第1章第18話
花火大会当日。
アパートの古びたインターホンが鳴り響く。
文弥が玄関のドアを開けると、浴衣を着た初音が笑みを浮かべて立っていた。
「一緒に行こうかと思って、来ちゃった。うふ」
「浴衣可愛いね。凄く似合ってるよ」
何の躊躇いもなく、浴衣を褒める文弥。
「え? あ、ありがとう。嬉しいなぁ。えへへ」
初音は熟れた林檎のように、顔を真っ赤にしていた。
Tシャツとデニム姿の文弥は初音とともに、待ち合わせの場所へと向かった。
駅前の像の前に着くと、浴衣を着た心愛一人で待っていた。
「遅いわよ! 待ちくたびれちゃったじゃない!」
みんなで遊びに行くことを楽しみにしていた心愛は、二人の姿を見つけると、とても嬉しいそうに駆け寄ってきた。
「ごめんなさい……って、ここっちが早く来すぎでしょ」
『まだ待ち合わせ時間の十五分前なんだけど……そんなに楽しみにしてたのかと……』と思いつつ文弥はツッコミを入れた。
「遅れて、ごめんなさい……」
初音も文弥につられて少し頭を下げる。
「うふふっ、そうだったわね」
ずっとぼっちだった心愛は友達と遊びに行けることが心から楽しみで、テンションが上がっていた。
謎の声「良かったね。友達できて」
少しすると、ギャルメークをバッチリ決めた浴衣姿の千代が現れた。
「みんな、早いねぇ。私が一番乗りだと思ったのに」
千代はコロコロと人懐っこい笑みを浮かべている。
「あとは瀬名くんと紬待ちだね」
初音がスマホの画面で時間を確認しながら、ぽつりと言った。
少しすると、普段着の一馬と浴衣姿の紬が一緒にやって来た。
「わりぃ、待たせちゃったかな」
「待たせて、ごめんなさい」
申し訳なさそうに、両手を合わせる二人。
全員揃ったので、5人は目的地に向かうため電車へと乗り込んだ。
電車に揺られ、花火大会が行われる最寄りの駅へと到着すると、五人は花火大会が開催される河川敷へと歩いていった。
会場に着くと、一馬が用意していた有料チケットをみんなに配り、五人は入場ゲートへと向かった。
そして、五人は設置されていた、パイプ椅子へと腰を落とした。
文弥の隣には初音と心愛が座り、心愛の隣には千代が座った。
一馬と紬は少し離れた、ペアシートへと腰かけた。
「ねえ、いいの? 文弥くん」
「何がだい?」
初音が心配そうに小声で文弥に尋ねたが、彼はきょとんとした顔をしていた。
「紬と瀬名くんがカップルシートに座ってるんだけど」
「まあ、寝取られてるからね。普通じゃないの」
文弥は全く気にしてなさそうに、無邪気な笑みを浮かべている。
「……ふ、普通なのかな」
初音は小首を傾げて、不思議そうな顔をしている。
謎の声(彼女にこんなに無関心で付き合ってるって言えるの?)
「どうしたの? 二人とも」
二人の様子を見た心愛が、心配そうに声をかけてきた。
「何でもないよ。ここっち」
満面の笑みを浮かべて、心愛に答える文弥。
「あっ、始まるみたいだよ」
千代がみんなに声をかけると、空を見上げた。
爆音とともに次々と花火が打ち上げられる。
それはまさに、夜空にたくさんの花が咲き乱れるようだった。
「……本当に綺麗ね」
「ここっちの浴衣姿も綺麗だけどね」
「こ、こういう場面で言うのは反則よ! 文弥くん」
心愛は顔を真っ赤に染めて照れている
「ふみっち、私は?」
「ちよっちも綺麗だよ」
「……えっ? あ、ありがとう」
耳まで真っ赤にして、俯く千代。
千代も意外とチョロかった。
「…………」
初音がジト目をして文弥を睨んでいる。
初音の視線に気づいた文弥が、初音の頭にポンと優しく手を置いた。
「初音は可愛い系だから。ははっ」
「……あ、ありがとう」
自分で誘っといて、顔を真っ赤にして照れる初音。
クライマックスの大きな打ち上げ花火も終わり、文弥たちは一馬と紬とも合流して五人で電車に乗り帰路へとついた。
みんな各々の最寄りの駅で降りていき、残ったのは文弥と初音と千代だけだった。
そして、千代と別れを告げ、文弥と初音も電車を降りた。
初音を送って行く途中の、人通りの少ない閑静な住宅街を二人は歩いていく。
「花火。綺麗だったね」
「そうだね。行って良かったよ」
「また来年も一緒に行きたいな。文弥くんと……」
最後は『二人で』と言いたかったが、初音は恥ずかしくて言えなかった。
「うん、一緒に行こうね」
「紬は一馬と一緒に手前の駅で、降りていっちゃたね」
「一馬くんのマンションに行くんだと思うよ。ふふっ」
文弥の瞳が異様などす黒い光を放ち始め、狂った笑みを浮かべている。
「ど、どうしたの? 文弥くん」
「今夜は花火以上に、楽しいものが見れるかもしれないと思ってね」
今夜は寝取られ動画が送られてくると、文弥は一馬と紬の様子を見て確信していた。
「そ、そうなんだ」
初音は文弥が何を言ってるのかわからず、ただ彼の狂った瞳を見つめるだけだった。
初音をマンションまで送り届けると、妖艶な月の光を浴びながら文弥は自宅へと帰っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
自宅へ帰った文弥は自分の部屋で、机に向かって勉強をしていた。
もう、すっかり深夜になっていた。
その時──机の上のスマホのバイブ音が鳴り響く。
文弥は一瞬ニヤリと不気味に口角を上げると、スマホの画面を確認する。
期待した通り、一馬からの新作寝取られ動画が届いていた。
文弥は胸を躍らせながら、さっそく動画を再生する。
画面には浴衣姿の紬を愛撫する、一馬が映し出されていた。
「今夜は浴衣プレイか! 素晴らしい!」
謎の声(……アホみたいなこと深夜に叫ばないで。近所迷惑だよ)
丁寧に紬の胸を愛撫する動画を見ながら、文弥の股間は徐々に膨張していく。
紬も最初の頃とは、別人じゃないかと思うほど快楽に溺れた顔をしていた。
それを見た文弥は欲情を抑えきれず、はち切れんばかりに膨張した股間に手を伸ばす。
浴衣を着崩したまま、重なり合う二人を見て文弥は狂喜乱舞していた。
彼は欲望の打ち上げ花火を、何度も何度も打ち上げるのであった。
謎の声(なにそれ?)
◇◇◇◇◇◇◇◇
花火大会から数日が過ぎたある日。
文弥は図書館には行かず、スーパーのバックヤードにいた。
近所のスーパーで、短期バイトを始めたのだ。
隠れ家だった図書館が巨乳とポンコツとギャルに占拠されてしまったため、夏休みの残りの時間はバイトに費やそうと決めたのだった。
謎の声(名前で呼ぼうね)
それに来月は紬の誕生日があるので、プレゼントを買う資金を貯めるためでもあった。
「秋月くん。これお願いね」
「了解です」
先輩店員のお姉さんに指示され、段ボールを店内へ運び品出しをする文弥。
元来の真面目な性格がここでも発揮され、初日から即戦力になっていた。
お昼休憩になり、休憩室で弁当を食べていた。
「文弥くん。お弁当なんだ? お母さんが作ってくれたの?」
隣に座っている先輩店員の佐々木結菜が、弁当を覗き込んできた。
結菜はウルフカットが似合う元気なお姉さんって、感じの大学生だった。
「いえ、自分で作ってきました」
「うそ! 自分で! 凄いね!」
「たいしたことではないですよ。昨日の晩御飯の残り物もありますし」
「そうなの? でも、美味しそうだね。エビフライとか」
「良かったらおひとつどうぞ」
「え? いいの? ありがとう」
「凄い美味しいよ」
「ありがとうございます。お口に合って良かったです」
「今日からバイト始めたんでしょ? 何か欲しいものでもあるの?」
「いえ、僕は特には欲しいものはないです。半分は家計の足しに母に渡すのと、残りは彼女の誕生日プレゼントと後は貯金します」
「へー、彼女いるんだ。青春だね。羨ましいなぁ」
「結菜先輩は彼氏いないんですか?」
プライベートのことを、何も考えずずけずけと聞く文弥。
「うん、今はいないよ」
「意外ですね。結菜先輩、綺麗なのに」
文弥は無垢な瞳で、結菜を見つめる。
「あ、ありがとう。何か照るなぁ」
「照れてる姿は可愛いですね」
何の下心もなく、さらっと口にする文弥。
「も、もう、年上をからかっちゃダメだよ。はは」
結菜はほんのり顔を赤く染めていた。
楽しいお昼休憩が終わると、文弥は再び仕事に戻るのであった。
謎の声(お仕事頑張って)
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