第1章第3話
次の日の放課後。
文弥が図書室で勉強をしていると、再び初音がやって来た。
「文弥くん。ちょっといいかな?」
「うん、いいよ」
文弥は初音にいつもの優しい笑顔を向けると、机の上を整理して席を立ち上がり、初音と二人で廊下へと向かった。
人気のない静寂に包まれた廊下で、二人は話を始めた。
「昨日、紬と二人で歩いてるのをたまたま見かけたんだけど、やっぱりまだ付き合ってるんだね」
「うん、別れるつもりはないからね」
笑みを浮かべながら、当然のことのように文弥は答えた。
「紬は瀬名くんとの関係は……その……そういうのは終わったの?」
初音は怪訝そうに、少し険しい顔で尋ねる。
「ううん、あれからまた一馬くんに紬を寝取ってもらったよ」
文弥はまたもや、当然とばかりに平然と答える。
「な、何で紬はそんなことできるの? 文弥くんがいるのに」
初音は頬を膨らませ少しむっとするが、文弥は満面の笑みを浮かべる。
「あ、勘違いしないで、僕が紬と一馬くんに頼んだんだよ」
「え? 文弥くんが何で? 紬のこと好きなんでしょ? 他の人とそういうことしていいの?」
初音は文弥の信じられない言葉に動揺を隠せない。
謎の声(私もびっくりだよ)
「初音だから正直言うけど、本当はもう紬のことは何とも思ってないんだ。紬が違う男に抱かれているのを見て紬への愛情はすっかり消えてしまったよ」
文弥は穏やかな表情で、淡々と答える。
「え? なら、何で別れないの?」
さらに困惑する初音。
「別れたら寝取られじゃなくなっちゃうじゃないか。寝取られじゃないと僕には意味がないんだよ。ふふ」
文弥は恍惚とした笑みを浮かべて、少し興奮した様子で初音を見つめた。
『別れた方がいいよ』と初音は心底思ったが、親友であり、中学時代から密かに恋心を抱いている文弥を前にすると口に出せなかった。
「そ、そうなんだ……わかった……私、いつでも相談に乗るからいつでも言ってね。私はずっと文弥くんの味方だから」
初音はこの時に、自分がいつか文弥を正常に戻すんだと心に誓った。
「うん、ありがとう」
文弥は何の混じり気のない、ただただ無垢な笑みを浮かべている。
初音は後ろ髪を引かれるように、その場を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
文弥が図書室で勉強をしている頃、一馬と紬は一馬のマンションに居た。
一馬はベッドの上に腰かけ、必死に文弥から手渡された紬攻略本を読んでいた。
「……瀬名くん? さっきから何読んでるの?」
「……企業秘密だ」
「……そう」
「は、始めるぞ」
「何か物凄く緊張してない?」
「き、気のせいだ」
一馬は見えない文弥のプレッシャーで、明らかにテンパっていた。
「なら……いいんだけど」
「い、いくぞ」
一馬は意を決して、紬の小さな膨らみから責めた。
「痛っ! そんな強く胸を揉んだら痛いよ!」
「わ、悪かった……ごめん」
一馬は気を取り直して、紬の耳を責める。
「そんな風に耳を舐めるのやめて! 気持ち悪い!」
「……ご、ごめんなさい」
謎の声(初めてなの?)
それからも空回りしてしまい、一馬は結局紬を満足させることはできなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
風呂上がり、文弥はふと机の上にある写真立てに目をやった。
紬と遊園地に行った時に撮った、幸せそうな笑顔でのツーショット写真。
こんな時代もあったなと、写真を見てしみじみ思う文弥。
(いや、寝取られてからまだ五日だけどね……)
文弥が懐かしんでいると、スマホのバイブ音が部屋に鳴り響いた。
『やっときたか』と文弥は胸を躍らせた。
スマホを手に取り、画面をタップすると新作の寝取られ動画が添付されていた。
文弥は鼻歌交じりに動画を見て、一馬と紬の性行為を堪能するが──紬は痛がってるだけで、とても気持ち良さそうには見えない。
一馬は緊張からか、文弥が渡した紬攻略マニュアルの一ページ目すらまともに実践できてなかった。
そして、またしてもすぐ終わった。
「何これ? 紬攻略マニュアルを渡したよね? 逆にクオリティが下がってるじゃないか!! こんな作品じゃダメだ!!」
謎の声(作品って言っちゃってるよ)
すかさず文弥は一馬に電話をかけた。
『……も、もしもし』
『一馬くんこれはどういうことなんだ!』
『な、なんだよ。ちゃんと動画を撮って送っただろう』
『前回の作品より酷くなってるじゃないか!』
(また作品て言っちゃってるよ。この人)
『……前回より撮影時間が長くなってるはずだけど』
『長くなったって、二分から三分になった程度じゃないか! 君はカップラーメンかい!』
『つ、次は頑張るから、もう一度チャンスをくれ』
『君は今までたくさんの女子を寝取ってきたんだよね?』
『……まあ、二十人以上は寝取ったけど』
『他の女子たちにもこんなプレイをしてきたのかい?』
『……まあ、そうだけど』
『女子たちによく文句言われなかったね』
『……槙原以外はみんなそういう経験がなかったんだよ』
『え? 紬以外の女子はみんな未経験だったの? 二十人もいて全員未経験なんて、君はいったいどんな層を狙ってたんだい』
『そ、そうだよ。未経験の女を寝取るのが俺のやり方だったんだ。お前らも真面目で大人しそうだからまだやってねぇと思ったんだ』
文弥はスマホを握りながら、一人頭を抱えていた。
『とにかく紬攻略マニュアルをしっかり読んでよ。次はしっかり頼むよ』
『……おう』
文弥は電話を切ると、再び寝取られ動画観賞を始めた。
その時、一馬も酷いけど紬もなかなかだということに文弥は気づいた。
紬は文弥と性行為する時は受け身ばかりではなく、しっかりと責めていた。
しかし、一馬と性行為をする時はベッドに仰向けに横たわっているだけで、全く動きもしない。
「女優の方もこれではダメだな……」
股間を大きく膨張させながら、文弥は悩んでいた。
謎の声(もう、女優って言っちゃったよ……この人……)
◇◇◇◇◇◇◇◇
次の日の午後。
紬が文弥の部屋へと遊びに来た。
文弥は看護師の母親と二人で、古いアパートで暮らしていた。
母親の仕事が忙しく、子供の頃から一人でいることが多かった。
紬は久しぶりに文弥の部屋へと遊びに来たのが嬉しくて、いつもよりテンションが高くなっていた。
ベッドへと腰かけた文弥の隣に、紬は腰を落とした。
いつもはロングストレートの黒髪も、この日はふんわりとウェーブがかかっていた。
服装もショート丈の黒いTシャツとデニムのショートパンツ。
普段はほとんど着ない、露出の多い気合いを入れた服装をしていた。
「今日は随分涼しそうな格好しているね」
文弥は普段は見たこともない紬の姿に、少し驚いていた。
「似合わないかな?」
紬は不安そうな表情をして、文弥をじっと見つめている。
「そんなことはないよ。凄く似合っているよ」
「……嬉しい」
文弥の言葉に、紬は頬をほんのり赤く染めていた。
「何か飲み物持ってくるね」
文弥が立ち上がろうとしたその時──紬がそれを防ぐように彼に抱きついた。
「……いらない。ねえ、エッチしよ」
紬は文弥の唇にそっと自分の唇を落とす。
そして、紬は文弥の口に舌を滑り込ませていく。
文弥は抵抗することもなく、紬を受け入れている。
数分間、舌絡み合わせた二人はそっと見つめ合うと、紬がTシャツを脱ごうとした瞬間──すぐさま文弥が紬の腕を掴んだ。
「何してるんだい?」
「え? 何って服を脱ごうとしただけだよ」
「この前言っただろう。もう、君では僕は興奮しないって」
「そんなのやってみないとわからないでしょ……」
「僕は誰かに抱かれている君じゃないと興奮しないんだよ。今の君の裸を見ても僕の股間は膨張しないよ」
「そ、そんなことないわ!」
紬は服を全部脱いで、文弥に襲いかかり彼の股間をまさぐる。
しかし、紬が手や口で一生懸命に奉仕しても文弥の股間はピクリとも何の反応もしなかった。
「もう、気が済んだでしょ。紬。服を着なよ」
「…………」
紬は何の反応も起こさない、文弥の股間にショックを受けていた。
「紬。大事な話があるんだ」
「わ、私は別れないわよ!」
別れ話をされると思った紬は、涙を流しながら文弥に抱きついた。
「違うよ。一馬くんとの性行為のことだよ」
「あんな人の話なんかしたくない!」
「ちゃんと聞いて。紬。一馬くんとの性行為の時には何で受け身ばかりなんだい? さっき僕にしたみたいに紬にも責めてほしいんだ」
「文弥くん以外のモノを触るなんて、気持ち悪いから嫌なの」
「紬。僕のこと愛しているかい?」
「うん、愛している」
「なら、僕のために紬には頑張ってほしい」
「……で、でも」
文弥は紬の唇にそっと自分の唇を重ねると、優しい目で彼女を見つめた
「僕のためならできるよね。紬」
「……うん、わかった。私、頑張ってみる」
文弥は紬を優しく包み込むように抱きしめた。
謎の声(悪徳ホストの手口?)
呼んでくださりありがとうございました




