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昔の恋の話

外の暑さが辛い季節になってきた。

一定期間、魔法薬研究室が閉鎖されたせいで学生達の研究が遅れて、その後は目の回る忙しさがやって来た。

皆、自分の研究に精一杯であまり話しかけられたりしなくなり、いつのまにかいつもの日常が戻っていた。

「夏本番になる前に研究を終わらせたかったのに」

そうボヤく学生が多い。


忙しすぎて、お昼もまともに取れなかっけれど、1週間もすると、なんとか時間が作れるようになったので、久々にキャロルとお昼を食べる約束をする。


今回は魔法薬研究棟の休憩室に来てね、と手紙をもらう。

休憩室って確か個室よね。

今まであまり足を踏み入れたことのないエリアに向かうと、廊下からして雰囲気が違う。

毛足の長い絨毯に高そうな絵画がかけられていて、どこかのお屋敷に来たようで落ち着かない。

さすが貴族だらけの学園。


高位貴族が使う個室の前を通り過ぎて、一番奥の、個室のドアをノックして中に入る。

キャロルが既に待っていてくれてハグをしてくれた。

「クリスティーナのおかげで、クラーク魔法薬研究室が2位になったでしょ?研究室のみんなから感謝されてるの」

すごく嬉しそうに笑う。

「あなたって本当にすごいわ。魔法鞄を作ったり、みんなが知らない植物を知っていたり」


あの日から、みんなが話しかけてくれるようになった事を話すと、キャロルはクスクスと笑った。

「貴族が平民に優しくするのって珍しいのよ?すごいわ」

「キャロルだって貴族じゃない!でもいつも私と対等に接してくれるし、優しいわ」

「私が貴族になってまだ10年経たないのよ?気持ちは平民のままよ。線の細い貴族男性に興味もないし。でも、魔法騎士学科の学生は例外よ」

「細くてしなやかな人もいれば、すごくマッチョな人もいたわね」

「私はマッチョな人が好みよ」

キャロルはうっとりしながら答えた後、こちらを向いた。


「魔法騎士学科の人ってみんなカッコよくない?細くても、あの制服の下は筋肉がすごいのよ?サイコーよね」

あまりの熱量にちょっと苦笑いしていると、更に話を続ける。

「ワインバーグ伯爵令息みたいに綺麗な顔で、虫も殺しませんって笑顔を振り撒いていても、きっとすごい肉体美なのよ?あの顔で魔物を仕留める姿を見てみたいわ」

「好みのタイプの人はいた?」

キャロルの好みのタイプを知りたくて質問する。


「魔法騎士学科で一番人気といえばアークライト侯爵令息よね。今まで何がいいのかわからなかったけど、近くで見ると本当に素敵だったわ。あの筋肉質の太い首と広い肩幅。肉体派の舞台俳優みたいで本当に素敵」

遠くを見つめてつぶやいた後、こっちを見た。


「アークライト侯爵令息の熱い視線がクリスティーナに注がれていたわね」

「熱い視線かどうかはわからないけど」

キャロルに夏季大会の翌日の出来事を話す。


「ドレスのプレゼントって、凄いわね。アークライト侯爵令息からプレゼントを貰ったって話、聞いたことないもの」

「驚きすぎてどうしていいかわからないの。お礼って必要?」


「いらないわよ。第一、私たちからするプレゼントなんて、多分嬉しくないわよ」

「そっか。高位貴族って別世界だから近づかないようにするわ」

違う世界すぎて、どうしていいかわからなかった。


「それがいいと思うわ。残念な事を言うとね、侯爵家の方の結婚相手は、伯爵家以上なの。恋愛は出来ても、結婚はできない相手だもの。クリスティーナは恋愛を楽しむタイプじゃないでしょ?」

「そうね。ちゃんとした恋愛経験もないし」

「ちゃんとしたって事は、ちゃんとしてない経験はあるの?」

「昔、キスまではね…。でもお互いに、何か違うって思って…」

ハナメイにいる時の唯一の恋愛経験だ。

淡い恋心はふとした事で消えていってしまった。


「その後は会わなくなったの?」

「うん。なんとなく、お互いに連絡を取らなくなって。…って、キャロルはどうなの?」

「私は、ちゃんとお付き合いした経験あるわよ」

「そうなの?どんな人だったの?」

「もう話したくないくらいダメな恋愛だったわ。って、私の話はいいの。クリスティーナはこれからの事を考えなさい?恋愛を楽しむのか、それともアークライト侯爵令息とは距離を取るか」

「距離を取りたいけど、どうやって断ればいいの?」


「確かに。難しい問題よね……。そうだ!誰かと偽装でお付き合いすればいいんじゃない?」

キャロルはいい事を思いついたと嬉しそうに言う。

「相手がいないもの。だって、貴族しかいない中で生活しているのよ?出会いが無さすぎだわ」


「そうよね。いくら偽装とはいえ、私の周りにクリスティーナに合うような素敵な男性はいないし」

「王都にはこんなに沢山の人がいるのに、出会いがないっていうのも不思議な話よね」

毎日沢山の人にすれ違うのに。

ハナメイでは、すれ違う人はほぼ顔見知りだった。

だからこそ、勤めていたダイナーにコーヒーの配達をしてくれていた男性に恋をした。

うまくはいかなかったけど。


「他に誰かに誘われたりしてないの?行きつけのご飯屋さんとか、カフェとかで声を掛けられたとか」

「それはないけど。この前、帰りにワインバーグ伯爵令息に出会って一緒に買い物に行ったの」

「ワインバーグ伯爵令息と?そっちの方が危険よ。女性関係は派手な方で、付き合っては別れを繰り返しているわ。別れた後も全ての女性と良好な関係を築いているのが不思議だけど」

「ワインバーグ伯爵令息が、凄くモテるのはわかるわ」

「そっちは絶対に近づいちゃダメよ。ワインバーグ伯爵令息が相手なら、偽装彼氏を作っても無駄かもしれないわね」

ここで戻る時間になってしまった。

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