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杖屋さん

クライド様は一軒のお店の前で足を止めた。

真っ黒な看板には何も書いていない?

不思議に思って看板を見ていると、

「読めないかな?」

と笑顔で言われる。

「はい…。この看板何か書いてあるんですか?」

「あるよ。杖専門店モルガと書かれているんだ。やっぱり見えてなかったかな。もう一度看板を見てごらん」

クライド様の意味深な言葉にひっかかりながらも、再度看板を見ると、文字が浮き出て来た。

《杖専門店モルガ》と金色で書かれている。

と同時に、誰もいない道に沢山の人がいる事がわかったのに、人の形しかわからない。


驚きつつも店内に入った。

「ここは影族街なんだよ」

「影族!すごい!」

私が持っている古い教科書の種族の特性の欄に出ていたので、知識としては知っていたけど、本当に簡単には認識できないなんて驚きだわ。


「ここも影族の方のお店なんですか?」

店内は黒い床に紫の壁で、美術館のようにガラスのケースに入った杖が展示されている。

魔石が持ち手に埋め込まれた杖、針のように細くて小さな杖。

珍しい杖ばかりだ。


「違いますよ」

スリーピースのスーツをきっちり着込み、顎髭を伸ばした背の高い老人が出て来た。

驚くのは、アシンメトリーの仮面をつけているのだ。

「この顔の仮面が気になりますか?私は右目と右頬を失いましてね。存在しないんですよ。残った左目はかろうじて見えるのですがね」

仮面は、左頬の一部と鼻、口は見えているが、他を全部隠してしまっている。

神秘的な雰囲気を醸し出すのは、きっと仮面のせいだ。

「モルガといいます。今は引退して余生を楽しんでいます」

軽い礼をしてくれるが、それがまた優雅だ。

私はカーテシーをする。

「クリスティーナ・マドロスと申します。サンドロペ魔法学院の魔法薬学科の雑用係をしております」


「クリスティーナはニドルセント領出身なんだけど、あまりにも知識が豊富だから魔法薬学科の雑用係として働いているんだ」

クライド様が凄い事のように説明してくれるけれど、全く凄い事じゃない。


「爵位を名乗らなかったという事は、失礼ですが平民の方ですか?マドロス嬢、貴族しかいない中で働くのは大変でしょう。サンドロペ魔法学院は、掃除係であろうが一代男爵の娘など貴族社会で生きて来た人しか雇わないですからね」


「確かに言われたらそうかも!」

クライド様は驚いた声を出す。

「騎士学科の掃除係の人は、とある伯爵家で乳母として働いていた人の娘さんだ。モルガ爺様に言われるまで気が付かなかった」

お掃除の方には平民もいると聞いていたのに、まさかの事実に私も驚く。

「私のように、貴族社会を全く知らないのに働いている人は…いないんでしょうか?」

モルガさんはにっこり笑った。

「私の知る限りでは過去に数人知っていますから、ゼロではないですが珍しいですよ」


「その珍しいクリスティーナのために今日はここに来たんだ」

クライド様はそう言ってこちらを向いたので杖を出す。

「あの、自作した杖をずっと使っているんですが、杖って買う物だとワインバーグ伯爵子息様か伺いました。だからいつか杖屋さんに来てみたかったので、お願いしたんです」

「これが自作の杖ですか。持ち手は握りやすいように削ってありますね。誰かに作り方を教わったのですか?」


「教えてもらえる相手がいればよかったのですが…」

「と言う事は、何かを見て作ったのですか?」

「はい。古い教科書を参考に。杖が売っていると知らなかったので」

「素晴らしい。杖を買うのは貴族だけですよ。かといって、自作する平民の方は今ではいなくなりましたけどね。白樺に魔法馬の毛は、なかなかないですね。マドロス嬢の魔力の流れに合っているのでいいと思いますが、改良した方がもっと魔力は増幅されると思いますよ」

「新しい杖を買う方が早いのではないですか?」


「マドロス嬢の杖は、貴女が育った土地の素材を使っていますね。買う方が早いですが、こんなに魔力と杖の相性がいいのに手放すのはお勧めしませんよ」

「わかりました。あの、改良はどうやったらいいのですか?」


「きっと、ある日突然、貴女にぴったりの素材が手に入り、同時に改良の方法もわかりますよ。それまで待っていればいいですよ」

「魔族の予言だ!これはいい兆しだよ」

ワインバーグ伯爵令息が楽しそうに言う。


「クライド坊ちゃんは、そんなところが子供っぽいですね」

モルガさんは静かに言ったあと、キャンディをくれた。

「マドロス嬢は何歳からお酒の許可が出ました?」

この国の飲酒は18歳からなのに不思議な事を聞かれて首を傾げる。

「普通通り18歳ではないんですか?私は19歳なので、許可がおりていますよ」

魔法が一つでも使えれば18歳、全く使えなければ20歳からとハナメイでは言われていた。


「魔力測定の時に、飲酒可能年齢は告げられませんでした?」

「魔力測定をしていないので…」

「そうですか。飴は普通にお召し上がりいただいて構いませんよ」

なんだかよくわからない質問だわ。

「僕達を子供扱いしているな?もう大学部だよ?5歳の子供じゃない。クリスティーナにいたっては、働いてるんだ」

「私からみれば、まだまだ子供ですよ。でも、クライド坊ちゃんよりマドロス嬢の方が自分で仕事を勝ち取っている分だけ、大人ですね。ではまた、いらっしゃってください」

その言葉と共に、目の前が明るくなって気がつくとお店の前だった。


「また、これだ。モルガ爺様は魔族で、曽祖父と共に働いていたんだ。魔族の寿命は人間より長いから、本当の年齢は知らないんだ」

「魔族の方!初めてお会いしました」

キャンディの包み紙を見ると、みたことのない文字が書かれていた。

「これ、どこのキャンディなんでしょう。見たことのない文字が書いてありますね」

包み紙を開いて、口に入れると、不思議な事が起きた。

影がだんだんと立体的に見えてきた。

沢山の影族の人が歩いていて、服装や髪型がわかるようになった。


「このキャンディ凄いです」

「え?何が?」

「いつも食べてないんですか?」

「持って帰って疲れた時とかに食べるけど、これで元気になるとか無いよ」

「じゃあ食べるタイミングが悪いんですね。今食べてください」

クライド様は懐疑的な顔をしながらキャンディを食べた。


「え?あっ!」

驚いて周りを見ている。

「まさか、影族が見えるなんて!そんなキャンディだったのか」

今まで影しか見えず、声も聞こえなかった人たちの会話が聞こえてきた。

無音に近い空間が、実は沢山の声で溢れていた事を知る。

「ずっと子供扱いされてキャンディを渡されているのかと思っていたよ」

「思い込みですね」


2人で顔を見合わせて笑った。

もらったキャンディはイチゴ味で美味しい。

「それなりに魔力が含まれた飴だから、飲酒可能年齢を聞かれたんだ」

「何か関係があるんですか?」

「魔力酔いするんだよ。でも飲酒ができる年齢なら大丈夫」

「飲酒可能年齢は人によって違うんですか?」

「そうだよ。魔力測定を受けると同時に飲酒可能年齢を告げられるんだよ。魔力量が多いと、飲酒可能年齢も若い」

「そうなんですね!知らなかった」

「魔力量が多いと、魔力がアルコールを分解してしまうんだ」

だから、アルコールと融合する魔法薬があるのね。

アルコールにしか溶けない魔法薬を飲んで酔っ払わないのか疑問だったけど、魔力がアルコールを分解してしまうなら、飲んでも酔わないんだわ。


この後は他愛もない話をしながら、古道具屋さんに連れて行ってもらった。

本当に、お値打ち品が多い。

高級アンティークから、お手頃品まで多種多様に揃っている。


「古い魔道具をどうするの?」

「自分で使うんです。ニドルセント領にいる時、働いていたダイナーではいつもラジオが流れていました」

物珍しい品々を物色しながら答える。

店内には、色々な魔道具が並んでいて、面白いことに古い物ほど高い。

「ちょっと予算オーバーね」

思わず声に出てしまった。

高級なガラスで出来たベッドランプ調のものや、有名デザイナーが手がけた物が並んでいるので、全く手が出ない。


私の独り言を聞いた小人族の男性が、

「アンティーク調は高いよ。最近のちっともオシャレじゃないデザインの方が安いよ」

と、教えてくれたので、機能重視で選ぶ事にする。

でも、可愛らしいデザインも捨てがたい。

悩みながら見ていると、安いラジオを見つけた。

ラジオを聴く世代は高齢の方が多いせいか、ここ数年で売り出されたラジオは掌サイズだったり、ブローチ型だったり。

あまり高くないのが嬉しい。

しかも、少しでも壊れていると破格の値段がついている。

自分で直すのもいいわね。

蝶のオブジェ風のラジオを買う事にした。

もしも直らなくても、部屋の置物として飾ればいいわ。



ラジオを買った後、クライド様は目の前の露店で蛇の抜け殻を買った。

「そろそろ帰ろう」

「そうですね、ここにいると時間の感覚がなくなってしまっていて、今何時なのかわかりませんものね」

どのくらいの時間、ここにいるのか本当に不明だ。

「帰り道、驚かないでね」

ついていくと、一軒の古い宿屋にたどり着く。

「202号室、2名で」

クライド様は、受付のおばさんに先ほどの蛇の抜け殻を渡す。

「確かに、お代はいただきました」

おばさんはニコニコしながら、部屋に案内してくれた。

202号室は不思議な部屋で、真ん中に水晶玉が置いてある暗い部屋だった。

ドアを閉められて、部屋が真っ暗になると、急に水晶が輝き出した。

眩しすぎて目が開けられない。

気がつくと、いつものバザールの中程にある民芸品の大きな木のオブジェの前にいた。


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