12 魔女と呪い
すみません!予約投稿を忘れてました(´;ω;`)
黒のローブドレスを身に纏った女性は、一見ごく普通の令嬢のように見える。
だが彼女は魔女だ。
王位継承権を返上せず、二人の愛を証明するために、魔女に呪いを掛けてもらえばいいと言ったリリエラ嬢の発言が採用されてしまった。
さすがに俺は止めたのだが進言は無視され、殿下は魔女を王宮へと呼びつけたのだった。
…………いや、アルマディア嬢を犯人に仕立て上げるとか言ってたが、殿下の名前で私室まで通しておいて、それが通用すると思っているのか?
あまりにも計画が杜撰過ぎる!
本当にこの人はダメなんだ。王の器とか以前の問題だ。
馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、ここまでだったとは…。
いや、あの断罪劇で痛感したはずなんだけどな。どんだけ底なしの馬鹿なんだ…。
「ふん、貴様が魔女か。もっとおどろおどろしい姿かと思っていたが案外普通なんだな。つまらん」
おい、今魔女を敵に回したぞ。
依頼をする立場にも関わらず、殿下の尊大な態度と言動は相変わらずだ。
魔女は蠱惑的に紅い口唇を笑みの形にしたが、眼は全然笑っていない。
「……お初にお目にかかります。魔女アーティカと申します」
魔女は完璧なカーテシーで挨拶をしてみせた。
はっきり言って、リリエラ嬢より余程優雅な所作だった。
「それで王太子殿下ともあろう方が、魔女にどんなご用件で?」
皮肉が滲んだ口調に、殿下は気づいてなさそうだ。
医師や薬師が毒にも精通しているように、魔女が呪術に通じていることは周知の事実。
魔女という存在自体は、別段忌避されるわけではない。
ただ一部の人間は差別的な見方をして毛嫌いする者もいたり、偏見を持ったりもしているようだ。
忌むべきは、邪法である呪いを望む側だろうに。
それを望む殿下は本当に何様なんだろうな。
呪いを受けるのが自分自身であろうと、依頼すること自体が違法だ。
王太子たる自分なら、許されるとでも思っているのか。思ってそうだな。
「決まってるだろう。私に真実の愛で解ける呪いをかけてもらう」
いや決まってないだろ。普通は自分に呪いをかけろとは言わない。
冷え冷えとした視線だった魔女も、これは予想外だったようで、目を丸くしている。
「言っておくが、苦痛が伴うようなものは却下だ。私に相応しく、王族の尊厳を傷つけないようなものにしろ」
それどんな呪いだよ。
相手を慮る呪いってあるのか?
魔女の口元が引きつってるが、気持ちは分かる。アホ王子で申し訳ない。
「ああそれと、もしお前のもとに、呪いを依頼した人間を探りに来た者がいたら、アルマディア・バルドゥールに頼まれたと証言するように」
「……承知しました」
従うのが当然と言った口調で、殿下は命じた。
魔女は表情を変えなかったが、それで今回の背景を多少理解したんじゃないだろうか。
「ねえ、それでどんな呪いにするの?」
リリエラ嬢は、まるでレストランでメニューを選ぶような気軽さだ。
ある意味、この能天気さが羨ましい。
呪いがどんなものであれ、そしてそれが解けても解けなくても騒動になることは明白だ。
陛下からの叱責を思うと胃が痛い。
だが、ここで邪魔をしたって、こいつらは別の騒動を巻き起こすんだろう。
知らぬところで事を起こされるより、目の届くところでやられた方がまだマシだ。
「………定番な呪いですと、姿が変わるものなどがございますわ」
「姿変えか。昔読んだ絵本にもあったな。って、まさか私を蛙にするつもりじゃないだろうな!?」
「リリエラも、いくらリックでも蛙にキスするのは嫌よ」
「私だって嫌だ。醜い姿なんてごめんだぞ」
「………………」
注文が多いな!
魔女の表情はほぼ無表情に近いが、内心ではこいつらめんどくさいなと思っていそうだ。
魔女は小さくため息をつくと「では眠りの呪いは如何でしょう。真実愛する者の口づけで解けますわ」と提案した。
「眠りについた王子様、素敵だわ!いいんじゃない?リック」
素敵か?それ。
「そうだな。おかしな姿や症状にされるよりマシだな。それに目覚めた時に、リリエラの顔を一番に見られるのも良い」
「きゃあっリックったら」
殿下が愛しげにリリエラ嬢の頬を撫でると、リリエラ嬢は嬉しそうに殿下に抱きついた。
「……リア充爆発しろ……」
それを見て魔女が半眼でぼそっと呟いていたが、良く聞こえなかった。
呪いを掛ける呪文だったのかもしれない。
そして首尾良く(?)呪いを掛けてもらった殿下は、自分の寝室で穏やかな寝息を立てている。
魔女には金貨と、幾ばくかの装飾品を報酬として用意してあった。
その中の一つは、亡くなった王妃殿下のブローチだったが、フレデリク殿下は気がついてなかったようだ。
たくさんある形見の品の一つとは言え、杜撰過ぎる。
それに夜会などで殿下が何度か身に着けたピアスやタイブローチなどもあったが、見るからに一級品だ。
台座から外した宝石ならともかく、装飾品のままでは足が付きやすい。
宝飾店に確認すれば、すぐに王太子に売った品だと知れるだろうに。
そんなこともわからないんだろうな。
俺にとってはある意味好都合なので、わざわざ指摘しなかった。
ここに呼びつけたことで、アルマディア嬢が疑われることはなさそうだが、殿下が自分の名前を勝手に使われたと言う可能性もある。
殿下自らの企てだという物証は用意しておくべきだ。
すぐに捜査の手が伸びるだろう。
魔女もそれはわかっているはずだ。
王太子が呪いを掛けられて、その犯人が探されないはずがない。
魔女は報酬の中身を確認し、装飾品を見て、その後俺を意味深に一瞥した。
「まあこんなに。ありがとうございます」
にっこりと綺麗に口角を上げて、魔女は俺にお礼を述べた。
ある意味、殿下が魔女の機嫌を損ねてくれて良かったのかもしれない。
魔女が殿下の味方をすることはない。
呪いを行った実行犯として極刑を免れるためにも、事実を証言するしか魔女が生き延びる手段はないだろう。
殿下本人の依頼と証明できれば、重刑を課せられることはないはずだ。
まあ、なんらかのペナルティを負うことは免れないだろうけど。
それは俺も一緒だ。
覚悟の上だが、陛下への報告を思うと気が重い。胃が痛い。
リリエラ嬢は「さあ、早く陛下を呼んできてよ」と至極楽しそうに急かしてきた。
きっと奇跡を起こした令嬢として、陛下に感謝を告げられると信じて疑わないんだろう。
…………はぁ。本当に馬鹿ばっかりだ。
「………今報告しても、殿下が昼寝をしているだけにしか見えないだろう。異常事態だと周りが認識しなければ意味はないのでは?」
「あ、そっかあ!じゃあ二日目の朝ならいいかな?」
「…………そうだな」
あっけらかんとした様子から、リリエラ嬢に不安は一切見られなかった。
本人が了承済みとは言え、恋人が目の前で呪いに掛けられて、万が一解呪に失敗したらとは考えないんだろうか。
いや、そもそも愛する人間に呪いを受けさせる提案をすること自体どうなんだって話なんだが。
殿下もそうだが、常識の通用しない思考回路の持ち主との会話は疲れるな…。
リリエラ嬢は王宮に泊まる気満々だったようだが、部屋を用意してやる義理はない。
殿下の目がないのなら、これ相手に丁寧に接する理由もない俺は、図太さに呆れながらリリエラ嬢を王宮から追い出してやった。
報酬にフレデリク(+王妃の遺品)の装飾品があったのは、フレデリクが謹慎中のため、お金があまり用意できなかったせいです。
そしてフィリップにも、嘘の使い道をでっち上げてまで用意してやる気がありませんでした。
むしろ、金を用意出来ないことを理由に、魔女への依頼を防げないかとフィリップは思ってましたが、「金がないなら、この辺の品でも渡せばいいだろう」と適当に指示した王太子様。




