第1章第16話
次の日の午後。
文弥は、お気に入りの隠れ家とも言える居心地の良い図書館のロビーで、束の間の休息を楽しんでいた。
隣には心愛がニコニコ笑みを浮かべ、ちょこんと座っている。
夏休みに入ってから、すっかり見慣れてしまった光景だった。
そんな中、図書館内をうろうろしていた派手な金髪白ギャルが、文弥の存在に気づいて近づいてきた。
「あっれ~? ふみっちじゃん?」
ギャルは文弥の隣に腰を落とすと、満面の笑みを浮かべていた。
「あれ? 同じクラスの葛城さんだよね」
文弥は白ギャルとあまり話したことはないが、クラスメイトの名前と顔は全員把握している。
「こんなところで奇遇だね」
「ど、どなたかしら? 文弥くん」
コロコロと笑う白ギャルに対し、隣の心愛は顔を引きつらせ、あからさまに警戒感を露にしていた。
「あ、ふみっちのクラスメイトの葛城千代です(かつらぎ・ちよ)。やっほー、よろしくね」
千代は当たり前のように、文弥の隣に腰を下ろした。
謎の声(見た目と違い思いっきり古風な名前だね)
「……に、二年の浅井心愛です。よろしく。賑やかな方ね」
ずっとぼっちだった心愛にとって、ギャルは天敵とも言っていい苦手なタイプだ。
「先輩ですか~、ここっち先輩ってめっちゃ綺麗ですね」
「え? あ、ありがとう。ピュレ◯食べる?」
褒められた途端、心愛はパッと嬉しそうな笑顔になり、カバンから取り出したグミを千代に手渡した。
あまりにもチョロすぎる。
「わあ、あざまる水産」
千代は邪気のない笑顔でお礼を言った。
「ちよっちは図書館で何してるの?」
心愛とは対照的に、速攻でギャルのノリに順応する文弥。
「ちよっちって、まじウケるんだけど。図書館なんだから勉強に決まってるしょ。にひひっ」
千代の手には、難しそうな分厚い参考書が握られていた。
「えっ? ギャルなのに勉強するの?」
文弥は目を大きく見開いた。
「当たり前でしょ。 ギャルを何だと思ってるの?」
人懐っこい笑顔でニコニコしている千代に、文弥は悪びれもなく言い放つ。
「うーん、傲慢で派手な格好をしている、身勝手な露出狂かな?」
文弥はギャルにも大きな偏見を持っていた。
「全国のギャルに喧嘩を売ってんの?」
ひどい偏見と暴言を吐かれても、千代はニコニコと笑みを絶やさない。
謎の声(何か今までにないタイプの子が出てきたね)
「文弥くん。そろそろ勉強に戻りましょう」
いつもの休憩時間が終わったため、心愛が文弥に声をかける。
すると、千代が無邪気な様子で首を傾げた。
「あのさ? ふみっちとここっち先輩って付き合っちゃってる系ですか?」
「そ、そんなじゃないわよ! 今はまだ!」
心愛は赤面して、激しく動揺する。
謎の声(『今はまだ』なんて言ったら、気持ちバレバレでしょ……ポンコツが……)
「ふーん、そうなんすか。ふみっち、私も一緒に勉強していいかな?」
何か含みのある笑みを見せる千代。
「別に構わないよ。いいですよね? ビッチ先輩」
文弥は心愛に無邪気な笑みを浮かべて、禁断のワードを告げる。
「……えっ? ビッチ先輩?」
ずっと笑顔だった千代から、初めて笑みが消えた。
「ね、ねえ! 文弥くん! いつになったら、その呼び方やめてくれるの!」
心愛が声を張り上げて懇願するが、当の文弥には届かなかった。
その後、三人で勉強をすることになったものの──千代の頭の中で『ビッチ先輩』という衝撃のフレーズがずっとモヤモヤと残り続けていたのだった。
千代には心愛のことがビッチには全然見えず、むしろそういう経験なんてなさそうに見えたからだ。
謎の声(さすが、ギャル。鋭いね)
◇◇◇◇◇◇◇◇
別荘から帰った次の日の午後、紬は一馬と一緒に洋服を買いにファッションビルに来ていた。
寝取られ動画の撮影以外にも、二人はプライベートでこっそり会うようになっていたのだ。
「ありがとう。一馬くん。こんなに服をたくさん買ってくれて」
にっこりと満面の笑みを浮かべる紬。
「気にすんなよ。それくらい紬のためなら安いもんだよ」
紬のとても嬉しそうな笑顔を見て、満足気に微笑む一馬。
謎の声(二人の時は名前呼びになってたのね)
「もうお昼だね。どうする?」
「行きつけのイタリアンのレストランを予約してあるから、大丈夫だ」
二人はタクシーに乗ると、細い路地裏にある一見パッと見は民家のような隠れ家的なイタリアン店へと入っていった。
向かいあって座り、次々と出てくるコースメニューを堪能する。
「私、こんなオシャレなレストランで食事したの初めてだよ。連れて来てくれてありがとう。一馬くん」
「焼き肉ばっかりだとアレだからな。たまにはいいだろう?」
「うん、凄い美味しい」
紬は料理を食べながら、目を輝かせる。
「喜んでもらえて良かったよ」
美味しそうに食べる紬を見て、一馬は頬を緩める。
そして、微笑みながら見つめ合う二人。
謎の声(……付き合ってるの?)
食事を終え、店を出ると一馬の住むマンションに向かうためタクシーに乗り込んだ。
「……ねえ、この後はどうする? 動画撮る?」
頬を真っ赤にそめる紬。
「いや、昨日、別荘でしたばかりだろ」
「でも、動画は撮ってないよね。文弥くんに送らないと」
「そうだな。マンションで少し休憩したら撮るか」
「……うん」
紬は頬をさらに赤く染め、嬉しそうな笑みを浮かべる。
マンションの前にタクシーが横付けして停車すると、二人はエントランスへと消えていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
部屋に入り、二人はそのままベッドへともつれ込んだ──事を終えた二人は、ベッドの上で生まれたままの姿で横たわっていた。
「今日も良かったよ。一馬くん。ふふ」
一馬の腕に抱かれながら、紬ははにかんだ笑みを浮かべる。
「そ、そっか、それなら良かったよ」
照れくさそうに鼻をかく一馬。
「照れてるの? 可愛いね。ふふ」
意地悪な瞳で一馬を見つめる紬。
「そ、そんなじゃねえよ」
一馬は頬を赤らめる。
「意外と可愛いところあるよね。一馬くん。ふふふ」
「……紬の方が可愛いよ」
一馬はボソッと呟いた。
「え? 何? 何て言ったの?」
一馬の声が聞き取れなかった紬は、興味津々の笑みを浮かべ問いただす。
「な、何でもねえよ!」
照れてまた一馬は頬を赤く染めた。
謎の声(何このシャインマスカットより甘い雰囲気は……)
◇◇◇◇◇◇◇◇
図書館から帰ってきた、文弥はシャワー浴びていた。
シャワーを浴び終えると、文弥は母親のために夕飯の準備を始める。
慣れた手付きでハンバーグの肉だねを小判型に整えると、フライパンに乗せて焼き始める。
明日は母親の仕事は休みなので、今夜は二人でゆっくり食事ができる。
文弥はハンバーグの表面に美味しそうな焼き色がつき始めると、ターナーで器用にひっくり返した。
出来上がったハンバーグを見て、満足そうに文弥が微笑んでいると、仕事を終えた母親が帰ってきた。
「ただいま。美味しそうな匂いがするわね。文弥」
夕食をテーブルに運んでいる文弥を見ながら、優しく微笑む
「お帰りなさい。母さん」
文弥は母親と向かい合って腰を落とし、夕飯を食べ始めた。
「ねえ、文弥。最近、紬ちゃん全然うちに来ないけど、もしかして、別れたの?」
「紬とは別れてないよ。今も付き合ってるよ」
「……そうなの? てっきり別れたのかと思って」
「何で? そう思うの?」
「……言いにくいんだけど、実は紬ちゃんの家の近くで、知らない男の子と彼女がタクシーから降りてくるところを見ちゃったのよ」
文弥の住むアパートから紬の家は近く、母親は仕事の帰りにたまたま二人を見かけたのだった。
「大丈夫だよ。多分、それは僕の友達だから」
「そ、そうなの? でも、見たの一度だけではないのよね」
「心配ないから大丈夫だよ。母さん」
「そう、あなたがそういうなら大丈夫なのね。ふふ」
そうは言って微笑んだが、実は母親は気が気ではなかった。
文弥の瞳が狂おしいほど、淀んだ不気味な輝きを放っていたからだ。
夕飯を終え、文弥は自分の部屋に入ると、ポケットの中のスマホが震えだした。
すぐにスマホを取り出して、画面を確認する。
そこには一馬からの動画が届いていた。
文弥は口元を歪め、張り付いたような笑みを浮かべる。
「新作が来たか……ははっ」
文弥は急いで部屋に入り、狂った瞳で動画を確認する。
映し出されたのは一馬と紬がお互いを大切にする、文弥が求めていた耽美な性行為。
文弥は興奮を抑えられず、膨張する股間を握りしめ満足いくまで狂喜した。
謎の声(……ちょっと怖いんですけど)
読んでくださりありがとうございました




