14 処罰
結果として、俺の処分は驚く程軽いものだった。
数日間の謹慎は、王宮に与えられた部屋でただ大人しく過ごすだけ。
罰というより休暇に近い。
ここ数年、殿下に私生活まで振り回されていた状態だった。
こんなにもゆっくりしたのは何時ぶりだろう。
けれど、世間は待ってはくれない。
今回の事案は、速やかに議会にも報告されたらしい。
謹慎が解けた時点で俺は父に呼び戻され、城を辞した。
そして俺が聞いて問題のない範囲で、調査結果や議会の決定を父に教えてもらった。
呪いを掛けた魔女はあっさりと見つかり、大人しく連行されて王太子の企てを証言したそうだ。
呪いの実行犯であった魔女は、フレデリクとリリエラが依頼する音声を魔法で記録しており、また報酬に受け取った王妃殿下の遺品やフレデリク本人のピアスなどを物証に、大きな罪には問われなかった。
王太子本人の自作自演であった事実に、捜査に協力的であったことと、王太子に命じられて逆らう余地がなかったことも考慮されたんだろう。
魔女が独自に編み出した『録音魔法』を、王家に提供したことも大きい。
これは、かなり画期的な術だ。
リリエラの尋問の時にも使用され、今後は色々な場面で活用されることになるだろう。
余談だが、フレデリクとリリエラが参考にした例の劇の脚本は、その魔女が手掛けたものだったらしい。
奇妙な縁もあったものだと思う。
魔女本人も、事情聴取の時に卒業パーティーの出来事を聞いて驚いていたと言う。
さすがに無罪放免とはいかず、数年無償奉仕が課せられ、彼女は国の監視下に置かれることになるが、殿下の自爆に巻き込まれた魔女が極刑に処されずにすんで良かったと思う。
逆にリリエラ嬢は、第三王位継承者であるアルマディア嬢を謀ろうとした共謀罪と不敬罪、王太子を教唆し呪いを受けさせた罪により、生涯幽閉を言い渡された。
当然身分剥奪の上、ノーマン男爵家は取り潰し。財産のほとんどがアルマディア嬢への賠償に当てられ、残った分は国に返上される。
リリエラ嬢は、今はまだ王宮の貴族用の牢に入っているが、いずれ別の監獄に平民として収監される予定だ。
ただリリエラ嬢は、フレデリク殿下の子を身籠っていると主張しているらしい。
そのせいで、まずは妊娠が本当かどうか見極めるため、王宮の牢に留め置かれている状態だ。
勿論リリエラ嬢が妊娠しているかもしれないことは極秘だ。
俺が知り得たのは、殿下とリリエラ嬢の間に肉体関係があったかどうか調べる為に、事情聴取の時に聞かれたからだ。
俺は、フレデリク殿下の近くに控えていることが多かったが、二十四時間張り付いているわけではなかった。
特に自分が卒業してからは、学院内での行動までは、細かく把握することは難しかった。
護衛も廊下に出されていることも多く、二人の間に交わりがあったかどうかは、正直絶対ないとは言い切れない。
医師の診断では、少なくともすでに処女ではなかったことが確認されている。
そして妊娠が本当だったとしても、それがフレデリク殿下の子かどうか、という疑惑もある。
もし本当に殿下の子を身籠っているとすると、頭の痛い問題でしかないが。
無事に出産した場合、信頼のおける貴族の下へ、身元を伏せて養子縁組みをされることになるんだろうが、王家の血を引く庶子なんて、争いの種にしかならない。
いっそ、死罪なら後腐れもないんだが、さすがに罰として重すぎるらしい。
極刑を免れたのは、リリエラ嬢がアルマディア嬢に、直接的な危害は加えていないことが大きい。
それにアルマディア嬢を呪いの黒幕に仕立て上げると言い出したのは、あくまでフレデリク殿下の方だったからだ。
まあ嬉々としてリリエラ嬢も乗っていたから、共謀の罪には問われているが。
そして反省した態度と捜査に協力的だったことが加味された結果だ。
ただ兵に引っ立てられていった時の様子を考えると、本当に反省しているのかは謎だ。
まあ、ただの囚人と化した彼女に会う機会などないだろうから、嘘でも本当でもどちらでも関係ないか。
そして、今回の騒動の首謀者であるフレデリク殿下はというと…。
呪い騒動の前までは、フレデリク殿下の廃嫡に難色を示す者達も一定数いた。
しかし、今回は擁護する声は上がらなかったそうだ。
どうやら、彼らの中でも決定打となったようだった。
失態に失態を重ね、あまりにも稚拙な行動に、人心は完全に離れたんだろう。
フレデリク殿下は王籍から抹消され、罪人として裁かれた。
当の本人は夢の中のまま、緩やかな死を賜ったらしい。
俺は、殿下の死まで願っていたわけではなかった。
だが結果として、馬鹿げた殿下の行動を阻止出来る場所にいて容認したのは俺だ。
悼む資格もない。
そう思ったのも束の間。
思い出される過去のあれこれに、しんみりした気持ちが消えた。
長く傍で仕えてきた身で薄情だと、人は非難するかもしれない。
だか、自分がその立場になったとして考えてみてほしい。
最初の出会いから尊大な態度で、人にかしずかれるのは当然。
臣下が王族の為に動くことも当然。
人の進言を無視して、好き勝手に振る舞って、困ったら俺に後始末を押し付け、感謝を表す言葉もない。せいぜい「ご苦労」が関の山。
そんな人物相手に、情や忠誠心が育つわけがない。育っていたらマゾだと思う。
そして、今回の騒動だ。
最後の最後まで、周囲に迷惑を掛けて死んでいった殿下にムカッ腹が立った。
死で帳消し?そんなわけがない。
結局反省の一つもせず、謝罪もなく。
自分が死んだことも知らないで、苦しむことなくこの世を去るって、ある意味甘い処断と言えたんじゃないか?
俺は自分で思っていた以上に鬱屈が溜まっていたらしい。
王家はかなり厳しい批判を受けたそうだ。
そのため国王陛下は、フレデリク殿下の愚行を止められなかった責任を負い、あと数年で退位されることを表明された。
そして次期国王―――女王として、アルマディア嬢が王太子として立つことが決まった。




