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彼女を寝取ったチャラ男と、反省して泣きつく彼女。だが一番おかしいのは新世界に目覚めた僕だった  作者: 燕


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第2章第49話

放課後。


美月が学校から自宅のマンションへ帰ると、珍しく琉衣が帰っておりソファに腰を下ろしていた。


彼は美月に気づくと、冷たい笑みを浮かべて微笑んだ。


「おかえり、美月。待ってたんだよ」


琉衣はソファから立ち上がると、美月に歩み寄ってきた。


「兄さん……部活はどうしたんですか?」


琉衣の偽りの微笑みに、美月は本能的な恐怖を覚えて一歩後退する。


「今日は休んだんだ。美月に用があってね」


「え? 何かご用でしたか?」


「うん、紬ちゃんと……えっとあのメガネの子は初音ちゃんだっけ? 今から家に来るように言ってくれないか?」


「な、何のためにですか?」


「久しぶりに紬ちゃんを抱きたくなったんだ。ついでに初音ちゃんも味見しとこうと思ってさ」


琉衣は狂ったような瞳で、凍てつくような冷笑を浮かべている。


「そんな……! 正気ですか!? そんなことは絶対に出来ません」


美月は首を横に振り、激しく拒絶の意思を示す。


「そんなこと言わないで頼むよ……美月が言えばあの二人は喜んで来てくれるだろ」


「む、無理です! それに初音さんには彼氏がいるんですよ!」


「彼氏? そんなの関係ないよ。僕が抱きたいと思ったら、ただそうするだけだ」


彼氏の存在なんて何の意味も持たないと言いたげに、琉衣は平然と言ってのける。


「わ、私は……そんなこと、絶対に協力は出来ません!」


恐怖に足を震わせながらも、美月は勇気を振り絞って、必死に反抗した。


「ふーん、逆らうんだ」


何の躊躇もなく、琉衣は美月のお腹に拳を思い切り打ち込んだ。


「ひゃっ……!?」


容赦のない衝撃に息が詰まる。


美月はその場で崩れ落ち、お腹を押さえながら、昼間に食べたものを激しく床にぶちまけた。


苦しむ彼女へ追い討ちをかけるように、琉衣は容赦なくその腹部へと蹴りを叩き込む。


「頼むよ。美月」


「……嫌です……ぐわっ……っ」


狂気と歓喜に満ちた顔で、琉衣は何の躊躇いもなく美月の顔面を蹴り飛ばした。


ぐらりと視界が揺らぎ、耐え難い激痛とともに、意識が暗闇に引きずり込まれている。


◇◇◇◇◇◇◇◇


一方その頃紬は、もはや毎日のルーティンと化した文弥と初音による過保護な送り迎えを経て、我が家へと帰り着いていた。


自室で制服から部屋着に着替え、ようやく一息ついたその時、彼女のスマホが激しく震えだした。


慌てて画面を確認すると、それは美月からのメッセージ。


『助けてください。怪我をしてしまって』という一言と共に、一枚の写真が添付されていた。


そこには──顔を赤く腫らしている、美月の姿が映し出されていた。


心臓が跳ね上がる。


紬はすぐさま美月に電話をする。


しかし、無機質な呼び出し音が鳴り響くだけで、彼女は一向に出る気配がない。


焦りが募る次の瞬間、再びスマホが震えだした。


画面に表示されたのは、初音の名前。


紬は弾かれるように画面をタップし、通話に出た。


初音の口から告げられたのは、彼女の元にも美月のメッセージと写真が届いたという事実だった。


「すぐに行く!」


紬は初音と駅で落ち合う約束を取り付けると、家を飛び出し、全力で駅へと向かう。


駅へ着いて初音と合流すると、文弥にメッセージを送った。


◇◇◇◇◇◇◇◇


紬に案内されるまま、初音は目的のマンションに到着した。


紬は迷いのない慣れた手つきでインターホンを鳴らす。


解放されたオートロックのドアをくぐり、滑り込むようにエレベーターに飛び込んだ。


すぐさま紬が目的の階のボタンを押し込む。


二十一階に到着した瞬間、初音はエレベーターを飛び出し、先行する紬の背中を追いかけた。


やがて、紬がある部屋の前でピタリと足を止めた。


「……ここが美月ちゃんの家なんだけど」


「……何でドアが開いてるんだろう?」


まるで、入ってくださいとでも言いたげに、玄関のドアはドアストッパーに止められ開いていた。


ゴクリと息を呑み、初音は紬と顔を見合わせる。


忍び込むように、慎重に足を踏み入れた。


薄暗い廊下を駆け抜け、リビングに飛び込む。


視界が開けた瞬間、初音の心臓は跳ね上がった。


部屋の中央、冷たいフローリングの上で、顔を腫らした美月が倒れていた。


「大丈夫! 美月ちゃん!」


紬が心配そうな声を上げ、足早に美月の元へと向かった。


「美月ちゃん……っ! すぐに頬を冷やさないと!」


それを見て初音が後から続く。


二人が駆け寄ると、バタンと背後から玄関のドアの閉まる音が室内に響いた。


振り返ると、そこには不気味な笑みを浮かべた琉衣が立っていた。


退路を塞ぐように、ゆっくりと廊下から足を踏み入れてくる。


「二人ともいらっしゃい。ははっ」


初音はハッと息を呑み、とっさに紬と一緒に美月を背中に庇うように身構えた。


「……どうして? 初音さんと紬さんが?」


不安に胸を締め付けられそうな顔をしている美月を、初音は優しい微笑みを浮かべ見つめた。


「僕が招き入れたんだよ。美月のふりをしてね。」


琉衣は冷笑を浮かべながら、じりじりと歩み寄ってくる。


「あのメッセージはあなたが送ったの?」


紬が鋭い眼差しで琉衣を睨み付けている。


「ああ、紬ちゃん全然家に来てくれないからね」


「何でこんなことを?」


初音が怒りと困惑が混じった声で尋ねる。


「決まってるじゃないか。君たちと『楽しい』ことがしたくてさ」


股間を卑猥に膨張させながら、琉衣は狂った瞳で初音と紬を見つめてきた。


琉衣が紬の腕に手を伸ばした──その瞬間だった。


鮮やかな初音の回転胴回し蹴りが、彼の腹部に炸裂する。


「うぐっ」


まさかの強襲に、琉衣はその場に崩れ落ち悶絶する。


初音は幼い頃から、有段者の父親の道場で空手を叩き込まれていた。


普段は優しい性格のゆえに、他人に暴力を振るうなど絶対にできない少女だ。


しかし、怒った時の初音は一味違った。


「紬には指一本触れさせない……!」


すっと腰を落とした初音の構えは、実戦を重んじるフルコンタクト空手のそれだった。


立ち上がった琉衣が必死に襲いかかろうとするが、初音の鋭い正拳突きや下段回し蹴りがその動きを遮る。


完全に初音の有利──そう思われたが、いかんせん二人の間には圧倒的な体格差があった。


百五十センチほどの小柄な女の子である初音と、百八十センチを超える琉衣。


二人の間には、あまりにも分が悪いリーチと体力の差があった。


格闘技経験こそないものの、彼もバスケ部のエースだ。


狂気に呑まれた彼のスタミナは、まさに無尽蔵だった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


初音をマンションに送り届け、アパートへ帰った文弥は晩御飯の準備をしていた。


そんな時、スマホのバイブ音が鳴り響いた。


画面を確認すると、表示されていたのは紬からメッセージ。


「……アレからか」


一瞬無視しようかと思ったが、文弥は胸騒ぎを覚えてメッセージを開いた。


『美月ちゃんが危ないの! 今から初音と二人で美月ちゃんの家へ向かっているの! 文弥くんも来て! マンションの部屋は二十一階の2101室だから!』という文章だった。


その内容に息を呑み、文弥は慌ててアパートを飛び出した。


全速力で路上を走り出す。


しかし、肝心の美月のマンションがどこにあるのか、紬のメッセージには書いてなかった。


焦る頭をフル回転させ、文弥はあることを思い出した。


スマホを取り出し、初音の位置情報を確認する。


以前、初音の端末に設定したままだった位置情報アプリ──アンインストールし忘れていたそれが、画面上でひとつのピンを指し示していた。


ビンゴだ。


ピンの動きは、すでに一箇所で完全に停止している。


「ここが美月ちゃんのマンションか」


目的地を捉え、駅へ向かって再び全速力で走り出した、その時だった。


猛スピードで近づいてきた黒塗り外車が、文弥のすぐ横で激しくタイヤを滑らせて停車した。


ウィーンと重々しい音を立てて窓が開くと、後部座席から志歩が顔を出した。


「あれ? 文弥くん? 何しているの?」


「文弥? 何か急ぎの用事か?」


志歩の隣から一馬も顔を出した。


「志歩さん、一馬くん……頼む、協力してほしい」


文弥が息を切らせながら事情を軽く説明して飛び乗り、移動の車内でさらに詳細を伝えた。


黒塗りの外車は、美月のマンションへと向かって激しくタイヤを鳴らした。


◇◇◇◇◇◇◇◇


一方、マンションの室内では激しい死闘が続いていた。


琉衣の異常な打たれ強さに、初音の心には焦りが生じ始めていた。


初音の体力はすでに限界を迎えつつある。


対する琉衣は、まるで今始めたばかりであるかのように底知れない体力を漲らせていた。


狂気によって痛覚も麻痺しているようだ。


その光景を、紬と美月が悲痛な面持ちで見つめる。


だが、好機は一瞬だった。


拳を振り下ろそうとした琉衣の無防備な腹部へ、初音の渾身の正拳突きがカウンターで突き刺さる。


メキッ、と拳から伝わる肋骨が砕ける感触。


これなら立てないはずだと、初音は安堵の息を漏らした。


しかし、琉衣は狂った瞳で立ち上がってきた。


「いてぇな……もう、こうなったら遊びは終わりだ」


琉衣がポケットから取り出したのはバタフライナイフだった。


慣れた手付きでカシャカシャと不気味な金属音を響かせ、容赦なく初音の顔面へと刃を走らせる。


初音はそれを紙一重でかわした。


「兄さん、もう、やめてぇ!」


美月の叫び声が初音の耳に届いた。


琉衣は鮮やかにナイフを翻し、その凶刃が次々と初音を襲う。


必死に回避を続けていた初音だったが、限界を超えた足が、一瞬だけよろめいた。


隙を見せた初音の腹部へ、琉衣の凶器が容赦なく襲い掛かる。


「初音!!」


叫びと同時に飛び込んできた紬が、初音の視界に入ってきた。


サクッ! と、生々しい切り裂き音が室内に響き渡る。


初音を庇う紬の腹部が刃で引き裂かれ、彼女はお腹を押さえてその場に崩れ落ちた。


「紬ぃぃぃ!!」


初音の悲鳴が、絶望の色を帯びて部屋中に響き渡った。

読んでくださりありがとうございました

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