第1章第20話
朝、いつものようにご機嫌でバイト先のスーパーへと歩いていく文弥に、後方から何やら不穏な影が近づいてきた。
「文弥くん! いつもどこへ行ってるの!?」
最近、図書館に来ない文弥を不審に思い、朝早くからずっと待ち伏せしていた初音が声をかけてきた。
「あっ、初音。おはよう」
文弥は振り返ると、朝に相応しい爽やかな笑顔を見せた。
「おはようじゃないよ! 図書館に来ないでどこに行ってるの!?」
初音は目を潤ませて、訴えるような瞳で文弥を見つめる。
「ごめん。重要な国家機密だから言えないんだ」
真面目な顔をして、文弥は言いはなった。
「いつからそんな政府の重要人物になったの!?」
初音は頬を膨らませ、涙目で文弥を睨み付ける。
今にも泣きだしそうな初音を前に、観念した文弥は正直に話すことにした。
「バイト行くんだよ。駅前のスーパーでバイト始めたんだよ」
「バイト? なんで?」
「紬の誕生日プレゼント買うためだよ」
「そうだったんだ……」
紬のためにバイトしていることを知って複雑だったが、文弥が何をしてるのかがわかって初音はホッと胸を撫で下ろした。
「それじゃ。バイト遅刻するわけにはいかないから」
「うん、お仕事頑張ってね」
初音は涙を手で拭うと、晴れやかな笑顔で文弥を見送った。
◇◇◇◇◇◇◇
文弥はいつものようにスーパーで品出しをしていたら、初音がポンコツとギャルを引き連れてやってきた。
「わあ、ふみっち! 本当にバイトしてんだ!」
文弥を見つけると、千代は優しい笑みを浮かべた。
「お仕事中にごめんなさい。文弥くん。あ、これ、差し入れ、後で食べてね」
心愛は来る途中で買っておいた、フルーツゼリーの詰め合わせを文弥に渡した。
「……あ、ありがとうございます。ここっち」
さすがの文弥も、『仕事中に渡すもの?』と戸惑っていたが、受け取ると品だしの段ボールの上に置いた。
謎の声(……残暑見舞い?)
「ごめん……文弥くん……図書館で二人に問い詰められて、バイトのことを話しちゃった」
初音は申し訳そうに文弥に頭を下げた。
またしても安住の地が、ポンコツとギャルに侵されていくと思ったが、文弥はもう諦めモードに突入していた。
「別にいいよ。気にしないで」
初音の頭を文弥はポンポンと撫でた。
「じゃあ。仕事中なんで」
再び、品出し作業を始める文弥。
「大丈夫だよ。仕事の邪魔はしないから。にひひっ」
千代は悪戯っぽい笑みを浮かべている。
「ええ、文弥くんの顔を見たかっただけだから、私たちは図書館に戻るわ」
心愛も文弥を見て、どこか安心したような顔をしていた。
「ここっち先輩。アイス買って行こうよ」
「いいわね。ここは私が奢るわ」
「やったー、ありがとう。ここっち先輩」
心愛と千代は、アイスコーナーへと向かっていった。
「私も行くね。お仕事頑張ってね」
初音は文弥に微笑むと、二人の後を小走りで追いかけていった。
三人が去った後、バックヤードに向かうと、ニコニコしながら結菜が声をかけてきた。
「やっほー、見てたよ。文弥くん。さっき話してた女の子たちの中に彼女いるの?」
「いえ、あの三人は友達です」
平然と答える文弥。
「そんなんだ。でも、文弥くん、モテるんだね。ふふ」
「まあ、鍛えているので、これくらいは持てますね」
文弥は手に持っている、段ボール箱の束を結菜にアピールした。
「いや、『その持てる』じゃないから。女の子にモテるんだね」
「僕はモテませんよ。それにモテたとしても、彼女いますし」
「ふーん、彼女一筋なんだね。愛されてて羨ましいな」
「はい、寝取られ愛は永遠なんで」
文弥は狂ったような瞳を浮かべると、どこか歪な笑顔を見せた。
『えっ? 寝取られ愛って何? 私の聞き間違えだよね?』と結菜は思ったが、怖くて聞けなかった。
「それじゃ、品出しに行ってきます」
「……う、うん、頑張ってね」
顔を引きつらせる結菜をよそに、文弥はスキップをしながら、売場へと向かっていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
文弥がバイトに勤しんでる頃。
一馬と紬は高級フレンチのお店で、昼ご飯を堪能していた。
夏休みに入ってから、二人は頻繁に会うようになっていた。
「美味しい。うふふ」
紬の顔から思わず笑みがこぼれる。
「喜んでもらえて良かったよ。ここもよく来る店なんだ」
紬に喜んでもらえ、一馬は満足そうに微笑んだ。
「一馬くんが連れて行ってくれるお店は、いつも本当に美味しいよね」
紬は食事を食べ終えると、一馬に教えてもらった通りにナイフとフォークを揃えて皿の右側に置いた。
「まあ、気になる店は全てチェックしてるから
ね。そういえば、来月は紬の誕生日だろ? この前行った店を予約してあるから空けといてくれよな」
一馬はドヤ顔をして胸を張る。
「本当に! 嬉しい!」
紬はパアッと顔を明るくした。
「誕生日プレゼントは何がいい? 何か欲しいものあるか?」
「ネックレスとか欲しい」
紬は満面の笑みをして、間髪を入れずに答えた。
「わかった。良さそうなの探しとくよ」
「ありがとう。ふふ」
謎の声(流行りのパパ活?)
「今日はどうする? このままマンション帰るか?」
一馬は少し期待するような表情をする。
「あ、ごめんなさい。この後、ちょっと用事があるの」
紬は言葉とは裏腹に、全く悪びれる様子はない。
「そっか、わかった。そこまでタクシーで送ろうか?」
一馬はアプリで、タクシーを呼ぼうとスマホを手に取った。
「大丈夫。今日は電車で帰るから」
紬はニッコリと微笑み、やんわりと断った。
「遠慮しなくてもいいぞ」
「ううん、大丈夫だから」
「そっか、わかった」
一馬が納得すると、紬はテーブルの上に置いてあったスマホを手に取ると、文弥にメッセージを送った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
文弥はバイトを終えて駅前をブラブラしてから自宅に帰ると、アパートの前にはすでに紬が立っていた。
「お帰りなさい。文弥くん」
「紬。早いね。待たせちゃったかな?」
「……ううん、私が早く来ちゃっただけだから。無理言ってごめんね」
「いいよ。紬はいつも僕のために頑張ってくれてるからね」
紬を自分の部屋に招き入れると、彼女は待ちきれなかったとばかりに服を脱ぎ出した。
紬は一糸まとわぬ姿で、文弥に抱きつくと唇を重ね、激しく舌を絡めてきた。
それに応えるように、文弥は紬の胸を両手で優しく揉むと、もうすっかり尖った先端を指で繊細なタッチで愛撫する。
「……ん……うっ……ん……っ」
文弥の全てを把握しているような手付きに、紬は甘い吐息を漏らす。
文弥は首筋に軽く口づけをすると、小さく突起したモノを指で摘み優しく刺激を与えた。
「……ん……ん……うっ……っ」
紬はとろんとした瞳をして、再び唇を重ねてきた。
文弥の手が下半身の紬の秘部へと這うように伸びていく。
紬は久しぶりの文弥の指の感触とツボを得た愛撫に、快楽で脳を麻痺させていく。
「……あ……ん……んん……っ」
紬は耐えられず絶頂を迎え、腰から崩れ落ちた。
その後も二人はベッドになだれ込むと、紬は何度も何度も絶頂を迎え、享楽へと溺れていった。
一馬との行為には最初に比べればかなり感じてはいたが、まだ文弥とは比べ物にならず、彼女は定期的に彼に慰めてもらっていた。
文弥もすべてを受け入れ、毎回、淡々と彼女を慰める。
しかし、そこに愛などはどこにもない。
文弥にとっては、自分の欲望のために頑張る玩具の紬のガス抜きをしてるに過ぎない。
もちろん彼の股間はいつも何の反応もしめさない。
もう、この行為以外に、文弥が紬と二人きりで会うことはなくなっていた。
謎の声(……まだ夏なのに、すっかり冷えきってきたね)
満足した紬がシャワー浴びている間、文弥はぐっしょりと濡れたシーツを洗濯機に放り込んだ。
その後、紬を家まできちんと送り届けた文弥は、自分のアパートへに戻ると再びシャワーを浴びながら声を漏らした。
「寝取られる~♪ 寝取られる~♪ 彼女の全てを寝取らせてあげる~♪ それこそが真の寝取られ愛さ~♪ Ah~Ah~Ah~♪」
謎の声(だから、変な唄を熱唱するのやめてって……そのうち苦情がくるよ)
読んでくださりありがとうございました




