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彼女を寝取ったチャラ男と、反省して泣きつく彼女。だが一番おかしいのは新世界に目覚めた僕だった  作者: 燕


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第2章第32話

球技大会の昼休み。


文弥たちはいつものメンバーで、自分たちの教室で昼食をとることになった。


メンバーは文弥、千代、初音。


それと、なぜか当然のような顔で混ざっている二年生の心愛の姿もあった。


「別のクラスのはつっちはいいとして、何でここっち先輩がいるの? ここ、一年生の教室なんだけど」


千代が当然の疑問を心愛にぶつける。


「お昼食べるときくらい、一緒にいたっていいじゃない。一人で寂しかったのよ」


当の心愛はどこ吹く風で、初音が作ってきたおにぎりを美味しそうに頬張っていた。


もはや自分のクラスでは一人きりであることも隠さず、堂々としたものだ。


「文弥くん。午後はドッジボールに出るんだよね? 頑張ってね。うふふ」


文弥に微笑みながら、初音は首を傾げて見せた。


「うん、ありがとう。頑張るよ」


文弥は満面の笑みで返した。


「文弥くんの好きな唐揚げ美味しくできたんだ。はい。あーん」


初音が唐揚げを箸で摘むと、文弥の口元に運ぶ。


「わあ、すごく美味しいよ」


文弥がそれを美味しそうに頬張る。


「ふみっちとはつっち。そういうのは二人の時にやってって言ってるよね」


千代がジト目を二人に向ける。


「本当に見てるだけで、お腹いっぱいになりそうだわ」


心愛もうんざりした顔で二人を見つめる。


「……ご、ごめんなさい」


初音は申し訳なさそうに、顔を真っ赤にして謝った。


その楽しそうな四人を遠くの席から、紬が嫉妬と妬みそねみ丸出しにして睨んでいる。


ほとんど逆恨みでしかない。


あれから彼女は一馬とは一言も口をきかず、自分の席で一人菓子パンをかじっていた。


一馬も自分の席で、一人黙々と菓子パンを食べている。


二人はたまに目が合うが、すぐに背ける。


二人の間には、気まずい空気が流れていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇


午後に入り、男子限定ドッジボールの時間がやってきた。


文弥は張り切ってコートに立つ。


試合開始の合図とともに、いきなりボールが文弥を目掛けて飛んできた。


それを軽くキャッチした文弥は、正面に立っていた相手チームの一人へ目掛けて剛速球を投げ返す。


正面の相手は自分の方に来るものと身構えたが──直後、ボールは目の前で軌道を変えてシュート回転して右に曲がっていく。


まったく警戒していなかった、その隣の生徒のお腹へ見事に直撃した。


「ぐわっ!」


被弾した生徒はお腹を押さえながら外野へと退場していく。


再びボールを手にした文弥は、またもや正面の相手に向けて剛速球を放った。


身構える相手だったが、今度は直前で鋭く左に滑るように曲がるスライダー。


またしても完全に無警戒だった隣の生徒のお腹を直撃した。


「ぐっ!」


生徒はうずくまりながら外野へと退場していく。


『おい、あいつ、変化球を投げるぞ!』


『ドッジボールだぞ! どうやって投げるんだよ!』


『ヤバすぎだろ!』


『ちょっと怖いんだけど……』


相手チームがざわめき始める。


そんな中、ボールをキャッチしたクラスメイトが文弥にパスをしてきた。


相手チームは次はどんなボールが来るのかわからず怯えていたが、相手チームの一人が『左右の隣を警戒しろ!』と声を張り上げた。


文弥はそれを聞いて不敵な笑みを浮かべる。


正面の相手目掛けて剛速球を投げた。


両隣の生徒は身構えたが、正面の生徒は自分には来ないと思って安心していた。


左右のどちらかに曲がると踏んで身構えた相手に対し、ボールは急ブレーキがかかったかのように失速し、相手の脛のあたりに急降下して直撃した。

──文弥が投げたのは、ドッジボールではあり得ない『フォーク』だった。


観客席もどよめいた。


観客席から『いや、本当にどうやって投げてんの!?』と素のツッコミが漏れ聞こえるほどだった。


「文弥くん! 頑張って!」


初音の声が文弥の耳に届いた瞬間、彼は弾かれたように彼女の方を振り向き、嬉しそうな笑顔を向けた。


その後も文弥はえげつない変化球で次々と当てていき、試合は快勝した。


続く試合もすべて快勝すると、クラスは優勝を果たすのだった。


クラスメイトからの手荒い祝福を受けながら、文弥は満面の笑みを浮かべていた。


嬉しそうな文弥を見て初音も、自分のことのように喜んでいた。


◇◇◇◇◇◇◇◇


球技大会も無事に終わり、文弥と初音は帰路についていた。


文弥のアパートへ着くと、初音は当たり前のように彼と一緒に晩御飯の準備を始めた。


「今日は文弥くん大活躍だったね。すごくかっこ良かったよ。うふふ」


初音が本当に嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとう。ははっ」


文弥も初音が心底喜んでくれることが本当に嬉しかった。


「でも、午前中の男女混合バレーの時の文弥くんのスパイクはすごく痛かったんだよ」


「ごめん、ごめん。手を抜くのは失礼だと思ってつい」


初音の頭を文弥は優しく撫でる。


「撫でるだけじゃダメだよ。うふふ」


初音は何かをねだるように、上目遣いで見つめてくる。


その視線に耐えかねて、文弥は初音の柔らかい唇にそっと口づけを落とした。


「えへへ」


初音はとても嬉しそうに微笑んだ。


「ねえ、初音。寝取られとか──」


「文弥くん以外の人とは絶対にしないから!!」


食い気味どころか、まさに秒で拒絶。


きっぱりと言いきった初音の勢いに、文弥は諦めるしかなかった。


晩御飯を済ませて少し寛いだあと、二人は文弥の部屋で抱き合いながら甘いひとときを過ごしたのだった。


謎の声(お願いだからこのまま普通にラブラブなままでいてね)


◇◇◇◇◇◇◇◇


十二月になると地獄の補習を終えた、一馬と紬は彼のマンションで、カップラーメンを食べていた。


「やっぱり五百円以上するカップラーメンは旨いな」


「……そうね」


思えば今まで高級お寿司に舌鼓を打ち、予約困難なレストランでフレンチやイタリアンに興じてきたというのに。


どうして今、自分はコンビニのカップラーメンを啜っているのだろうか。


──紬は、小さくため息を吐きながら、猛烈な鬱屈を抱えていた。


これみよがしに美味しそうにカップラーメンを啜る一馬を見ていると、無性に嫌気が差してくる。


成績は下から数えた方が早く、運動もできない。


おまけにお金も無くなってしまい、あれほど魅力的だった容姿すら、今ではすっかりチープに見えた。


彼女の中で、一馬を見る目が急速に冷ややかなものへと変わりつつある。


食べ終えてしばらくすると、一馬が体を求めてきた。


仕方なくベッドへと向かうが、彼女が一番冷めていたのはこの性行為だった。


文弥と完全に別れ、寝取られ動画の撮影もなくなると、あれほど燃え上がってた行為も一瞬で消化試合へと化す。


今では少しも気持ち良くなく、ただ作業をこなしているだけだ。


──紬は新しい刺激を欲していた。


◇◇◇◇◇◇◇◇


ある日の放課後。  


バイトが休みなので図書室で、いつものメンバーで勉強をしていた。


「もう少しで期末テストだね。頑張らないとね」   


初音が文弥の顔を見つめながら微笑んだ。


「なんかテスト続いて、嫌だよねぇ」


千代が口を尖らせる。


「まあ、学生だから仕方ないわよ」


心愛は何だかんだと学校の成績だけは良い。 


他はポンコツだが……。


四人は黙々とテスト勉強を続けた。


千代が気を遣って一馬と紬にも声をかけたが、一馬は用事があるからと先に帰り、紬は初音と一緒に勉強したくないと有無も言わさず帰ってしまった。


勉強を終え帰路につき、四人で駅前を歩いていると、紬が見知らぬ男子生徒と楽しげに並んで歩いてるのを見掛けた。


「つむっちと一緒にいるの、バスケ部の早乙女先輩じゃない?」


千代が珍しく、怪訝そうな顔をした。


「そうね。同じ学年の早乙女琉衣(さおとめ・るい)ね」


心愛も表情を引きつらせる。


「めっちゃ女遊びが激しいとかで有名だよね」


千代が心配そうに紬を見つめる。


「話しただけで妊娠するって噂よ」


心愛は真面目な顔で言い放った。


「……さすがにそれはないっしょ」


心愛のどこまでも真面目な表情に、千代が思わずツッコミを入れる。


「大丈夫かな……紬……」


初音が心配そうに紬を見つめる。


「別に大丈夫じゃないかな」


ああ、そっち系のロクデナシの先輩かと、文弥は思ったが、紬に対してあくまでも無関心なのでまったく気にもとめなかった。


そんなことよりも『夜ごはんは回鍋肉と青椒肉絲どっちにしようか?』と頭を悩ませる文弥だった。


遠ざかっていく琉衣の姿はイケメンで背が高く、真面目そうで爽やかだ。


とても噂通りの女遊びが激しい男には見えない。


紬はとても楽しそうな顔をして話しながら、琉衣と駅の方へと消えていった。


謎の声 (……またいざこざがありそうだね)

読んでくださりありがとうございました

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