第1章第4話
次の日の夜。
シャワーを浴びてすっきりした文弥は、ベッドへとゆっくり腰を落とした。
すると、ベッドの上に置いてあるスマホがけたたましく震え出した。
文弥はスマホを手に取り、画面を確認すると満面の笑みを浮かべた。
新作寝取られ動画が届いたのだ。
文弥は早速動画を再生させると、食い入るように画面を見つめる。
画面の中では、初っ端から責めに転ずる紬の姿が映し出されていた。
それを見た文弥は、自分の寝取られ愛を紬が理解してくれたのだと感動で目頭を熱くした。
「……ありがとう。紬。うう」
謎の声(……感動してるところ悪いんだけど、それは違うと思うよ。それに寝取られ愛って本当に何なの?)
しかし、次の瞬間、驚愕の光景が文弥の目に飛び込んできた。
紬の責めに一馬が耐えられず、数十秒で果ててしまったのだ。
気にせず紬はどんどん責めていくが、一馬は耐えられずすぐに撃沈する。
そんなことを繰り返し、結局は本番に入る前に一馬の機能が完全に停止してしまった。
「何だこれは? 何を見せられてるんだ僕は……なぜ一馬くんのイキ顔だけ見せられなきゃいけないんだ……もはや寝取られてもいないじゃないか……」
文弥はガックリと肩を落とし、心底落胆した。
「やっぱりあの二人だけではダメなのかもしれない。あ、そうだ。僕が脚本書いて、カメラを回せばいいじゃないか? 僕好みの寝取られ動画を撮影すればいいんだ」
しかし、その後、文弥は風呂上がりのガリガリ君を食べながら『それはやっぱり違うじゃないか』と気づいてやめることにした。
(そうなると趣旨がまるっきり変わっちゃってるからね。賢明な判断だと思うよ)
◇◇◇◇◇◇◇◇
次の日の昼休み。
文弥と一馬と紬の三人は、中庭の人気のない片隅のベンチに腰かけ昼食を取っていた。
「なあ、それって手作りなのか?」
一馬がパンを頬張りながら、文弥の弁当を覗き込んでいる。
「そうだよ。筋肉には高タンパク質と低脂肪の食べ物が大事だからね。ちゃんと計算して作ってあるんだ」
「へー、何かすげぇな」
「食べるかい? 鶏のむね肉の塩コショウ焼き」
文弥は一馬の目の前に、弁当箱をそっと差し出した。
「いいのか? 何これ旨いな!」
一馬は串を持って、一口サイズの鶏のむね肉を自分の口に運んだ。
「美味しく食べられるように工夫をしているからね。はは」
「文弥くんは中学生の頃から料理の勉強してるからね。ふふ」
紬は母親に作ってもらった弁当を食べながら、笑みを浮かべている。
「それよりも、これからの寝取られ動画のことで話があるんだけど」
文弥は食べていた箸を止め、深刻な表情で話し出した。
「爽やかな青空の下で、飯食いながら話すことか?」
一馬はパンを噛りながら怪訝な顔をしている。
「……私も今はそういう話はしたくないな」
紬は食べていた箸を弁当箱の上に置くと、悲しそうに俯いた。
「僕には大事なことだから頼むよ!」
「し、仕方ないな。どんな話だ?」
一馬はやむを得ずといった様子で、話を聞くことにした。
「寝取られパートナーを、一回チェンジしてみようかと思うんだ」
「「はっ?」」
一馬と紬の声が、仲良く重なった。
「少し新鮮味があるといいかなと思って、僕は男友達が全くいないからパートナーは探せないけど、一馬くんは交遊関係が広いよね? いい人いないかな?」
「まあ、女なら誰でも抱くって知り合いはいっぱいいるけど」
「さすが一馬くん! やっぱりクズはクズを呼ぶんだね!」
文弥は爛々と目を輝かせる。
「褒めるのか貶すのかどっちかにしろ!」
「あの、私、その人たちの誰かとしなきゃいけないの?」
紬は恐る恐る聞いてくる。
「ああ、これも立派な女優になるための一歩だよ。紬」
文弥は爽やかな笑顔を浮かべて、紬の頭を優しく撫でた。
「私、女優を目指してないんだけど……」
紬はずっと困惑していた。
そんなこんなでとりあえず、一馬がパートナーを紹介するという方向で話合いは終了した。
謎の声(いったい何の話し合いをしてるの……この子たち……)
その日の夜に、一馬から文弥に電話が来た。
『えっ? どういうこと?』
『何か知り合いの友達にお前と同じ中学の知り合いがいてさ、槙原の彼氏はヤベーやつだから関わらない方がいいって言われたみたいで断られたんだ』
『何でそんなデマが……』
『……他の知り合いにも話が回ったみたいで、だから今回は無理だわ』
『何かの嫌がらせかな?』
一馬は『デマでも嫌がらせでもなく、事実だろ! 俺も知ってたら絶対に手を出さなかったわ!』と思ったが口が裂けても言えなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
次の日の放課後。
文弥は最早ルーティンである図書室で勉強をしていると、またもや初音が現れた。
初音はいつもと違い、少し緊張した面持ちでそわそわしていた。
「文弥くん。ちょっといいかな?」
「うん、いいよ」
文弥は優しい微笑み浮かべて、初音と廊下へと出た。
「そ、その後、紬とはどう?」
「うーん、いまいちかな?」
「いまいちなの?」
「うん、何か寝取られ動画の質がどんどん劣化していってるんだよね。本当に参っちゃうよ。はは」
言動とは裏腹に、爽やかな笑顔を浮かべる文弥。
「……そ、そうなんだ……あの、今度の土曜日は暇かな?」
「土曜日? 特に予定はないけど」
「と、友達から映画のチケットもらったの、二人で行かない?」
初音は肩まで伸びた髪の毛をいじりながら、頬を赤く染めていた。
「二人で映画か……あれ? それってデート?」
「……うん、嫌かな?」
「全然嫌じゃないんだけど、僕は紬という彼女がいるし、他の女の子とデートなんて浮気になっちゃうから無理だよ」
「えっ?」
『その彼女を他の男子に寝取らせてるのに? デートはだめなの? 何で?』初音の思考は文弥の考えには全く追い付かなかった。
「浮気は人として絶対にダメだからね」
文弥は腕を組んで、『うん、うん』と自分を諌めるように頷いている。
「はっ?」
文弥の言ってることが、初音は益々理解できなかった。
「悪いけど映画は他の人と行ってくれるかな。あ、二人きりじゃなかったら大丈夫だけど」
『それじゃ意味ないでしょ』と言いそうになったが、初音はぐっと堪えた。
「……そ、そっかぁ。わかった。ごめんね」
「気にしないで、何か僕もごめんね。じゃあ、僕は勉強があるから」
「う、うん、頑張ってね」
図書室へと戻る文弥の後ろ姿を見つめながら、『私が絶対に文弥くんを正常な道に導く』と心に誓う初音だった。
(唯一まともな登場人物だから頑張って……)
◇◇◇◇◇◇◇◇
紬は用があったらしく、文弥は一人で駅へと向かった、その途中の駅前で偶然一馬と出会った。
『腹減ったから何か食べ行くところだったんだ。奢るから一緒に行かないか』と一馬に言われ文弥は一緒に付いて行くことにした。
母子家庭の文弥は、夜は一人で食べることが多かったので、晩御飯に誘われたのがとても嬉しかった。
一馬に連れていかれたのは、高級焼肉店だった。
「凄いね! 僕、こんな高そうなお店入ったの初めてだよ」
「俺の行き付けの店なんだ。まあ、奢りだから遠慮しないで食ってくれ」
「さすが、何の苦労も知らないで育ったボンボンはいいお店を知ってるんだね。はは」
文弥は悪気もなく、無邪気な笑みを浮かべている。
「お前……爽やかな可愛い笑顔で言えば何でも許されると思うなよ……」
店員「ご注文はお決まりでしょうか?」
「えーと、ヒレ肉を五百グラムでお願いします」
店員「かしこまりました」
「……遠慮という言葉を知っているか?」
注文を終えると、少しして高級な肉が運ばれてきた。
「わあ、僕、シャトーブリアンとか初めて食べるよ。美味しそうだね」
「……良かったな」
「美味しい! 一馬くんも食べなよ!」
文弥はとても美味しそうに、肉を貪る。
「……お、おう」
「そういえば一馬くんは、最近は紬以外の寝取りはしてないの?」
「ああ、もう、人の彼女を寝取るのはやめようと思ってな……」
「ええー、いったいどうしたの? 麦わら帽子を被って、クズ王に俺はなるって言ってたじゃないか!」
「言ってねえし! 海賊王みたいな言い方はやめろ!」
「クズの一馬くんがそんな考えになるなんて、何かあったの? 何が原因なの?」
一馬は『お前が原因だよ!』と言いたかったが、ぐっと言葉を飲み込んだ。
「どうしたの? 難しい顔して? 悩みがあるなら相談に乗るよ? 僕と一馬くんの仲だし」
「はっ、どんな仲だよ?」
「同じ女の子を抱いた仲じゃないか。はは」
「生々しい言い方はやめろ!!」
その後、楽しい? 食事会は二時間続き、二人は帰路に着いた。
文弥は男友達と食事するのは、生まれて初めての経験だったのでとても嬉しかった。
謎の声(友達なのか……?)
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