第1章第25話
実力テスト当日。
テストをサボった一馬と紬は、彼のマンションの寝室で、静かにお互いの体を重ねようとしていた。
ベッドの上で、二人は身にまとっていた衣類をすべて脱ぎ捨て、そのまま床へと放り投げる。
お互いを求め合うように、二人は唇を重ねる。
熱を帯びた舌を絡めながら、深い口づけを交わしていく。
やがて唇を離すと、二人の間には光る銀糸が儚く垂れ下がる。
激しい息づかいの中で、一馬は、紬の柔らかなふくらみへと両手を伸ばした。
まるで壊れ物でも扱うかのように、愛おしそうに優しく揉み解す。
「……ん……ん……っ」
紬は顔を紅潮させ、吐息を零した。
一馬は、もう一度口づけを落とすと同時に、小さな主張を始めた先端を指で優しく摘み、丹念に愛撫する。
紬はますます顔を赤らめ、心地よい恍惚の波に身を委ねていった。
濡れそぼった紬の秘部に一馬の指が触れると、彼女もまた、彼の硬く熱を帯びたモノを優しく握りしめる。
お互いの体温を確かめ合うように、丁寧に愛撫を重ねていく。
押し寄せる絶頂の気配に、二人は理性の限界を迎えていた。
視線を交わして合図を送ると、一度深い口づけを交わしてから、二人は強く身体を重ね合わせた。
濁った瞳で快楽の沼の底へと沈み込み、甘い熱の中に溺れていくのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
午後のLHR。
一馬と紬は、今日も学校をサボっていた。
夏休みが終わっても、相変わらずあの二人は学校を休みがちのままだ。
二人がいない中で、クラスの文化祭の出し物を、何にするかをみんなで決めていた。
文弥は『寝取られ動画鑑賞会』を提案したかったが、流石にそれはダメなのはわかっているので、黙っていた。
クラスのみんなから次々と出し物の提案がされるが、いまいちな物ばかりで話し合いは煮詰まっていた。
そんな中、一人の男子生徒が、『お化け屋敷とかでいいんじゃね?』と声を上げる。
謎の声「定番だね」
投票を行った結果、クラスの出し物は『お化け屋敷』に決定した。
その後の話し合いや立候補の結果、文弥と千代は、広報・脚本係に抜てきされた。
謎の声(頑張ってね)
◇◇◇◇◇◇◇◇
その日の放課後。
文弥たち広報・脚本係は、ファミレスに集まり、お化け屋敷のストーリーについて考えていた。
文弥と千代の他に、クラスメイトの男子一人女子二人の三人がいた。
「お化け屋敷ね。私、怖いのは苦手だから力になれないかもしれないわ」
なぜか関係ない心愛もいて、いつものメロンソーダを飲んでいた。
「ってか、何でここっち先輩もここにいるの? 暇なの? ぼっちなの?」
千代が当たり前の疑問を心愛に叩きつけると、千代の頬っぺたを心愛は無言でつねりあげた。
「ご、ごめんなひゃい……じょうだんでしゅ」
「一言多いわよ。あなたは」
謎の声(二人とも相変わらず仲良しだね)
「ふみっち。ストーリーとかどうしようか?」
頬を擦りながら、千代が文弥に聞いてきた。
「そうだなぁ。呪いをテーマに、こんなの置いてみたらどうかな? 借りれるか聞いてみようよ」
文弥はスマホで、髪が伸びることで有名な呪われた日本人形の画像をみんなに見せた。
謎の声(……そ、それはやめよう)
「ふみっち! それは却下! そんなガチなの借りたくないから! そもそも貸してくれないしょっ!」
引いている千代に、係になった他のクラスメイトたちも苦笑していた。
「そ、そうよ。それはダメよ! もっと可愛いぬいぐるみとかにしましょう!」
なぜか関係のない心愛も拒絶している。
謎の声(お化け屋敷を可愛くしてどうするの?)
「なら、この鬼を斬ったと言われる妖刀なんてどうかな?」
「だから! そういうガチのはいいから! それに絶対に借りれないしょっ!」
「それはやめて、赤く光るビームの剣にしときましょ!」
謎の声(ダース・○イダーかいっ!)
文弥としては至って真剣、かつ純粋な動機だった。お化け屋敷を成功させるため――ただそれだけのために、彼は全力で「本気の恐怖」を追い求めているのだ。
話し合いの結果、文弥の提案はすべて却下され、ストーリーのテーマは千代が提案した呪いの教室で決まり無事に終わった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
文化祭当日。
千代が提案した呪いの教室が好評で、教室の前には人だかりが出来ている。
文弥は受付を手伝っていたが、休憩の時間になったため他のクラスメイトと代わった。
暇を持て余していた文弥は、初音のクラスへと見学に行くことにした。
彼女のクラスの出し物は、メイドカフェだった。
お店に入り、テーブル席に腰掛けると、見知った顔がモジモジしながら現れる。
「ふ、文弥くん……じゃなくてご、ご主人様! ご注文はお決まりですか?」
メイド服を着た、初音が顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしている。
「……じ、じゃあ、この初音の萌え萌えキュン♡LOVEジュースでお願いします」
文弥は初めてのメイドカフェに戸惑い、何だか訳がわからないものを注文してしまった。
「か、かしこまりました」
ぎこちない動きで、初音は厨房エリアに戻っていった。
少し待っていると、初音がジュースが乗ったトレーを慎重に運んできた。
こぼさないように、テーブルにそっと置く。
「……ありがとう。初音」
「さ、最後の仕上げをしますね。は、初音の萌え萌え♡きゅん♡」
指で小さなハートを作った初音は、そのまま謎のジュースに向かってビシッとポーズを繰り出した。
「……あ、ありがとう。初音」
「ご、ご主人様。ご、ごゆっくりお過ごしくださいませ」
文弥が目の前に置かれたジュースを恐る恐る一口飲むと、ただのクリームソーダだった。
一安心した彼は、ジュースを美味しく頂いた。
珍しいものが見れたなぁと、黄昏る文弥だった。
そんなこんなで、無事に文化祭は幕を閉じた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
文化祭を終えて、二週間が過ぎ去り、もうすぐ十月を迎えようとしていた。
バイトが終わり、文弥は試着室で着替えていた。
あらかじめ銀行で下ろしておいた、生まれて初めて貰った給料を大事そうに制服の内ポケットに入れる。
結菜や他の店員に挨拶を終え帰路へつくと、文弥は家の近くの回転寿司へと向かった。
貰った給料で、母親の好きなお寿司を買うためだ。
お寿司を手に持って、アパートへ帰ると、母親がちょうど晩御飯の準備をしようと、台所へ向かうところだった。
「あ、文弥。お帰りなさい」
「ただいま。母さん。お寿司買ってきたから夜ご飯の準備はしなくていいよ」
「え? 本当? ありがとうね。ふふ」
嬉しそうに、母親は微笑む。
文弥がテーブルにお寿司を置くと、母親が醤油の受け皿を持ってきた。
「母さん。イクラ好きだったでしょ。たくさん買ってきたから食べて」
「わあ、ありがとう。お茶入れるね」
寿司を並べると、文弥の家にしては豪華なディナーが始まった。
「母さん。中トロもあるよ」
嬉しそうに母親に、中トロを文弥は差し出して見せる。
「後でお寿司代渡すね」
「いいよ。僕の奢りだから。バイト代、入ったし」
「そっか、じゃあ、今回は甘えちゃおうかな。ふふ」
息子の成長を感じて、母親は胸が熱くなる。
「うん、たくさん食べてね。母さん」
「美味しいわね。ふふ」
「喜んでもらえて、良かったよ」
「あ、あの、文弥……また、紬ちゃんとあの男の子が一緒にいるところを見かけたんだけど……紬ちゃんとは別れた方がいいんじゃないかしら……」
母親は苦悶の表情を浮かべていた。
「何を見たの?」
「紬ちゃん……その男の子と……キスをしていたの……」
悲しそうに目を伏せ、言いにくそうに告げる母親に対し、文弥は全く動揺することもなく、平然と答えた。
「そんなことか、そんなことは気にしないでいいよ」
「で、でも、紬ちゃん。浮気してるじゃないかしら……」
心配そうに見つめる母親に、文弥は嘘偽りのない瞳で、穏やかな笑みを向けた。
「浮気じゃないから大丈夫だよ。そんなつまらない話より、お寿司食べようよ」
「文弥がそういうなら……うん、文弥はサーモンが好きだったよね。私の分も食べて」
「ありがとう。母さん」
親子二人の、ささやかな贅沢は続いた。
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