第1章第5話
次の日の朝。
文弥が家を出ると、玄関の門の前で紬が立っていた。
「お、おはよう。久しぶりに一緒に学校行こうと思って。いいかな?」
紬は不安そうな顔をして、文弥の顔を覗き込む。
「もちろん。当たり前じゃないか」
文弥は優しい微笑みを浮かべると、紬の頭を軽く撫でた。
紬が浮気をする前は、いつも一緒に登下校をしていたのだ。
しかし浮気をして以来、彼女は引け目からか遠慮を見せるようになっていた。
辻褄の合わない引け目だな、と文弥は思う。
当の本人は、そんなこと少しも気にしてないというのに。
初夏のやわらかな光を浴びながら、二人で駅へと歩きつつ会話を弾ませる。
「あ、この前の寝取られ動画なんだけど、紬は頑張ってたね。嬉しかったよ」
「本当!? 私、本当は凄い嫌だったんだけど、文弥くんのことを思いながら頑張ったんだよ」
紬はパッと表情を明るくし、ホッとした安堵の笑みを浮かべた。
「うん、でも、次は少し手加減をしてくれると助かるな。一馬くんが耐えられないみたいだから」
「え? 手加減……?」
「うん、そうだなぁ、次はあまり責めすぎないように頼むよ」
「え? よくわからないけど……うん、やってみるね。ふふ」
謎の声(朝からする会話なの、それ!? お天道様に土下座して!)
◇◇◇◇◇◇◇◇
その日の昼休み。
いつもの人影のない中庭のベンチで、文弥に一馬と紬に加え、今日は初音も一緒に昼食を取っていた。
事前に文弥たちの関係性を聞いていた初音は、終始不機嫌そうだ。
「えっと、浅井さんとは初めましてだっけ?」
一馬は初音に半信半疑で尋ねた。
「初めまして……浅井初音です」
初音は一馬をクズを見るような目で睨むと、まるで感情のこもってない声で挨拶を交わした。
初音は文弥たちとは違うクラスなので、一馬とは直接話したことはないが、彼の人の彼女を寝取るという数々の悪評は、初音の耳にも届いていたのだ。
「瀬名一馬だ……よろしくな」
「初音。そんなクズをみるような目で一馬くんのこと見るのはやめてよ。確かに一馬くんはクズだよ。でも、クズなりにゾウリムシほどの良いところもあるんだよ」
屈託のない笑顔を見せながら初音を正す文弥。
「浅井の目より、お前の言葉の方が全然傷つくんだが……」
文弥を見ながら、一馬は顔を引きつらせている。
「文弥くんの敵は私の敵でもあるので」
初音はキッと一馬を睨みつけるが、小柄で中学生にも見える童顔なのでいかんせん迫力は皆無だ。
「初音。一馬くんは敵ではないよ。一馬くんは寝取られ友達だよ」
初音は『は? 寝取られ友達って何?』と思ったが、満面の笑みを浮かべている文弥を見ると気が引けて言えなかった。
謎の声(ホントなにそれ? 流行りの新語?)
「紬はこんな関係でいいと思ってるの?」
初音は矛先を紬に変えた。
「わ、私は……文弥くんが望むことだから」
紬は弁当を食べていた箸を休めると、下を向いた。
「私は好きでもない人とそういう関係になるのは良くないと思うよ」
初音がど正論を三人にぶつけてきた。
「……俺ももうやめた方がいいと思う」
一馬はつい本音が出てしまった。
「何を言ってるんだ! 一馬くん! 君はいつからそんな真っ当な男になったんだ! 見損なったよ!」
理不尽にキレる文弥。
「いや、まともなこと言ったのに怒られるって?」
「……わ、私も本当はもうやめたい」
紬も本音を漏らしてしまった。
しかし、これが文弥の歪んだ狂喜を呼び覚ましてしまった。
「……二人は本気で言ってるのかい?」
文弥の目に、完全に狂喜の光が宿った。
「ま、待て、今のは無しだ。やめたいなんて思ってない」
文弥の異変に気づき、動揺する一馬。
「わ、私もこれからもやるから」
同じく右往左往する紬。
「二人とも本当はやめたいんでしょ?」
空気を読まず、二人を諭す初音。
「初音! 君は僕の味方と言ったよね!?」
文弥は鼻が付くくらい初音に顔を近づけると、この世のものとは思えない狂った瞳で、初音に詰め寄っていく。
「う、うん、そうだよ」
「なら、黙って見守っていてほしい! 寝取られは僕の全てなんだ!」
「……わ、わかったわ。もう、何も言わないから。離れてくれる? ちょっと恥ずかしいから」
初音は顔を真っ赤にして、文弥から目を逸らした。
初音の言葉に納得した文弥は彼女から離れると、ベンチに腰かけ昼食を再開した。
こうして、静かな昼休みは過ぎていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
その日の放課後。
図書室での勉強を終えた文弥は、今日も正門で待っていた紬と一緒に帰路へとついた。
紬を家に送り届けると、彼女に『少し寄っていかない?』と言われ、文弥はお邪魔することにした。
紬の両親は今日仕事で帰りが遅く、家には誰もいなかった。
文弥は二階の紬の部屋へと促された。
文弥が紬の部屋に入るのは、中学生の頃に一緒に受験勉強をした時以来だった。
紬は部屋に入るなり、文弥の首に手を回して抱きついた。
「何か久しぶりだね。紬の部屋に来るの」
「あまり代わり映えしないでしょ。ふふ」
「あ、あのベッドの上に置いてあるミッ◯ィーのぬいぐるみは僕が誕生日にプレゼントしたやつだね」
「うん、十四歳の誕生日に貰ったプレゼントだよ」
「大事にしてくれて嬉しいよ」
こうしていると普通の高校生カップルに見えるが、二人はもう後戻りのできない関係へと歩み始めていた。
「ねえ、文弥くん……?」
「何だい?」
「キスしてもいい?」
「いちいち僕の同意を得なくても、紬がしたかったらしていいよ。はは」
紬は文弥の首に回した手をぎゅっと力を込め引き寄せると、彼の唇に自分の唇を重ねた。
紬は文弥の口の中に自分の舌を滑り込ませた。
文弥もそれに応えるように、紬を優しく抱きしめた。
制服の上からでも、紬の身体が火照っているのがはっきりと伝わってくる。
二人は息を分け合うように、お互いの舌を絡め合った。
熱い口づけを終えると、紬は躊躇うとことなく制服と下着を脱ぎ捨て、何も身にまとわない姿になった。
文弥も制服を脱ぎ捨て、生まれたままの姿で紬に向き合った。
「文弥くん。胸、触って……」
紬は文弥の手を取ると、自分の控えめな胸に押し当てた。
紬はここ最近の一馬との全く満たされない性行為に、我慢の限界を迎えていたのだ。
それを察した文弥は、紬の胸を優しく愛撫し始める。
柔らかく揉みほぐすと、小さく尖った突起に舌を這わせる。
「……ん……あ……んん……っ」
紬は顔を真っ赤に染め、荒い吐息を漏らした。
文弥はそのまま紬の耳に、優しく息を吹きかける。
そして、丁寧に舌を滑らせる。
一馬と違い、紬の身体を知り尽くしている文弥の愛撫は紬の脳を快感で焼き尽くしていく。
文弥の指と舌で紬の秘部を愛撫されると、彼女は我慢できず絶頂に達した。
「……んん……うっ……はあはあ……っ」
紬は頬を紅潮させて、快楽に溺れた笑みを浮かべている。
一心不乱に文弥を受け入れた紬に対して、彼の目は紬ではなくどこか遠くを見ているようだった。
事実、文弥の股間はピクリとも反応してなく、通常時のままだ。
紬への愛撫も文弥からしたら、最早ただの作業でしかなかった。
しかし、文弥の愛撫はまだ終わらなかった。
休むこともなく、何度も何度も紬を至福の境地へと誘った。
ぐったりとした紬はベッドに横たわり、悦楽に浸っている。
「文弥くん……私……嬉しい……こんなに文弥くんが愛してくれて……」
紬は勘違いをしていた。
文弥は紬のことをもう愛してなどいない。
これからも自分のために頑張るように、ご褒美をあげただけにすぎない。
現に文弥の股間は膨張する気配すらなく、事を終えた。
「シーツを取っ替えた方がいいよ」
文弥は汗でびっしょり濡れている紬の髪の毛を優しく撫でた。
「いっぱい濡らしちゃったね。ちょっと恥ずかしいな。えへ」
「紬が気持ち良かったなら、僕はそれで満足だよ」
「……うん、ありがとう」
「紬。これからも僕のために頑張ってくれるよね?」
「うん、私、文弥くんのために頑張るから」
紬はとても幸せそうに微笑んでいた。
その彼女を愛のない目で、まるで玩具を見るように微笑む文弥。
二人の歪んだ関係はまだ始まったばかりだ。
最後に軽く口づけを交わすと、文弥は部屋を出ていった。
謎の声(何かサイコホラーみたいになってきてない?)
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