第1章第19話
文弥が図書館に顔を出さなくなって、今日で三日目の午後。
初音と心愛と千代の三人は、図書館のロビーにあるパブリックベンチに腰かけ、来るはずのない文弥を待っていた。
「ねえ、はつっち。何でふみっちは来なくなっちゃったの?」
千代が隣の初音に、不満そうに噛みつく。
「わからないよ。今日、朝迎えに行ったらもう文弥くんはいなかったし。聞いても何も教えてくれないの」
初音は不安そうに眉をひそめる。
文弥が何を隠してるのか見当もつかず、彼女はすっかり困惑していた。
「私、さっきメッセージ送ったんだけど、全然既読が付かないのよね」
心愛はスマホの画面を恨めしそうに見つめている。
文弥が姿を消して以来、ここはすっかりただの女子会に化していた。
まさか文弥が、別の場所で必死にバイトに励んでることなど、彼女たちの誰一人として夢にも思ってなかった。
「でも、ぶっちゃけどうなの? ふみっちとはつっちって?」
千代が優しい笑みを浮かべながら、隣に座る初音の顔を覗き込んできた。
「ど、どうなのって? どういう意味?」
激しく動揺する初音。
「ふみっちとつむっちが付き合ってるのは知ってるけど、はつっちにもまだチャンスあるっしょ?」
この三日の女子会経て、文弥と紬の関係を知った千代だったが、一馬と紬の間に横たわる歪な関係にはまだ気づいていない。
「わ、私と文弥くんはただの友達だし!」
必死にに否定してみせるものの、初音は顔を真っ赤にし、どこか嬉しそうな気配が隠しきれていない。
「ふーん、それでいいの? はつっちは?」
「わ、私は紬とも友達だし……」
千代の直球な追及に、初音はたじろぐ。
「そんなの関係ないっしょ。恋愛は弱肉強食、早い者勝ちの戦いなんだよ、はつっち!」
「うん、そうよね……。私も、負けてられないわ」
千代の言葉に感化されたのか、心愛が胸の前で手をギュッとグーにして闘志を燃やす表情を見せた。
謎の声(……君は空回りしそうだから、いったん落ち着こう)
「うん、ここっちも頑張って」
千代は優しい笑みを浮かべて、心愛を見つめる。
文弥の居ないところで、完全に女子会に様変わりしていたのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
今日はバイトが休みだったのだが、母親から忘れ物を届けて欲しいと電話があり、文弥は母親が勤める病院へと忘れ物を届けにいった。
その帰り、今日は欲しかった本の発売日だということを思い出し、駅前のビルの中にある本屋に急いで向かった。
彼が買おうとしていたのはライトノベル、『君のおっぱいを揉みほぐしたい』。
乳がんで乳房を失った彼女の人工乳房を作るため、ブレスト・ケアアーチストになった彼氏が奮闘する感動の物語だ。
決していやらしい物語ではない。
すると、見知った顔が、何か難しそうな顔をして本を物色しているのを見かけたので文弥は声をかけた。
「ちよっち。こんなところで何してるの?」
「あ、ふみっちじゃん。ここは私の地元だよ。にひひっ」
千代は人懐っこい笑みを浮かべている。
「そうだったんだ。知らなかったよ」
「あっ、それより! 何で図書館に来ないの?」
千代は怖い顔をして文弥を睨みつけるが、小動物が威嚇しているようで、ちっとも怖くない。
「ちょっとやむを得ぬ事情があってね」
文弥は真剣な表情で、遠くを見つめる。
「何それ? めっちゃ気になるんですけど! にひひっ」
千代の表情が、一転してコロコロした笑みへと戻った。
「それより、何か本探してるの?」
「うん、英語の参考書を買いたいと思ってるんだけど……どれがいいかわからなくて」
文弥は迷うことなく、棚からさっと一冊の参考書を手に取った。
「なら、これおすすめだよ。わかりやすいし」
「え? 本当? なら、これにしよう。あはは」
本を手渡された千代は嬉しそうに微笑み、参考書を胸に大事そうに抱く。
その後、文弥もお目当ての『君のおっぱいを揉みほぐしたい』を買い、千代と一緒に本屋を出て歩いていたら見知らぬギャルたちが近寄ってきた。
ギャルA「あっれ~! 千代じゃない?」
ギャルB「本当だ! 全然違うんで気づかなかったよ」
突然、千代の顔が真っ青になると、体が小刻みに震えだした。
そして、逃げるように文弥の背中へと隠れてしまった。
「ちよっち? 知り合いなの?」
文弥は心配そうに千代を見つめる。
「…………」
千代は無言のまま、ただ子犬のように震えている。
ギャルB「この可愛い顔した人は誰? まさか千代の彼氏じゃないよね?」
ギャルA「本当に変わったよね? 中学の時にはただの地味なデブだったのに。 何、高校デビューってやつ?」
ギャルB「本当、高校デビューとか痛いよね~!」
千代は怖いのか、涙を浮かべながら震えている。
彼女は中学の時には、ぽっちゃりしていて地味な女の子だった。
そんな自分を変えたいと、ダイエットをし、ギャルメークを勉強して今の理想の自分になっていたのだ。
やり取りに見かねた文弥が、動き出した。
「あの? ちよっちのお知り合いですか?」
文弥はギャルたちに詰め寄る。
ギャルA「ちよっち? 何それ? そこの痛い子とは中学の同級生だけど」
「痛い子?」
文弥の中の何かが弾ける音がした。
ギャルA「その子の中学時代知ってるの? ただの陰キャのデブだったんだよ。高校デビューなんて痛いじゃん」
千代を馬鹿にしたように、嘲笑するギャル二人。
「別に何歳からデビューしてもいいんじゃないですかね? 大器晩成って言葉もありますし、何歳でも努力してチャレンジすることはいいことだと思います!」
謎の声(いいこと言うね)
ギャルAとB「「……えっ?」」
「僕は例え結婚して、子供がいる四十代のおじさんでも、プロのミュージシャンを目指してもいいと思います!」
謎の声(いや、それは全力でやめるように説得した方がいい事案だよ!)
ギャルB「……も、もう、帰ろう」
ギャルA「……う、うん、そうだね」
ギャルたちは文弥の謎の気迫に圧されて、その場をそそくさと去っていった。
「あ、ありがとう。ふみっち」
「え? 別に気にすることないよ」
文弥はまだ震えている、千代の肩にポンッと手をそっと乗せた。
千代は頬を赤く染めると、モジモジしながら文弥を見つめる。
「ふみっちって優しいよね。モテるわけだね。にひひっ」
文弥を見つめる千代の瞳が、何か愛しいものを見る瞳に変わった。
「僕はモテないよ。からかうのはやめてよ。ははっ」
あっけらかんとしている文弥。
あくまでもブレない彼だった。
謎の声(まあ、優しいと言うより思いきりぶっ飛んでるだけだよね)
その後、少し千代が心配だった文弥は彼女を駅まで送って行くと、帰路へとついた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
文弥が千代を送っていた頃。
一馬と紬は生まれたままの姿で彼ののマンションの窓から、広がる夕景を眺めていた。
もちろん、事を終えた後だった。
「夕日が綺麗だね。一馬くん」
紬は窓の外を嬉しそうに見つめている。
「そうか? 見慣れちゃったからあまり感じないわ」
紬の笑顔に、一馬は優しい笑みで応える
「お金持ちは言うことが違うね。ふふ」
一馬の肩に甘えるように、頭を乗せる紬。
「紬は甘えん坊だな。ははっ」
一馬は紬の頭をそっと撫でた。
「ねえ、もう一回しない?」
「いいよ」
相変わらずキスはしないが、再び情事を繰り返す一馬と紬。
まるで、本当の恋人同士のように、お互いの体を求め合った。
性欲を満たした二人は、ベッドの上でピロトークを始める。
「今夜も泊まっていくんだろ? 夕飯何食べる? デリバリー頼むけど、ジャンクフード飽きたから寿司でも食べる?」
「うん、お寿司食べたい」
一馬はスマホを手に取り、慣れた手付きでパパッと注文した。
寿司が届くまで、一馬と紬は一緒にシャワーを浴びた。
二人は寝取られ動画とは関係なく、度々情事を楽しむようになっていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
家に帰った文弥は机に向かっていた。
勉強を終えると、寝取られ動画という名の芸術作品を鑑賞する。
謎の声(いや、芸術作品とはほど遠いからね)
かなり良くなってきたのだが、寝取られ愛には新しいスパイスが欲しいと文弥は感じていた。
謎の声(何目線なの?)
『赤ちゃんプレイとかどうだろうか?』と思ったがこれは違うなと文弥はすぐに気づいた。
謎の声(寝取られ関係なくなってるからね)
文弥はノートパソコンを立ち上げると、これからの寝取られについて細かな案の作成に夜中まで費やした。
謎の声(時間はもっと他のことに使おう)
読んでくださりありがとうございました




