと。


「こうして、鞘に収めても尚、輝ける光を感じられるんです」


 これも、本当のことだ。

 神剣の柄から握っている手を通して、光が響いてくるかのようだった。まばゆい輝きに音があるのだとすれば、きっと。

 その響きが、私に語りかけているような気がした。いや、何か大切なことを教えようとしてくれているような。

 胸の奥にまで、鼓動が静かに響き広がる。

 無意識に私は神剣の柄を掴み締め、呟いていた。


「……光の神子、私の。私にとっての……神子。今、どこにいるんだろう? どうすれば、出会えるの?」


 ――ライナスに。私が知っている彼に。私のことを知ってくれている、あの人自身に。

 私はハッと息を呑んだ。

 心の内に知らない内に広がっていた想いを自覚して、唇が戦慄く。思わず口もとを抑えてしまうくらいに。


「どうして、私……。だって……。そんな、まさか……。ううん、でも……」

「出会えますわ、いずれ――必ず」

「ファイナ様?」


 私の動揺をどう捉えたのか、ファイナは気遣わしげな感を朗らかな微笑みに溶け込ませる。そのまなざしには、凛としたものがあった。


「いつの世も、光の勇者様は光の神子を見出してこられました。ライオネル陛下もそうでしたわ。真なる輝きを取り戻した光の神剣を手にして初めて、ルナ王妃陛下を神子だと感じ取れたのですから」

「光の……神剣。真なる輝き……の」

「えぇ、勇者様。きっと、その時には」

「その時――こそは、わかる」


 刹那、ライナスの姿が脳裏をよぎる。

 トクン、と鼓動が大きく波打った。反射的に神剣の柄を掴み直す。

 あらためてファイナを見やると、彼女は凛とした表情の中にも気遣わしそうな感を滲ませていた。

 そんな彼女へ、私は緩やかに頭を振ってやんわりと微笑んでみせる。


「諦めません、私。くじけたくないんです。――絶対に」


 光の神剣に真なる輝きを取り戻すこと。光の神子を見つけること。

 そうして――。


「ライナスのことをね、諦めたくないから。だから、くじけるわけにはいかないの。絶対に、私は……!」

「そのお気持ち、わかるような気がしますわ」

「ファイナ様……? ……あ、もしかして、ファイーレさんのことを?」

「えぇ。あぁ、もちろん、私はこの郷を束ねる長ですから。故に、仇なす者を許すわけにはまいりません。でも、幼き頃よりの友なのです……大切な。同じ人を愛したことで、彼女を深く傷つけてしまいましたが。でも、それでも――」


 ファイナは、深い憂いを表情に浮かび上がらせた。悲しい微笑みめいたものが入り混じる。

 彼女を支えるファルの腕に、僅かに力がこもった。ファイナを見つめる彼の面持ちにもまた、痛切なものが滲む。


「ファイナ、君が長として私に命ずるのであれば、私はファイーレを妻としよう。それによって、事が収まることを長たる君が望むのならば。だが……」

「ファル、私は……」

「だが、如何なる事態となっても、私の心は変わらない。変わることなく、君へと向かい続けるだろう。君を想う気持ちは、誰にも変えられないのだからね」

「……わかっているわ、ファル。誰かを想う気持ちは、如何なるものにも変えられはしないのよ」


 ファイナは瞳を伏せ、そっとファルへと身を預けた。そんな彼女を彼はしっかりと抱き寄せる。二人ともに、辛そうな気配が漂う。

 彼らの想いの襞が伝わってきたからなのかどうか、私は知らずと胸もとに手を置いていた。その手をグッと握り、唇をきつく結んでしまう。

 規則正しい鼓動に重なるかのように、二人の言葉が何度もよぎるのだ。

 誰かを想う――その心を、無理やり変えてしまうことなんてできない。大切な想いを心の中から消し去るなんてできようはずがない。


「私も、そう……思う。そう、思います」


 そう、信じる。

 その瞬間、パァッと弾けるように脳裏に、心に、鮮やかに浮かび上がった人影は――ライナス。

 私に朗らかに笑んでくれる、私がよく知っている彼。そして、私を冷たく見据える今の彼。交互に浮かび上がる彼の姿が、私の意識いっぱいに広がり重なりゆく。

 まるで、真なる輝きを取り戻しつつある神剣から伝わる光のようだった。身にまとう輝けるドレスの揺らめく様のように、ゆらゆらと。

 そうして私は、火精霊の郷を後にしたのだ。ファイナとファルに感謝の意を告げて、賢者ビギニアが待つ離宮へと戻ってきた。

 ホッとするような休息のひとときを過ごすために。

 でも……。


「何度言われても聞けぬぞえ! 何と……何と愚かなことを言い出したものじゃ!!」

「そんなことないわ! お願い、ビギニア様!!」

「血迷うたことを申すでない……っ! 額に闇の紋章を刻みし者に、何故に神子の気配なんぞ……あるわけないのじゃ! あるわけが……っ、っっ」

「でも、もう一度! もう一度だけ、ライナスを!!」

「黎明の賢者たる我の見立てを愚弄するつもりかえ!?」

「そんなつもりは……っ。でも……!」

「……でもも何も無かろうて。ライナスが生まれた時に、我は祝福を与えに城を訪れたがのう、あの子には何も感じ取れなんだ。しかも、あの者は今、そなたを一度ならずも討とうとしておる……それが全てじゃ! 全てなのじゃ!!」

「だけど……!」


 私は軽く息を弾ませたまま、言い淀んでしまった。ドレスをギュッと両の手で掴み締める。

 ここは、謁見の間である大広間。その玉座で、ビギニアはしかめる。額に手をあて、困惑と苛立ちが混ざったような重い嘆息をついた。


「とにかくじゃ、ライナスは光の神子ではないぞよ? あるわけがないのじゃ! そのようなこと……っ。あるはずもない……っ。そうじゃとも!!」


 ありえない、とばかりにビギニアは頭を振った。玉座にぐったりと腰を下ろしたまま、ただ否定するのだ。

 ライナスが光の神子である可能性も。彼こそが、私にとっての神子たる者ではないのか、という私の想いも。

 如何なる是非もなく。ただ、頭ごなしに。聞く耳を一切持ってくれなかった。

 そんなビギニアの姿に、私は胸を痛める。いや、違う。

 私の胸に広がるのは、反発する気持ちだった。どうにもこうにも、彼女の意に頷けない自分自身を感じてしまう。

 そんな時である。

 この場に、けたたましい声が突如として響いた。

 その声は侍従長のものである。ビギニアへの丁重なお辞儀もそこそこに、飛び込んできた侍従長の顔も声も酷く固かった。


「水精霊の郷が、終焉の魔王軍に急襲されたとの報せが入りました! 長殿が意識不明となられている由にて……!」

「……なんじゃと?」

「水精霊……の、郷が? そんな……!」


 私が訪れようとしていた最後の郷を襲った異変の報せに、立ち尽くすしかなかった。

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