鍵
だんだんと緊張がほぐれてきて、室内を見る。
図書室のように本棚が置かれているけど、大きな違いは、今視界に入っている本の殆どが外国語で、タイトルすらわからない事だ。
大きな部屋に所狭しと本棚が並べられているのは圧巻だ。
視界の隅で動いていたメイドは、本棚を間仕切り代わりにして、簡易ベットを二つ用意してくれていた。
「物音がしてもお気になさらずゆっくりとおやすみくださいませ」
フカフカの布団と枕が目に入り、急に眠気を感じる。
「教授、お言葉に甘えて休ませて頂きます」
シリルが言うので私も休ませてもらう事にした。
ローブを脱いでベッドに入る。
シーツは上質で、寝心地も今まで経験した事がないくらい気持ちいい。
雲の上にいるみたい。
外で感じる暑さや湿気が皆無で快適すぎて目を閉じた。
気持ちいい。
…フワフワと空を漂い、マシュマロの上に乗る。
クッキーでできた沢山のお花を眺めて、手に取ろうとした時、地面が揺れて空が暗くなった。
いきなり石の塊が落ちてきて、体で受け止めた。
重い…。
体が動かない…。
周りのクッキーの花がガタガタと鳴り、不協和音を奏でていてうるさい。
硬い石がバラバラと落ちてきて体に当たる。
痛い!
あれ?…これって…夢?
目を開けると、教授の書庫だった。左右には沢山の本がある。
寝心地のいいベッドに寝転んであっという間に眠ってしまったのね。
ベッドの上には何冊かの本が落ちていて、体の上には猫が乗っている。
多分、本棚の上部から飛び降りてきたのね。
上部の本が落ちたようで、棚の一部が空っぽになっていた。
ベッドの上には5冊の本が落ちている。
猫をベッドから下ろして、本を手に取ってみるけど、読めない文字だし、中には不思議な図形が書いてあってさっぱりわからない。
どの順番で棚に戻せばいいかわからないわ。
棚の向こう側にいるはずのシリルに聞けばわかるかしら?
立ち上がった時だった。
ガタガタと夢の中でも聞いた音が、書庫の奥から聞こえてくる。
何の音だろう?
疑問に思うけど、まずは本棚から落ちている本を片付けるのが先だわ。
シリルを起こそうと、本棚の反対側に置かれたベッドを覗くとシリルがいなかった。
「シリル?」
小さい声で呼ぶけれど返事はない。
代わりに返事したのは猫だった。
ニャンと鳴き、まるでついてこいとでも言うようにこちらを振り向きながら歩きだので、本を抱えたまま猫の後をついて行く。
本棚の下の狭い隙間を通り、段差を5段降りた後、6段上り、棚の間をジグザグに抜けると、シリルの背中が見えた。
ガタガタうるさい鎖でぐるぐる巻きにされた棚の前に立っている。
「クリスティーナ、おはよう」
こちらを見ないでシリルが言った。
「この棚は、古代の本を入れる本の檻だよ。古代の本は凶暴なんだ。檻の外にいる僕たちの魔力の匂いを嗅ぎ取って、噛みつこうと暴れているんだよ」
「夢の中でも聞いたガタガタという音は、コレ?」
「きっとそうじゃないかな。ベルツ教授には服従しているから、大人しいんだけど、ベルツ教授の匂いが無くなると、暴れ出すんだ。面白い本だよね」
「そうね。あの、シリルにお願いがあって探しにきたの。ベッド脇から落ちた本を片付けたいんだけど、並べる順番がわからなくて」
本を見せると、シリルの目が輝いた。
「ベルツ教授の書庫には、旧字体の魔法入門書もあるんだ!」
ペラペラとページを進めて、すごい速さで一冊読んでしまった。
「これは、400年前に書かれた魔法の入門書だよ。まず『木の葉を5枚置いて、魔法の有無を調べる』って書いてある。魔力測定機が無かった時代だからかな」
本の背表紙を眺めて、表紙を撫でた。
「元あった場所に戻さないとね」
私から本を預かり、歩き出したので後ろをついていき、私の寝ていたベッドまでたどり着いた。
「クリスティーナが休んでいた場所は珍しい本がいっぱいあったんだね」
そう言いながら本を片付けてくれた。
ニャン
「さっきから猫がしつこいぐらいに戯れてるでしょ?このお屋敷の猫は、全部部屋移動の鍵なんだ。こんなに足に絡みついてくると言うことは、教授が呼んでるんだよ」
そう言いながらシリルは猫を抱き上げる。
部屋が移動して、天井が天体図の部屋に来た。
ベルツ教授が、ダイニングテーブルで待っていてくれた。
座るように促されて、高そうな椅子に腰掛けると、香り高い紅茶を出される。
「少しは眠れたかな?みつめ草の事は、誰にも言わないように。また、不審な物を見つけたら報告して欲しい」
「わかりました」
シリルが返事をしたところで、シリアルが運ばれて来た。
その次は、フルーツ、フルーツジュース、ポーチドエッグにベーコン、次から次へと食事が運ばれて来る。
この量は何?
驚いていると、シリルが「これが伝統的な貴族の朝食だよ。まだまだ品数が出て来るから。クリスティーナも早く食べないと、テーブルが一杯になるよ」と教えてくれたので、出て来た順番に食べ進めていく。
食べるのに、気合いが必要な量だわ。
都会に出て来てから、貴族の生活を垣間見る機会が多いけど、本当に違いすぎてびっくりする。
この後、お腹がパンパンになって、また少し仮眠を取った。




