第2章第46話
次の日の午後。
文弥は初音と紬、そして美月の三人と図書館で勉強をしていた。
──はずだったのだが、そこになぜか千代と心愛も加わり、机の上はカオスなことになっていた。
「……何でちよっちとここっちもいるの?」
「私が呼んだんだ。もうすぐ実力テストもあるし、人が多い方が楽しいと思って」
隣の初音が満面の笑みを浮かべている。
「……勉強は人が少ない方がよくない?」
文弥はあからさまに嫌そうな顔をする。
「何? ふみっちは私たちが一緒なの嫌なの?」
向かいの千代が愛くるしい笑みを浮かべて、文弥を覗き込んできた。
「うん、嫌だ」
文弥は何の遠慮もなく、はっきりと断言した。
「ひっどーい! そんなこと言われたら傷つくよ! ねえ、ここっち先輩?」
千代が隣の心愛に話を振る。
だが、当の心愛は銅像のように微動だにしなかった。
「…………」
「ほら! ここっち先輩がショックで白目を剥いて固まってるじゃない! どうするのよふみっち!?」
「冗談だよ。ここっち」
文弥は微笑むが、目は笑っていなかった。
「そ、そうよね。そうだと思ったのよ」
文弥の言葉を真に受け、心愛は秒で立ち直った。
その後、六人は黙々と勉強を続けていった。
「初音さん。ここがわからないんですけど」
美月が隣に座る初音へ、使い込んだ参考書を差し出す。
「ええっと、どれどれ?──あ、これはね、こう解くとわかりやすいよ」
初音は身を乗り出し、美月のノートにペンを走らせながら丁寧に解説していく。
「ありがとうございます。すごいわかりやすいです」
ぱぁっと顔を輝かせた美月の笑顔に、初音は気恥ずかしそうに頬を緩めた。
「そっかなぁ。えへへ、お役に立ててよかった」
「美月ちゃん、私も教えてあげられるところは教えるからね」
さっきから美月が初音ばかりを頼るものだから、紬が無駄な対抗意識を燃やし始めた。
「えーと、じゃあ、ここお願いします」
「ひらかたこんって誰だっけ?」
紬が難しい顔をして考え込む。
『平方根だバカタレが! 人の名前なわけないだろ!』と文弥は呆れつつも、ペンを走らせる。
残念だが、アレに教えられることなど何もないと納得する文弥だった。
しばらくして窓から夕日が差し込み始めると、文弥たちは勉強を切り上げ、ファミレスへと向かうことにした。
席に着くと、文弥は甲斐甲斐しく女性陣の分のドリンクを運び、テーブルへと並べていった。
「女子会でもしよっか」
「いいわね。ちよっち。うふふ」
文弥は千代の言葉を真に受け、真面目に女子になりきろうとしていた。
「……いや、ふみっちまで女子になることはないから」
千代が顔をぴくぴくと引きつらせた。
「なんで! 私だけ仲間外れにする気なの!」
文弥はおネエ口調で、大袈裟に抗議した。
「……文弥くん、普通に話そうよ」
さすがに初音も引き気味だ。
「はつっちまで酷いわ!」
「私はあなたの味方だからね。文子ちゃん」
ここぞとばかりに、心愛が文弥に手を差し伸べる。
「ありがとう! ここっち!」
「あ、私も味方だから!」
どさくさで、紬も文弥に手を差し伸べた。
「……どちら様でしたっけ?」
ゴミを見るような瞳を紬に向けた。
「なんで! 酷いよ! 私は反省してるのに!」
文弥の冷たい仕打ちに、紬が取り乱した。
「私には反省の色が真っ黒にしか見えないわ」
「ひ、酷い……」
紬は涙ぐんだ。
「まあまあ、紬。これでも本当は許してあげてるんだよ。ね? 文弥くん?」
初音が苦笑しながらフォローを入れた。
「例え神様が許したとしても、私は絶対に許さないわ」
文弥の目はどこまでも本気だった。
「わーん! 初音~!」
耐えかねた紬は、初音の胸に泣きついた。
そのめちゃくちゃな様子を、美月がぽかんと圧倒されて眺めているのだった。
しばらく女子会が続いたが、千代が美月に無邪気な笑顔を浮かべると。
「ねえねえ、美月ちゃんLINE交換しようよ」
千代の一言で、初音、心愛、文弥もLINEを交換した。
店を出た文弥たちは、千代、心愛、美月の三人を見送るべく、駅の改札口へと足を運んだ。
「今日はとても楽しかったです。ありがとうございました」
満面の笑みで美月はペコリと頭を下げ、千代と心愛の後に続き改札を抜けていった。
三人を見届けた文弥たちも、やれやれといった様子で駅を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
その日の夜。
リビングのソファに腰を下ろし、美月は楽し気に紬や初音たちとメッセージを送り合っていた。
学校では男子とは怖くて話せず、女子の友達すらいなかった彼女は、これまでずっと孤独な生活を送ってきたのだ。
だからこそ、一気に五人もの友達ができたという事実が、美月の胸をじんわりと温かな感情で満たしていた。
そんなささやかな幸せを踏みにじるかのように、リビングのドアがゆっくりと音を立てて開いた。
現れたのは自分の部屋で、事を終えたばかりの琉衣だった。
「何ニヤニヤしてんだ? 気持ち悪いぞ」
「あ、あの……面白い動画を見ていたので……」
「ふーん。お前さ、最近、休みなると出掛けてるけど、友達と会ってるのか?」
「はい、そうですけど……」
「その友達って女か? 女なら紹介してよ」
「……兄さんの好みではないと思いますので」
「そんなの会ってみなきゃわからないだろ。そのスマホ見せろよ」
「……い、嫌です」
彼女は自らの弱さを振り払うように勇気を集め、琉衣の言葉を真っ向から拒絶した。
「はっ? お前さ、最近、僕に逆らってばかりいない?」
苛立ったように琉衣は美月の髪を鷲掴みして立たせると、容赦なくその腹部に蹴りを入れた。
「……ぐわっ」
美月はお腹を押さえ、その場に崩れ落ちて悶絶する。
そんな痛みに呻く中、呑気な足取りで琉衣のセフレである女がリビングへと入ってくる。
「琉衣くん。どうしたの?」
「ちょっと妹を躾してただけだよ」
氷のような笑みを浮かべ、琉衣は女を見つめる。
「美月ちゃん。お兄さんの言うこと聞かないとダメだよ。きゃはは」
女はアホ面晒したまま、下品な笑い声を上げる。
「じゃあ、私もう帰るね」
「うん、またね」
胡散臭い笑みを浮かべたまま、琉衣はその女を見送った。
「なあ、たまに中学生とか抱いてみたいんだよ。誰か紹介しろよ」
琉衣は、うずくまる美月の背中を冷たく足蹴にする。
「……絶対に嫌です!」
頑なな美月の態度に飽きたのか、琉衣は吐き捨てるような冷笑を浮かべ、シャワー浴びに浴室へと向かった。
一人残された美月は、痛みに涙を流しながらも、震える手でスマホの画面を覗き込み、初音からのメッセージへと必死に返信を打ち込む。
ずっと兄から虐げられていた絶望の底にあった美月に、初めて眩い温もりの場所ができたのであった。
『また一緒に勉強しようね』という初音からのメッセージを見つめながら嬉しそうに微笑む美月だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
文弥は初音と二人で晩御飯を食べ終え、畳の上で寛いでいた。
彼の腕の中には、その胸にちょこんと背中を預けてスマホをいじっている、初音の温もりがあった。
「誰にメッセージしてるの?」
文弥が後ろから、スマホの画面を覗き込む。
「美月ちゃんだよ」
楽しそうに初音が微笑む。
「何だって?」
「また一緒に勉強したいって」
「初音に大分懐いていたもんね」
「可愛いよね。美月ちゃん。ふふ」
「確かに可愛いね」
美月は兄の琉衣とは違い小柄で、どこか小動物を連想させる愛らしさがあった。
「むぅ、浮気はダメだからね」
初音が悪戯っぽく頬を膨らませた。
「僕が浮気するわけないだろ」
「だよね。信じてるからね」
「僕が愛してるのは初音だけだから」
文弥は初音の頬に軽くキスを落とした。
「私も愛してるのは文弥くんだけだよ。えへへ」
幸せそうな笑みを浮かべ、初音は文弥を見つめ返す。
お互いに求め合いながら口づけを交わすと、文弥は服の下から初音の二つの豊かなふくらみにそっと手を伸ばした。
「……ん……ん……文弥くん」
下着をずらして、優しく丁寧に揉み解すと、初音の口から我慢できないとばかりに甘い吐息が漏れ始めた。
文弥は小さく突起したものを指で摘み丹念に愛撫していく。
「……あん……ん……ん……っ」
気持ち良さに呼応するように、初音の呼吸が激しく乱れてきた。
「……文弥くん……続きはベッドでしよう」
「うん、わかった」
文弥は初音をお姫様抱っこしてベッドへと向かうと、そのままベッドへと雪崩れ込んだ。
二人は文弥の母親が帰ってくるまでの間、お互いの温もりを感じ合いながら深く身体を重ね合わせるのだった。
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