第1章第14話
夜になると、都会では見れない夏の満天の星が輝いていた。
文弥たちは別荘の庭でバーベキューを満喫すると、みんなでリビングのソファに腰掛け映画を観てくつろいでいた。
「やっぱり、夏はホラー映画だよな」
一馬がソファでふんぞり返りながら笑っているが、その足は小刻みに震えていた。
文弥たちが観ていたのは、ヒッ◯コック監督の名作サ◯コ。
「この映画面白いね。ははっ」
文弥はギラギラした瞳で、どこか狂喜を孕んだ笑みを浮かべながら画面を観つめていた。
謎の声(……君が言うと本当に怖いから)
「こ、怖いです……文弥くん」
初音が肩を震わせながら、ギュッと文弥の右手を握る。
「……こ、これくらいそんなたいしたことないわよ」
強がりの言葉とは裏腹に、真っ青な顔した心愛が反対側の手を握りしめた。
「……ふ、文弥くん」
顔面蒼白の初音は文弥の肩に頭を乗せ、たわわに実った胸を彼の腕に強く押し付ける。
「……こ、こんなの子供だましよ」
体を震わせながら、文弥の胸に顔をうずめる心愛。
「ち、ちょっと苦しいんだけど……」
六人がけの広いソファなのに、身を寄せる三人。
もはや二人とも映画を観てないだろうと思いながらも、文弥はじっとして耐えていた。
「二人とも。私が文弥くんの彼女なんだけど!? 何してるの!? そもそも何でどさくさに紛れて両隣に座ってるわけ?」
紬の切実なツッコミは完全にスルーされ、そのまま映画鑑賞は続くのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
次の日。
今日も五人は海に遊びに来ていた。
相変わらず文弥はハイテンションで、泳ぎながらはしゃいでいた。
文弥がまた小さな物体を手に持ち、一馬の元へと泳ぎ寄る。
「見て見て! 一馬くん! 珍しいの見つけたよ! ほら! アンボイナガイ!」
「危険生物を素手で触るなって! 刺されたら下手すりゃ死ぬぞ! 早く遠くに放り投げろ!」
「えっ? そんなことしたらかわいそうだよ」
文弥は元いた岩の隙間に、アンボイナガイをそっと置くと再び跳ねるように泳ぎだした。
謎の声(※アンボイナガイはハブガイと言われるほどの猛毒を持っているイモガイの仲間です。危険ですので素手で触るのはやめましょう)
「だから、バタフライはやめろ!」
一馬の声は、バシャバシャと文弥の泳ぐ音に掻き消されていった。
そんな中、沖に見える小さな島まで五人全員で競争しようということになった。
優勝した人の言うことを負けた人たちは一つだけ聞くという罰ゲームを一馬が提案をすると、文弥たちもそれを受けることにした。
一馬の『GO』という掛け声とともに、競争がスタートした。
見事なスタートダシュを決め、後続を突き放す文弥。
文弥に何とか食らい付いて行こうと頑張る初音。
だいぶ離されてしまった一馬。
手と足を一生懸命ジタバタとバタつかせるが、全く進まない紬。
綺麗なフォームなのに、手足が滑っているのか一向に前に進まない心愛。
もう完全に出来レースだった。
謎の声(……ポンコツがもう一人増えたね)
どんどん突き放し、断トツで文弥がゴールした。
文弥は岩場に座り島に上がって、みんなが来るのを待っている。
かなり遅れて初音が、島にやって来た。
島に上がると、初音は文弥の隣の岩場に腰を下ろした。
「はあはあ……文弥くん……相変わらずめちゃくちゃ速いね」
豊満な胸を前後させながら、初音は息を整えている。
「初音も速かったよ。他の人たちはまだ遠くにいるし、当分来そうもないね」
「……し、しばらく二人きり……ブフォ」
文弥と二人きりなのが嬉しくて、初音から変な声が出た。
「今、変な声しなかった?」
「き、気のせいだよ」
「初音って昔はもっと速くなかった? やっぱり大きな胸が邪魔してるのかな?」
無自覚にセクハラをする文弥。
「そうなんだ。胸が浮くからバランス取るのが大変だし、水の抵抗も増えるんだよね」
好きな人の言葉なので、初音は嫌がるどころか照れくさそうに答えている。
「ふーん、大変なんだね」
「あ、あの、文弥くんは胸の大きな女の子って嫌いかな?」
初音は少し俯いて、ゆでダコのように顔を真っ赤にしている。
「嫌いじゃないよ。まあ、胸の大きさ関係なく、初音のことは好きだけどね」
「ブフォフォッフォー」
好きという言葉に反応してしまい、初音からさっきよりも変な声が出てしまった。
「今、変な鳴き声しなかった?」
「……わ、私には聞こえなかったな」
二人がそんなやりとりをしていると、一馬が島に到着した。
「……ぜえぜえ……二人ともめちゃくちゃ速いな……浅井さん……胸大きいのに泳ぐの速いんだね」
「瀬名くん! それはセクハラですよ! 気持ち悪い!」
「ご、ごめんなさい」
初音の物凄い剣幕に、思わず謝る一馬だった。
その後、ポンコツ二人組が辿り着くのを待っていたら日が暮れそうなので、文弥の優勝でこのレースは幕を閉じた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
夜になり、晩御飯を食べ終わると別荘の庭で花火を始めた。
派手な打ち上げ花火、手持ち花火を楽しんだ後、最後に線香花火を楽しんだのだが、文弥が束になった線香花火に一気に火をつけた。
「見て見て! 綺麗だね!」
「いや、そうやって楽しむものではないから」
一馬が苦笑する。
「え? そうなの?」
文弥はどこか抜けていた。
「1本づつやって、情緒を楽しむものだぞ」
一馬が指摘すると、文弥は線香花火を1本手に取り火をつけた。
「ふふ、綺麗だね」
心愛が文弥の隣に腰を落とすと、線香花火を見つめる。
「そうですね。でも、ビッチ先輩の方が綺麗ですけどね」
何の屈託もない笑みこぼす文弥。
「……え? そ、そ、そ、そういうことさらって言わないでくれる」
顔を真っ赤にして激しく動揺する心愛、彼女のチョロさは健在だった。
「あ、ビッチ先輩。髪にゴミが付いてますよ」
文弥は心愛にぐいっと顔を近付けた。
「ひゃっ、ち、近いから」
テキーラでも大量に呑んだのかと思うほど、心愛は顔を茹で上がらせている。
謎の声(この子、こんなんでどうやって奪い取る気なの?)
「取れましたよ。ははっ」
無邪気な笑みを浮かべると、再び線香花火に火をつけた。
「あ、ありがとう」
心愛は照れくさそうに、お礼を言うと嬉しそうに微笑んだ。
「何か線香花火を見てるとおちつきますよね」
「線香花火にはリラックス効果があるらしいわよ」
「へー、そうなんですね。僕はビッチ先輩見てても落ち着きますけどね。リラックス効果あるのですかね?」
「だ、だから、そういうことさらって言わないで!」
あくまでもチョロい心愛。
「そこ! 何いい雰囲気になってるんですか! 文弥くんは私の彼氏ですよ!」
紬がすかさず割って入る。
「べ、別に少し話してただけじゃない」
紬が文弥のもう片側に腰かけると、彼の腕に自分の腕を絡ませた。
「紬。そんな怒らないで、仲良く花火しようよ」
「はーい」
しばらく線香花火で心をリラックスさせた五人は、ラストの締めである一番大きな六十連射の打ち上げ花火に火をつけようとしていた。
一馬がライターを手に、フィナーレである花火の導火線に火を点けた。
チリチリっと火が点いたのを確認すると、一馬はすかさず離れてみんなの元へと駆け寄る。
五人は連発の打ち上げ花火を見ながら、この旅行の余韻を惜しんでいた。
謎の声(みんな、いい思い出になるね)
やがて、数十秒の連射を全て終わり、この旅行のクライマックスは終了した。
五人は花火をに水をかけ、全て回収していた。
すると、初音が空を見ながら指を指した。
「今日も星が綺麗だね」
他の四人も空を見上げ、都会では見れない星を満喫していた。
謎の声(今までにない爽やかな展開だね)
「そういえば昼間の罰ゲームどうするだ? 文弥?」
一馬が隣で星を眺めている文弥に尋ねた。
「うーん、どうしようかな?」
「わ、私は何でもするよ。 ふふ」
初音はモジモジしながら、文弥を見つめる。
「わ、私も何でもいいわよ」
言葉とは裏腹に、顔を真っ赤に染める心愛。
「私だって! 何でもやるから!」
気合いの入った紬。
「まあ、一馬くんと紬にしてもらうことはもう決まってるんだけどね」
「「えっ?」」
悪い予感しかしない一馬と紬は、顔を青く染める。
「楽しみだなぁ」
宝石を散りばめたような星の明かりを見つめながら、文弥は狂おしいほどの狂喜の瞳を浮かべ微笑んでいた。
(……爽やかな空気が台無しだね)
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