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彼女を寝取ったチャラ男と、反省して泣きつく彼女。だが一番おかしいのは新世界に目覚めた僕だった  作者: 燕


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第1章第26話

次の日の夕方。


文弥はスーパーで、今日も品出しに励んでいた。


段ボール箱から、広告の品の食用油を取り出すと、テキパキと並べていく。


「相変わらず頑張ってるね。文弥くん」


背後から、優しい笑みを浮かべた結菜が声をかけてきた。


「結菜先輩。お疲れ様です」


「本当によく働くわね。私も頑張らないと」


結菜はグッと小さく胸の前で拳を握ると、担当であるレジの方へと歩いていった。


その後も文弥は黙々と働いていると、あっという間に上がりの時間になった。


文弥が休憩室に行くと、結菜が椅子に腰掛け休憩をしていた。


「あ、もう上がり? お疲れ様でした」


「はい、結菜先輩。お疲れ様です」


「もう、すっかり仕事に慣れた感じだよね」


「いえ、まだまだですよ。覚えることもまだありますし」


文弥らしい生真面目な返しだった。


「よく働いてくれるって、店長が喜んでいたよ」


「そうなんですか? これからも頑張らないといけないですね」


「まあ、あまり頑張り過ぎないようにね。文弥くんって全然休憩しないから心配だよ」


本当に心配そうに、文弥を見つめる結菜。


「ありがとうございます。気をつけます。それじゃお先に失礼します」


「はい、お疲れ様でした。またね」


ニコニコした優しい笑顔の結菜に、文弥は一礼すると休憩室を出ていった。


帰りに駅前へ行くと、文弥はアクセサリーショップへと入っていった。


紬の誕生日プレゼントを買うためだ。


前に彼女が『このネックレス欲しいなぁって』、言っていたことを思いだしたのだ。


高校生には少し高い値段だったが、買うことにした。


店員さんに誕生日プレゼントだと伝え、綺麗な包装紙でラッピングして貰った。


ネックレスが入った箱をリュックに丁寧にしまうと、文弥は店を出て帰路へとついた。


◇◇◇◇◇◇◇◇


次の日のバイトの帰りに、文弥は久しぶりに紬の家に寄った。


インターホンのボタンを押して間もなく、スピーカーから『あ、文弥くん。ちょっと待ってて』と紬の母親の嬉しそうな声が聞こえてきた。


玄関のドアが開くと、文弥は中へと招き入れられた。


「家に上がっててよ。ジュースでも飲んでいって」


「いえ、用が済んだらすぐ帰りますので……」


文弥の無惨にも遠慮は聞き流され、無理やり家の中に上がらされた。


「紬! 文弥くんが来たわよ!」


紬の母親は二階に向けて声を張り上げた。


すると、トコトコと階段から紬が下りてくる。


「ふ、文弥くん、こんばんは」


「こんばんは。紬」


「何で挨拶なんてしてるのあなたたち? 文弥くんも紬の部屋に行ってあげて。何か飲み物と食べる物を持っていくから」


何となくすぐ帰れない空気になってしまい仕方なく、文弥は渋々、紬のあとを着いて行き部屋へと入っていった。


彼女の家に入るのは、本当に久しぶりだった。


「あ、これ誕生日プレゼント」


文弥はリュックからネックレスの箱を取り出すと、紬に手渡す。


「わあ、ありがとう。文弥くん。開けてもいい?」


「うん、いいよ」


紬が包みを開けて中身を確認すると、一瞬だけ、その表情が曇った。


「どうしたの?紬」


「あ、これって……ううん、何でもない。これ前から欲しかったんだ。ありがとう」


そう言うが、紬の顔に心からの笑顔は浮かんでいなかった。


そんな中、紬の母親がお菓子とジュースをトレーに乗せてやってくると、二人に気を利かせてすぐに部屋を出ていった。


その後、紬の母親が用意したお菓子とジュースを頂き、他愛もない話を交わし、文弥は家を後にすることにした。


「それじゃ、そろそろ帰るね」


「うん、今日はありがとう。またね」


玄関で紬の母親に見送りの挨拶を済ませ、紬の家をあとにした。


◇◇◇◇◇◇◇


文弥が帰った後、紬はもらったネックレスを机の引き出しの奥へとしまい込んだ。


そして、愛おしそうに別の箱を取り出し、中から別のネックレスを取り出して首に飾る。


鏡に映る自分を見つめながら、紬は先ほどとは打って変わって、満面の笑みを浮かべていた。


それは、一馬からプレゼントされたもの。


文弥が買ったネックレスの、十倍の価格など軽く超えるだろう高級品だった。


紬は迷っていた。


正直に言おう。


文弥くんのことは今でも好きだ。


だけど、一馬くんと過ごす時間の方が圧倒的に刺激的で、楽しい。


文弥くんは真面目で、頭もいいし、スポーツ万能で、とにかく優しい。……うん、優しい。


でも、『何か物足りない』のだ。


対する一馬くんは、私を異世界みたいな高級ディナーに連れて行ってくれるし、文弥くんの財力じゃ一生かかっても買えない高級品をプレゼントしてくれる。


遊び慣れた大人の男として、私の知らない世界をこれでもかと味わせてくれるのだ。


――まあ、ベッドの上でのテクニックは文弥くんに遠く及ばないのだけれど。


それでも、最初はぎこちなかった一馬くんの絶望的な下手さが嘘みたいに、最近はみるみる上達している。


文弥くんの優しく丁寧な愛撫は確かに最高だが、一馬くんの不器用だけど一生懸命で激しい愛撫にも感じ始めている。


「ま、いっか。深く考えるのはやめた。今はとりあえず、この生活を楽しんじゃおう」


自分の罪悪感にそっと蓋をして、紬はどこまでも都合よく、楽観的に未来を先送りした。


『時が経てばそのうち文弥くんは許してくれる。彼もまた自分のことを愛してくれるだろう』と紬は本気で思っていた。


そんな日は永遠に来ないのも知らないで。


紬は、踏み込んではいけない領域に、自ら踏み込んでしまった。


目の前の甘い誘惑には、あまりにも弱かったからだ。


おそらく、文弥の贈ったネックレスが、再び日の目を見ることは二度とないだろう──。


◇◇◇◇◇◇◇◇


次の日の昼休み。


文弥、初音、千代、心愛たちは中庭の芝生の上にレジャーシートを敷いて、その上でお弁当を広げていた。


「ねえねえ。はつっち? はつっちのお弁当美味しそうだね」


初音の可愛らしい弁当を覗き込む千代。


「ありがとうございます。昨夜、作った残り物が多いけどね」


嬉しそうに微笑む初音。


「ふみっちと、はつっちは自分でお弁当作るなんて偉いね」


「あら、私だって自分で作ってるわよ」


心愛はドヤ顔で胸を張った。


「ここっち先輩~。それ、冷凍食品詰めただけだよね?」


千代は口に手を添えながら、クスクスと小さく笑った。


「くっ! 詰めるのも大変なのよ! 彩りとか考えないといけないから!」


「まあまあ、ここっちのお弁当も美味しそうだよ」


「ありがとう。文弥くん。私の味方は文弥くんだけね。ふふ」


『別に味方というわけではないけれど』と思った文弥だったが、かわいそうなので言うのをやめた。


「でも、ここっち先輩って、いつも私たちと一緒にいるよね。他に友達とか本当にいないの?」


千代はあえて文弥と初音が核心に触れなかったことを、唸りを上げるドストレートで叩き込んだ。


「……と、友達がいないんじゃなくて、あえて作らないだけよ」


文弥は落ち込む心愛の肩をポンッと優しく叩くと、いたたまれなさそうに目を細める。


「そんな哀れみの目をするのはやめて! 余計に落ち込むから!」


「まあまあ、ここっち先輩には私たちがいるからいいじゃん。にひひっ」


千代は心愛に優しい笑みを向けた。


「そうですよ。心愛先輩」


初音も同じく優しい微笑みを浮かべて、心愛を見つめる。


「そうよね。あなたたちがいるもんね。うふふ」


立ち直りの早い心愛であった。


文弥は再び心愛の肩を叩くと、思い切り同情の眼差しを向ける。


「だから、その目はやめてって! 文弥くん!」


力の落ちた残暑の日差しの下、賑やかな昼休みが続いていくのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


文弥たちが賑やかなお昼休みを過ごしている一方で、一馬と紬は学校をサボり、彼のマンションで、何度も何度も互いの身体を貪るように重ね合っていた。


乱れたベッドの上、裸のまま横たわる二人の肌からは、まだ微かに甘い熱気が立ち上がっていた──。


「最近の一馬くんは、なんだか凄いの……」


紬は潤んだ瞳を上気させ、一馬を見つめている。


「そうか?」


「うん、すごく……激しい」


「激しいのは嫌いか?」


一馬は悪戯っぽい笑みを浮かべ、紬の髪を優しく撫でる。


「……ううん、大好き。あ、もちろん、一馬くんのこともぜんぶ大好きだよ。ふふ」


そう言って、紬は恥ずかしそうにしながら、一馬の頬に軽くキスを落とした。


「俺もだよ。紬。愛してる」


「ねえ……もう、一回してもいいよ?」


「いいぜ、何度でも」


お互いの満たされない何かを求めるように、再び二人は熱い唇を重ねた。

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